成馬零一の直球ドラマ評論『とと姉ちゃん』六週目
『とと姉ちゃん』見事な展開となった第六週 祖母と母の和解はどう描かれた?
川に落ちて溺れた美子を助けるために常子が川に飛び込む場面では、常子が飛び込んだ後、周囲で働いていた職人たちも一世に川に飛び込む。本作では、子どもたちの背後にはいつも大人がいて、彼女たちを見守っている。実は滝子と君子の関係もそうで、大きな嘘はそのまま子どもを見守る親の愛情と同義のものとして描かれている。逆に言うなら、美子が溺れたのは、滝子から突き放された美子が孤立して一人で遊んでいたからで、大人の注意が途切れた瞬間に起きた事故だったと言える。
祖母と母の諍いが娘たちに危険を及ぼすという負の連鎖は、女の一代記を描き続けてきた朝ドラでは、物語を進める際の大きな推進力となってきたのだが、それをたった六週で片付けてしまったことには、改めて驚かされる。
第36話のナレーションでは、「常子の少女時代は終わりを告げようとしていました」と語られる。家族の呪縛から解放された常子は、今後どのような進路を選ぶのか。彼女自身の物語は、まだ始まっていない。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■番組情報
『とと姉ちゃん』
平成28年4月4日(月)〜10月1日(土)全156回(予定)
【NHK総合】(月〜土)午前8時〜8時15分
[再]午後0時45分〜1時ほか
公式サイト:http://www.nhk.or.jp/totone-chan/