荻野洋一の『母よ、』評:痛覚にうったえかける、最も現代的な映画

『母よ、』が突きつけるストレス

 本作はフランスの映画雑誌「カイエ・デュ・シネマ」誌選出によるベストテンの1位を獲得した。「カイエ・デュ・シネマ」はゴダール、トリュフォー、ロメール、リヴェットら若手の映画評論家が1950年代から健筆を振るい、やがて彼らが映画作家としてデビューし、ヌーヴェルヴァーグ運動の温床となった伝説的な映画雑誌である。ナンニ・モレッティに対する「カイエ・デュ・シネマ」の支持は一貫して熱く、『親愛なる日記』(1993)、『息子の部屋』(2001)に次いで3度目の1位獲得である。

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 筆者自身、「カイエ・デュ・シネマ」の日本版(1990〜2001)の編集委員をつとめていたという浅からぬ縁もあって、「カイエ」1位作品ということで本作の試写にいささか鼻息荒く駆けつけたのだが、本作はそんな筆者の鼻息の滑稽さをも包み込み、人間的な、あまりにも人間的な、ストレスと感情のもつれ合いを力強く、いっさいの無駄なく、画面に焼きつけていた。

■荻野洋一
番組等映像作品の構成・演出業、映画評論家。WOWOW『リーガ・エスパニョーラ』の演出ほか、テレビ番組等を多数手がける。また、雑誌「NOBODY」「映画芸術」「エスクァイア」「スタジオボイス」等に映画評論を寄稿。元「カイエ・デュ・シネマ・ジャポン」編集委員。1996年から2014年まで横浜国立大学で「映画論」講義を受け持った。現在、日本映画プロフェッショナル大賞の選考委員もつとめる。(ブログTwitter

■公開情報
『母よ、』
3月12日(土)、Bunkamuraル・シネマ、新宿シネマカリテほかにて全国公開
監督:ナンニ・モレッティ
出演:マルゲリータ・ブイ、ジョン・タトゥーロ、ナンニ・モレッティ
(c) Sacher Film . Fandango . Le Pacte . ARTE France Cinéma 2015
配給:キノフィルムズ
公式サイト:http://www.hahayo-movie.com/

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