岡村靖幸×松江哲明『おこだわり』特別対談 岡村「ドキュメンタリー作家には“運”もすごく必要」

岡村靖幸 × 松江哲明『おこだわり』対談

 松岡茉優と伊藤沙莉が本人役で出演したフェイクドキュメンタリードラマ『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』(テレビ東京)のBlu-ray & DVD BOXが、8月2日にハピネットより発売された。本作は、清野とおるによるコミック『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』を題材に、松岡茉優と伊藤沙莉が「他人にはなかなか理解できないけれど、本人は幸せになれるこだわりをもった人=“おこだわり人(びと)”」へ突撃取材する模様を、虚実の入り混じった視点から切り取った意欲的なドラマで、最終的に松岡茉優が大ファンであるモーニング娘。'16に加入してパフォーマンスを披露したことも、大きな話題となった。リアルサウンド映画部では、本作の監督を務めたドキュメンタリー作家・松江哲明と、大のドキュメンタリー映像ファンとして知られるシンガーソングライターダンサー・岡村靖幸の対談を企画。“フェイクドキュメンタリー”という手法の奥深さや、BOXならではの特典の面白さについて、大いに語り合ってもらった。(メイン写真:左、岡村靖幸。右、松江哲明)

岡村「こういう企画ができるのは今、松江さんのほかにいない」

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【左から】松岡茉優、伊藤沙莉

ーー岡村さんは、ドキュメンタリー映像の熱心なファンとしても知られています。『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』は“フェイクドキュメンタリードラマ”という珍しい作風ですが、これをどのように捉えましたか。

岡村靖幸(以下、岡村):松江さんが山下敦弘監督とタッグを組んで、同じくテレビ東京にて放送していた『山田孝之の東京都北区赤羽』(2015年)の流れを汲んだ作品だと思っています。超有名な俳優さんを起用して、こういう企画ができるのは今、松江さんのほかにいないですよね。

松江哲明(以下、松江):ありがとうございます。僕にとって前回の『赤羽』は“ドキュメンタリードラマ”で、今回の『おこだわり』は“フェイクドキュメンタリードラマ”なので、流れを汲んではいるものの、アプローチは異なっているんですよ。

岡村:そうなんですよね。『赤羽』の時も僕は山田さんに取材をして、松江さんにも話を聞いたんだけど、どこまでが本当でどこからが嘘かは、ふたりとも「ノーコメントです」って言ってました。でも、今回の『おこだわり』では、全部どこまでが本当でどこからが嘘か、後から全部わかるようになっている。DVD&Blu-ray BOXには特典映像が付いていて、ビジュアルコメンタリーやオーディオコメンタリーで、どこまでが松江さんが仕掛けたことで、なにがアドリブなのかもしっかり解説されている。だから、テレビ版を観ていた人にとって、ちゃんと購入して観る意味のある作品になっているんですよ。

松江:『赤羽』は、山田孝之が本当に赤羽に住んで、あの人たちと出会った記録を編集したドキュメンタリードラマなんです。だから今回は、“これは嘘だよ”って先に言っちゃうことによって、フェイクだからこそ行ける領域に達したかった。松岡茉優さんが最終的にモーニング娘。’16に加入することが最初から決まっていて、でも絶対にそうは思えないような形で伏線を張っておいたり、第6話からは演出もガラリと変えて、伊藤沙莉さんのナレーションも急にシリアスにしたり。フェイクドキュメンタリーはここまで出来るってことに、一度挑戦してみたかったんですよ。

岡村:それはすごく感じましたし、フェイクドキュメンタリーという手法そのものについても考えさせられました。たとえばアメリカのフェイクドキュメンタリーで、『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年)ってあったじゃないですか。ホアキン・フェニックスが俳優をやめて、ラッパーになって迷走するっていうストーリーなんですけど、ただただ生々しいものを見せられてる印象だったんですよね。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』もそうだけれど、フェイクドキュメンタリーはあくまでドキュメンタリーに見せかけたフィクションであって、基本的にはシナリオからなにからすべて作り込まれているものだと思っていたんです。ところが『おこだわり』の特典映像を見ると、全然違う方法論で作られていることがわかる。シナリオの中でこういう風にするっていう決まりはあるけれど、それ以上に監督が出演者たちに色々と仕掛けて追い込むことで、生々しい場面を作り上げているんです。だから、松岡さんがモー娘。に入るために練習するシーンで、彼女が流している涙は本物だったりするわけで。言ってみれば、作られた部分と本当のドキュメンタリーが混在していて、出演者たちもギリギリのところで演技をしているんですよね。特典のコメンタリーを観ることで、その虚実の境が見えるのも、フェイクドキュメンタリーならではの面白さだと感じました。

松江:どちらかというと僕らが狙ったのは、サシャ・バロン・コーエンの『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』(2006年)や『ブルーノ』(2009年)のような作品で、ある設定を与えられた人が、素人と交わる時に出てくる生身のリアクションを撮りたかったんです。あれこそが僕の考えるフェイクドキュメンタリーで、試合の内容は書いてあるけれども、それがどう展開するかは書いてないプロレスみたいな感じなんです。

岡村:まさにプロレスですよね。ドキュメントなんだけど、枠が決まっていてちゃんとエンターテイメントしているっていう。また、あの二人がめちゃくちゃアドリブが上手いのも、すごく大きいんでしょうね。そもそも、なぜ彼女たちを主演にしたのですか?

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『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』第1話 場面写真

松江:脚本家の竹村さんが、松岡茉優さんとテレビ番組で一緒にバラエティーをやった時に、彼女のアドリブがすごいって言っていたんですよね。僕自身も松岡さんと一年半くらいWOWOWの映画紹介をする番組を一緒にやっていて、彼女の面白さは知っていたから、いつか一緒になにかを作りたいとは考えていました。その後、竹村さんから「松岡さんでなにか企画できない?」ってお話をいただいて、じゃあ清野とおるさんの『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』をやったら面白んじゃないかって話になったんです。だから、まずは松岡さんありきで始まった企画ですね。

岡村:なるほど、松岡さんがブレイクしているから主演にしようじゃなくて、彼女のもともとの素質があって企画がスタートしているんですね。では、伊藤沙莉さんは?

松江:松岡さんに、うまく掛け合いができるリアルな友人がいるか聞いてみたら、伊藤さんの名前が挙がってきたんです。実際にやってみたら、二人のやりとりは台本よりもずっと面白くて。当初はナレーションも入る予定がなかったんですけれど、伊藤さんなら『情熱大陸』みたいな客観的な視点でナレーションをやってもらっても成立するだろうと。彼女は自分が出演しながら、仕掛け人のひとりにもなれるんですよ。結局、おたがいどういうことを言われたらイラっとするかとか、逆にグッとくるかとか、彼女たち自身が一番よく知っていますから。

岡村:なるほど。最初からふたりの関係性があったからこその企画なんですね。

松江:そうなんです。だから、番組の中でやってることはほぼノンフィクションですね。ふたりのやりとりにはお芝居がないというか。ふたりは本当にカラオケが好きだし、歌っている曲も彼女たち自身が決めています。生の感情が出る演出はどんどん現場で採用していますね。だから、やっていることは有り得ないことだけれど、そのときの感情はリアルなんですよ。もし本当のドキュメンタリーだったら、逆にここまでのリアクションを撮ることはできなかったはずです。

岡村:あの二人が出来る人だからこそ、与えられた中で最高のパフォーマンスを披露できたのでしょうけれど、でも“おこだわり後遺症”があるって言ってましたね。他の現場行っても、『おこだわり』みたいにしちゃうって。カメラが止まっても演技しちゃうし、台本を変えて喋っちゃう癖がついたって。

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『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』第3話 場面写真

松江:ふたりで会ってる時に、どこかにカメラあるんじゃないかってビクビクしたりもしたみたいです(笑)。もちろん、さすがにそんなことまではしないけれど、観る人が本当だと思ってしまう映像が撮れる自信はありましたね。フェイクって宣言することで、全部芝居なんでしょって穿った見方をされても、芝居に見えないようにするというか。彼女たちの涙とか、抱き合っているシーンとか、本物ですからね。

岡村:買った人には、是非オーディオコメンタリーも特典も全部観て欲しいですね。ここにはこんな駆け引きがあったんだとか、ここは現場もピリピリしていたんだなとか、改めてドキュメンタリーとして2度3度楽しむことができる。フェイクドキュメンタリーという手法と、それを解説するのがセットでコンテンツになってる感じは、新しいですよね。

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