芳根京子、『いつ恋』最後のキーパーソンに選ばれた理由 二面性を持つキャラと演技力に迫る

 ついに最終回を迎えた月9ドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』。先週放送された第9話の終盤で、曽田練(高良健吾)と会う約束をした杉原音(有村架純)は、ひったくりに荷物を奪われた少女と出会う。その少女は奈良県から上京してきたばかりで、音はかつて東京に初めて来た頃の自分を重ね合わせて、彼女に手を貸すのである。その少女、明日香を演じているのは先月19歳になったばかりの女優・芳根京子である。

 これまでも、昨年夏に放送されていたドラマ『表参道高校合唱部!』(参考:芳根京子は大女優の器か? 隠れた名作『表参道高校合唱部!』に見る可能性)、秋に公開された映画『先輩と彼女』(参考:芳根京子と志尊淳が演じる、理想のカップル 『先輩と彼女』に見る若手俳優の躍進とは)と、彼女に注目してきた筆者が、若手女優の中でもトップクラスの実力を持つ彼女の2016年の飛躍について改めて分析したいと思う。

 この『いつ恋』で彼女が演じた明日香というキャラクターについて、本作のプロデューサーである村瀬健は、「主人公の未来を左右することになる重要な人物」であり「とてつもなく難しいキャスティングであった」と表現した。それだけ重要な役を芳根京子に託した理由として、彼女の経験値と演技力に加え、「“強さとかれんさ”、“明るさとけなげさ”という両極端な二面を感じさせる」と期待を込めてオファーしたのだと語っている。(出典:『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』公式サイトより)では、第9話での彼女の出演シーンを振り返ってみよう。

 人通りの多い街の中で、自分の荷物をひったくった青年を探している登場シーンから、典型的な“田舎くさい”ファッションでかなり画面中に浮いて見える。有村架純演じる音に話しかけられると、コテコテの奈良弁を発し、音と共に交番を探す。その途中でひったくり犯の青年を探し、見つけた青年が、自分から奪った金で質素な食料を買って食べているのを見た彼女は、一瞬で青年に同情するような表情を見せる。それを見ていた周囲のサラリーマン風の若い男たちが、青年を警察に突き出そうとするのを制止しようとするが、聞き入れてもらえず、逃げ出した青年を追いかけ始める。そこで、音が階段から転倒してしまうところでこの回は幕を閉じたのである。

 わずか3分少々の出演シーンではあるが、このドラマではヒロイン・杉原音と、回想で登場する音の母親以外では初めての関西訛りのキャラクターである。音がシンパシーを感じるという描写を表現する上で、単に田舎から出てきたということ以上に重要な要素であると思える。さらに、「ひったくりに遭う」というくだりは、第1話で坂口健太郎演じる晴太にカバンを置き引きされ、それがきっかけで練と出会ったことも思い出させるのだ。

 「原価200円の奇跡のブレスレット」を東京で売るんだと言って、助けてもらったお礼として音にそのブレスレットをあげる場面があるのだが、クライマックスで音が階段から転げ落ちる際に散らばった荷物の中で、象徴的にそのブレスレットが映し出されたときには、これが何か最終回の鍵となるのでは、と予感させた。しかし、こちらの予想外のストーリーテリングをするのが坂元裕二脚本のにくいところだ。

 明日香というキャラクターはあくまでも最終回で訪れる結末へと繋がる転機を演出するための役柄に過ぎず、最終回では序盤の10分ほどしか登場しないのである。病院に遅れて駆けつけ、ひったくりの少年を庇うための証言を求めようとするが、音が意識不明の状態だと知らされ、悲しい表情を見せる。もっとも、ここで下手に涙を見せることなく、自動販売機で買ったお茶を差し出してくれた練にしっかりと事情を話すところは、脇役として主人公たちを巧みに引き立てる好演技である。CMが明けると、彼女は少年とともに練の運送会社までお礼を持ってやってくるのだが、そこで彼女の登場シーンは終わる。おそらく、二人もまた、練と音が紡いだような恋物語を展開していくことになるのだろうか。そんな期待をしてしまう。

 これまで彼女の演技力を感じさせてきたのは、飛んだり跳ねたり走ったりといったモーションの激しさであったが、今回のドラマでは走るシーンこそあるが、スローモーションの演出をかけられて、その効果は相殺されてしまっている。しかしその分、第9話で交番に向かうために音と並んで歩く引きのショットで、内股気味でかなりぎこちなく歩いている姿といった、キャラクターの些細な心理状態を表す演技であったり、初めて挑む奈良弁のセリフ回しなどに注力されていることで、彼女の演技の方法論は着実に増えているのだと思える。

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