綾瀬はるか、極限に置かれた男女の「生」にどう挑む? 『わたしを離さないで』の意図

 以前、「本作には、大きな“ネタバレ”が含まれている」と書いたけれど(参考:『いつかこの恋を〜』『わたしを離さないで』『家族ノカタチ』……2016年1月期注目の連ドラは?)、今回の連続ドラマ版は、その「ネタバレ」部分を、初回からいきなり明示してみせたのだった(冒頭の綾瀬はるかのシーンも含めて)。まどろっこしいので端的に言うけれど、この物語は、臓器移植のために作られた、クローン人間たちの青春群像劇なのだ。いつか誰かに臓器を提供し、やがて死を迎えるという「宿命」を負った者たちの、切実な「生」の物語。原作者であるカズオ・イシグロは言う。「短い人生のなかで避けられない死に直面したときに何が重要なのか。そういうテーマについて書きたいと思いました」。とはいえ、その「ネタバレ」部分……特殊な状況設定が徐々に明らかとなってゆくところが、原作小説の何よりの醍醐味のひとつだったはず。マーク・ロマネク監督の映画版も、その「謎解き」の部分に関しては、かなり慎重に取り扱っていた記憶がある。にもかかわらず、それを初回から大胆に提示してしまうとは、いったいどういうことなのだろう。そこには、今回のドラマ制作スタッフの明確な意図があるような気がしてならない。

 そこで、はたと気づいたことがある。コメディエンヌではなく、どこか影のあるシリアスな雰囲気を持った綾瀬はるかを主演としたTBSドラマであること、その脚本を担当しているのが森下佳子であること……そう、この作品は、イシグロの人気小説のドラマ化である以前に、2004年のドラマ『世界の中心で、愛をさけぶ』(原作:片山恭一)、2006年のドラマ『白夜行』(原作:東野圭吾)という綾瀬×森下作品の第三弾という、大きな流れのなかに位置する作品なのだ。原作のエッセンスを凝縮しながら、それを大胆に翻案し、ある「宿命」を負った男女の切実な「生」を、シリアス&サスペンスフルに描き出してみせること。初回の状況説明は、本作の「肝」が、その「謎解き」ではなく、極限状態に置かれた男女の「生」をリアルに描くことにあるという、制作者側からのメッセージなのかもしれない。その意味でも、綾瀬、三浦、水川という3人の役者が相対する場面が注目されるのだが……初回の最後になってようやく登場した水川を含め、同じ運命を共有する彼女たち3人の「希望」と「絶望」、そして「愛憎」の物語が描き出されるのは、次回以降に持ち越しとのこと。普通ではない使命を持った、普通ではない男女の宿命の物語は、果たして普通の人々の心の琴線に触れることができるのだろうか? 引き続き注目したい。

■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「CUT」、「ROCKIN’ON JAPAN」誌の編集を経てフリーランス。映画、音楽、その他諸々について、あちらこちらに書いてます。

■ドラマ情報
『わたしを離さないで』
毎週金曜日22時〜TBS系で放送中
出演:綾瀬はるか、三浦春馬、水川あさみ、鈴木梨央、中川翼、瑞城さくら、ほか
原作:「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ
脚本:森下佳子
音楽:やまだ豊
プロデュース:渡瀬暁彦、飯田和孝
演出:吉田健、山本剛義、平川雄一朗
製作著作:TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/never-let-me-go/

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