『いつ恋』最終回はどこに向かう? 坂元裕二が第九話で描ききれなかった物語

 杉原音(有村架純)は井吹朝陽(西島隆弘)のプロポーズを受けようと思い、曽田練(高良健吾)のことを諦めようとしていた。練に別れを告げるために会う約束をした日。音は街で鞄を盗まれて困っている明日香(芳根京子)と出会う。ひったくり犯はすぐに見つかり、穏便に済まそうとする明日香だったが、ひったくり犯を捕まえようとする男たちが押し寄せて大混乱となり、騒動に巻き込まれた音は階段から転落。意識を失い病院に運び込まれる。

 『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(以下、『いつ恋』)の第二章は、第一章(一話~五話)を裏返したような話となっており、かつての音のような地方から出てきた少女・明日香を筆頭に、第9話には既視感の有る場面が次々と登場する。第一章は、音から見た練への想いをタイトルに集約させていたが、おそらく最終話は逆に、練の音への想いを「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」と語らせることで幕を閉じるのではないかと思われる。

「私はさ。東京生まれで、元々田舎もないし、よくわからないんだけどさ。故郷っていうのはさ。思い出のことなんじゃない。そう考えればさ。帰る場所なんていくらでもあるし、これからもできるってこと」

 柿谷運送の社長・柿谷嘉美(松田美由紀)は故郷の会津に「行ってくる」と言った練に対して「帰るでしょ」と言い、この台詞を言うのだが、『いつ恋』で描かれる恋心自体、失われた故郷を思う気持ちのようなものなのだろう。

 失われた思い出の中の故郷。それは朝陽にとっては昔の自分だ。ジャーナリスト時代に知り合った弁護士と朝陽は再会する。弁護士から朝陽が書いた記事のおかげで医療訴訟に勝てたことを感謝していると言われて朝陽は昔の自分のことを振り返る。このシーンの朝陽の表情が実にすばらしい。5年前とは別人のように変わってしまったかのように見えた朝陽だが、彼の中では、過去の自分に戻りたいという気持ちと、父の征二郎(小日向文世)に褒められるために非道な仕事をしている自分との間で揺れていたのだ。この辺り、前作『問題のあるレストラン』(フジテレビ系)では中々描けなかった内面描写である。繊細な内面を持った青年が少しずつ変わっていく自分の姿に悩みながらも、愛する人を守るために変わることを選ぶ姿を見せることで、鈍感で無神経にみえる男たちにも、朝陽のような時代があったのだという補助線を引くことに成功している。

 その他にも、練と音の間を取り持とうとする日向木穂子(高畑充希)が音と仲良くなっている様子など、今まで同様、面白い場面は多い。しかし、音が意識不明の重体となる最後の展開には、少しげんなりしてしまった。野次馬的たちが正義感から泥棒を追いかける姿をSNSの炎上のようなものとして描きたい意図はわかるのだが、どうにも物語上の都合が優勢された不自然な場面に見えた。

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