松本潤主演『99.9』最終話に向けてーー事件に隠された“0.1%の真実”は解明されるのか
『99.9 刑事専門弁護士』の第9話は、大手鉄道グループの会長宅で起きた殺人事件を軸に、遺産相続をめぐる一族の争いが潜んでいるという、クラシカルなミステリー作品になっていた。もちろん作り手側もそれを意識してか、劇中には『犬神家の一族』を彷彿とさせる水面から足だけが出た写真が登場したり、『獄門島』を思い出させるヌエの鳴き声など、ミステリーの金字塔である横溝正史の「金田一耕助シリーズ」へのオマージュを捧げている。
とはいえ、せっかく第7話と第8話でサスペンスへと方向転換を遂げたのに、最終回のひとつ前で再び「依頼人は無実」で「真犯人を解き明かす」というミステリーに戻ってしまったことはあまり歓迎できない。何故なら、ドラマ終盤に入り、これまで溜めに溜めてきた深山(松本潤)と大友検事正(奥田瑛二)との確執や、そこに斑目(岸部一徳)も交えた、このドラマの根本を明かすという最大のミステリー要素が徐々に明かされるからであって、そこに単発の謎が入り混じると、せっかくの真相がぼやけてしまいかねないのだ。
案の定、今回の第9話ではメインプロットである殺人事件の影で、検察の思惑が描かれる。第5話と第6話で描かれた18年前の資産家令嬢殺人事件の真相が解明されたことで、当時の担当だった十条検事長(中丸新将)を引きずり下ろすことに成功した大友。次の検事長のポストを狙っていた矢先に、第8話での深山の誤認逮捕があり、上層部からの追及を逃れるために深山の事件の担当検事を解任に追い込むのだ。
最終回に備えるにあたり、ここまでで明かされている深山と大友、そして斑目との関係性を整理しておく必要がある。23年前に深山の父・大介(首藤康之)が殺人容疑で逮捕・起訴される。その後、無実が証明されないまま獄中死を遂げたということが第8話で明かされた。その事件と、三者との結びつきが重要になってくる。
もちろん深山は被告人の息子として深く関わりがあり、斑目は学生時代に深山の父とラグビー部の仲間だということまでは判明している。そして第9話のラストで、その時の担当検事が大友であったことが明かされたのだ。しかも、その大友と斑目は司法修習時代の同窓生。大友と二人の間にはそれぞれ因縁があるということが窺える。
第9話の劇中で、斑目が検察庁を訪れ、大友と対話する場面が登場する。「十人の真犯人を逃すとも、一人の無垢を罰するなかれ」という弁護士の基本理念を向ける斑目に対して大友は、一般感情は「一人の無垢を罰しても、十人の凶悪犯を野に放すことなかれ」であると、真っ向から対立した姿勢を見せる。それこそが、大友ら検察の「正義」であり、対して斑目は「信念」で刑事事件チームを作ったことを告白する。深山の父の事件のような冤罪を生まないために、徹底的に事実を洗うことを目的としているということだ。
また、深山が自ら斑目に、自分を引き入れた理由を問うクライマックスで、「弁護士としての才能が半分で、残りの半分は……何だろうな」とはぐらかされる。斑目が深山を引き入れた明確な理由は、最終話までお預けということだろうか。深山が弁護士として、刑事事件を専門に扱うようになった理由については、はっきりと明かされていないが、父親の事件を受けてのこととみて間違いはなさそうだ。そうなると、深山も斑目も、深山の父の事件に隠された0.1%の真実を解明することが、最大の命題ということだろう。
最終話では、別の連続殺人事件が描かれるとのこと。その事件が、23年前の事件と何か関係があるのか。それとも検察の冤罪体質を明かし、再審請求に漕ぎ着けるのか。いずれにしてもあと1話でそれを描ききるには、かなり急ぎ足になってしまうかもしれない。そういえば、深山の父の弁護人を誰が務めていたのか、それもまだ明かされていないのである。
■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter
■ドラマ情報
『99.9−刑事専門弁護士−』
出演:松本潤、香川照之、榮倉奈々ほか
脚本:宇田学
トリック監修:蒔田光治
プロデュース:瀬戸口克陽、佐野亜裕美
演出:木村ひさし、金子文紀、岡本伸吾
製作著作:TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/999tbs/