『マッドマックス』は“カーアクション”をどう変えた? 『アウトバーン』に見るその進化

『アウトバーン』のカーアクションを考察

 「脚本を読んだ時に確信したんだ。これはアドレナリン満載の最高のアクション映画になるってね」

 敏腕プロデューサーのジョエル・シルバーをしてそう語らせる本作『アウトバーン』が、米英に先駆けていよいよ日本公開。いま注目度うなぎのぼりのニコラス・ホルトを主演に、フェリシティ・ジョーンズ、アンソニー・ホプキンス、ベン・キングスレーなど一筋縄ではいかないキャラクターたちが脇を固める中、銃撃戦あり、格闘あり、そして最大の見せ場となるカーアクションありの、まさに手に汗にぎる迫真の快作に仕上がっている。

 カーアクションで言えば、昨年は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』がこのジャンルの文法を全て書き換えるかのような勢いを見せた。そしてその中のウォーボーイズとして、白塗りの身体に狂気と純情をみなぎらせ激走したのが英国人俳優ニコラス・ホルト。そんな彼が今度はメイクを洗い落とし、190センチの長身を駆使した全身全霊のアクションに挑むわけだが、そうなると本作は、ある意味『マッド』以降のカーアクションとしての「試金石」と言っても過言ではないだろう。果たしてその真価やいかにーー。

 実は、ホルト自身、自らを“Petro-head”と表現するほどのカーマニアなのだとか。英国の人気番組『トップギア』ではその華麗なテクニックを披露したこともある。『マッドマックス』で凄まじいばかりの改造車に囲まれて過ごした彼が、今度は自分自身の主演映画の中で思いっきりアクセルを踏み込む。これは役者としても、クルマ好きとしても夢にまで見た瞬間だったに違いない。

 ちなみに本作の撮影は2014年5月に始まった。スタッフにとってホルトが『マッドマックス』の撮影現場(2012年に実施。2013年には追加撮影あり)で目撃したこと、培った経験は大いなる興味関心の対象だったはずだ。その結果、きっと彼らは、ホルトを媒介としてカーアクションの文法が今まさに更新されようとしている空気を肌身に感じたことだろう。

場面ごとに異なる高級車がシークエンスを牽引

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 『マッドマックス』でも実に様々なタイプの改造車が轟音を響かせ、場面ごとに全く異なった走行性と機能性で観客を魅了した。その意味では『アウトバーン』にも共通するところがある。

 もちろんここに登場するのは改造車ではない。ジャガーXF、シトロエン、メルセデスAMGをはじめ、ヨーロッパを代表する高級車ばかり。面白いことに、本作ではこれらの車種をまるで一つのキャラクターのように捉え、機能や走行性を十二分に活かした演出や展開が構築されている。

 敵のアジトから急発進で脱出したり、石畳の狭い路地を爆走したり、敵の車に体当たりして弾き飛ばすなど、そのアクションのあり方は多種多様だが、それにふさわしい車がチョイスされ、まさにフィクションの中にもリアリティが詰まった動きを見せつける。逆に言うと、車好きの方なら、登場する車をもとにこれから巻き起こるアクションを予想することも可能かもしれない。

できるだけ実写にこだわった体感的アクション

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 今の時代、アクション映画のすべてに何らかのCG処理が加わっている。そうでなければ成立しないと諦める向きもある。しかしそんな中でも出来る限り実写で挑むという志は、自ずとリアルな迫力として観客に伝わっていくもの。思えば我々が『マッドマックス』に激しく魂を突き動かされた理由もそこにあった。

 『アウトバーン』は決して大作ではないながらも、一瞬一瞬のカースタントに込められた誠意は映像のダイナミズムとなって、観客にえも言われぬ高揚感をもたらしてくれる。各々の車種、場所、状況を分析した上での緻密なアクション構成。追って、逃げる、は当然のこと。車同士が格闘し、スピンし、転倒し、大破していく、その一挙手一投足の描き方すら見どころと言える。

 さらにカーアクションを捉えるカメラの位置も重要で、ドライバーの表情によぎる一瞬のためらいや恐怖を捉えるのはもちろん、地面スレスレの位置でタイヤの動きを活写したり、走行する車両を上空から捉えるなど、多様なアングルを駆使して臨場感あふれる走行性のリズムを体感させてくれる。ここにもカーアクションとしての言いようのないカタルシスがある。

アウトバーンという大舞台を描く

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 カーアクションにおいて重要となるのが“動線”だ。『マッドマックス』では延々と拡がる砂漠地帯をカーニバルのごとき大集団が爆走し、そして同じ道を回帰するというシンプルさが一つの世界観を形成した。「道なき道」を突き進む彼らの姿は、文明崩壊後の時代性を象徴する上でも的確な要素となりえるものだった。

 となると、本作においてはやはり“アウトバーン”が何たるかを知らずして本作の魅力は理解できまい。クラフトワークによる音楽史に残るアルバム名としても知られるが、もともとこれはドイツ、オーストリア、そしてスイスに跨る高速道路のこと。最大の特徴といえば混雑部分を除けば法的な速度制限がいっさい設けられていないことに尽きる。つまり、秩序の中の無秩序。絵空事ではなくマジにいくらでもスピードをブッ飛ばしていいというわけだ。カーアクション映画にとってこれほどの天国が他にあろうか。

 その大舞台「アウトバーン」に差し掛かるのが、上映開始から50分が経過した頃。ハリウッドの超大作映画ではないので決して贅沢なアクション映像が無尽蔵に展開されるわけではないが、少なくとも筆者には、本編最大の見せ場となるこのシークエンスで自分たちの出来ることを精一杯にやりきろうとする作り手たちの熱意が伝わってきた。

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