年末企画:麦倉正樹の「2015年 年間ベスト映画TOP10」
1. アメリカン・ドリーマー 理想の代償
2. はじまりのうた
3. インヒアレント・ヴァイス
4. マッドマックス 怒りのデス・ロード
5. ナイトクローラー
6. 薄氷の殺人
7. フォックスキャッチャー
8. 彼は秘密の女ともだち
9. 岸辺の旅
10. Mommy/マミー
「マッドマックス」と「スター・ウォーズ」と「ロッキー」の新作が公開されるという、実に不思議な年となった2015年。それらの作品も含めて、映画の“イベント化”、“アトラクション化”といったことが、しばし語られるようになった昨今だが、いざベストを選ぶ段になると、やはり映画というのは、あくまでも個人的な体験であるといった思いもあり、上記のようなリストとなった。
『アメリカン・ドリーマー』、『ナイトクローラー』、『フォックスキャッチャー』の3本は、アメリカの“闇”を、勧善懲悪とは違う、極限の人間ドラマとして描き出している点に、とにかく痺れた。いずれも明るい映画ではないけれど。その一方で、『はじまりのうた』、惜しくも選外としたが『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』、『マイ・インターン』といった“明るい”作品も生み出してしまうあたりが、アメリカ映画の懐の深さであり、凄みなのだろう。アルトマンの正統な後継者然としたルックを持つ、PTAの『インヒアレント・ヴァイス』も良かった。『フォースの覚醒』、『クリード』も面白かった。やはり今年も、アメリカ映画無双と言わざるをえない。
それ以外の国では、『薄氷の殺人』のディアオ・イーナン、『私の少女』のチョン・ジュリといった新しい監督が気になった。カナダの新鋭グザヴィエ・ドランも、今回の『Mommy/マミー』は、かなり楽しめた。邦画は、是枝裕和、塚本晋也、黒沢清、橋口亮輔といったベテランが、いずれも期待に違わぬクオリティの作品を送り出す一方、若手の躍進という意味では、やや物足りなさが残った。
最後、恐らく誰も選出しないと思われるので、フランソワ・オゾンの『彼は秘密の女ともだち』について少しだけ。いわゆる「セクシュアリティ」の問題を扱い続けているオゾンだが、今回は「ゲイ」ではなく「クロスドレッサー(異性装者)」を物語の中心に据えている点を改めて注視したい。「性的マイノリティをどう描くか」ではなく、「さまざまなセクシュアリティを持った人々と、どのように関係性を結んでゆくべきなのか」。『キャロル』、『リリーのすべて』といった映画が公開待機中である現在、このあたりの論点は今後ますます重要になっていくだろう。その意味も含めて今回選出した。
参考:近年の「フランス映画」で異彩放つフランソワ・オゾン 『彼は秘密の女ともだち』の哲学的含意とは?
■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「CUT」、「ROCKIN’ON JAPAN」誌の編集を経てフリーランス。映画、音楽、その他諸々について、あちらこちらに書いてます。
■作品情報
『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』
2016年3月2日(水)DVD発売
監督・脚本:J・C・チャンダー
出演:オスカー・アイザック、ジェシカ・チャステイン、デヴィッド・オイェロウォ、アレッサンドロ・ニヴォラ、アルバート・ブルックス
発売・販売元:ギャガ
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