『爆裂都市』から『ソレダケ』へーー石井岳龍監督が再びロック映画に向かった理由

石井岳龍監督がロック映画を語る

「今ある技術を使ってスピリットをどう形にするかが問題」

20160116-ishii-06th.jpg
『ソレダケ/that's it』より

ーー監督は以前あるインタビューで「『爆裂都市』当時はビデオなどなかったから、後に残ることなどまったく考えていなかった」とおっしゃってます。まさにライヴみたいな映画で、その場のエネルギーの燃焼みたいなものが大事だったと思うんですが、『ソレダケ』は当然ビデオ化されて残ることが前提になっている。そうなることで、何か作り方は変わってきたんでしょうか。

石井:そうですね。相当変わってると思いますね。編集も音もデジタルになってるんで、作り込もうと思ったら、時間さえあれば、かなりできる。昔はそういうことも難しかったんでね。上映フィルムにはゴミや傷が出るとか普通にあったし、もともと上映の時に揺れてますからね。そういう微妙なノイズと共にあったものなんです。でも作品を残すことを前提に作ると、そういうノイズを取り払って、たとえばスタジオ録音のCDみたいに、ライヴならではのスリルがなくなってしまう。なので私はスタジオ録音なんだけどライヴであるかのような、あるいはライヴなんだけどスタジオ録音であるかのような、音も絵も、スリルと緻密な完成度を両立させるように心がけてますね、常に。生々しくて迫力があるんだけど、でも丁寧に、繊細に、残るものだっていうことを意識して。その両立を図るのが、難しいけど非常に面白いんです。

ーー音楽の世界でもデジタル録音の発達で、大抵のミスは直せてしまうし、すごくきれいに録れる。でもそれで失われてしまうものもあるんじゃないか、という議論があります。

石井:まったくその通りですね。結局今ある技術を使ってスピリットをどう形にするかって問題なんですよ。アナログだろうがデジタルだろうが、表現としてどう使うか。そこが問われると思います。デジタルの方が、あとに残るということ、道具が均一だってことも含めて、より職人性が試されると思います。アーティスト性、職人性、情熱とかスピリットなどいろんなものが試されると思います。一目瞭然で誤魔化せないから。

ーー監督は神戸芸術工科大学で教鞭をとられてますよね。若い映画製作志望者に教える機会も多いと思うんですが、昔の自分に何を教えますか?

石井:いやあ…今回『爆裂都市』を見て、これはまずいと(笑)。やっちゃいけないことのオンパレードで(笑)。もう(学生に)言えないですよ(笑)。可哀想だなあ、ウチの生徒(笑)。

ーーなるほど(笑)。

石井:だから当時の自分に教えるとすれば、こういうことちゃんと知っていれば、もっといい映画が撮れたのに、という。要は「基本」ですね。

ーー技術的なことですか?

石井:いやスピリットも含めてですね。

ーー創作者としての心構え?

石井:心構えとかは教えられないと思うけど…映画って何だろうって一緒に考えるってことかな。大学で教えるようになってから、そういうことをすごく考えるようになりましたね。我流でやってたことを(学生に)伝えなきゃいけないので、一回自分のことを客観視しなきゃならない。自分の精神の問題、技術の問題、映画をどう捉えてるか。そういうことをまったく知らない第三者にどうやって伝えるか。そんなことに関してはものすごく慎重に考えましたし、大変でした。映画作りよりはるかに大変(笑)。

ーーそして、監督の最新作が『蜜のあわれ』(2016年公開予定)。室生犀星の小説が原作です。

石井:これ『ソレダケ』とはまったく違う、たぶん180度違う映画なんですけど(笑)。依頼があって作る作品なんですが、原作にびっくりしたんですよ。金魚の化身と老作家が話すだけのお話。そんなもの映画にしていいの?っていう。とにかく面白い映画にすることだけを考えました。そこにある種の自分のスピリットを込められるかどうか。

ーー一種のファンタジーかと思いますが、日常と非日常の接続というテーマは、監督のこれまでの作品と通底するような気がします。

石井:私にとって映画は起きている時に見る白昼夢みたいなもの。夢を見る事によって、見る人が自分の気になっているイヤなことや不安とか、そういうものが解消されればいいな、と思います。そのことを信じて、映画って面白いと思ってやってますから。観てる時も楽しいけど、観終わった後もずっと漢方薬みたいに効くね、という。昔からそういう映画に人生を救われてきたんで。自分もそういう映画を撮りたい。そういう思いだけですね。

(取材・文=小野島大)

■商品情報
『ソレダケ / that's it≪デストロイヤー・エディション≫(初回限定生産)』
映像特典満載、さらに劇場公開時の≪爆音3chバズーカ音響≫を再現する音声、出演者による音声解説、劇中登場のコミック「デストロイヤー」封入など、ファン必携の永久保存版。
出演:染谷将太、水野絵梨奈、渋川清彦、村上淳、綾野剛
監督:石井岳龍
楽曲:bloodthirsty butchers
脚本:いながききよたか
製作:『ソレダケ / that's it』製作委員会
発売:1月20日
価格:Blu-ray/¥5,800+税 DVD/¥4,800+税
発売元:キングレコード株式会社
収録時間:本編約110分+映像特典
(C)2015 soredake film partners. All Rights Reserved.

『ソレダケ / that's it』
出演:染谷将太、水野絵梨奈、渋川清彦、村上淳、綾野剛
監督:石井岳龍
楽曲:bloodthirsty butchers
脚本:いながききよたか
製作:『ソレダケ / that's it』製作委員会
発売:1月20日
価格:通常版DVD/¥3,800+税
発売元:キングレコード株式会社
収録時間:本編約110分
(C)2015 soredake film partners. All Rights Reserved.

『爆裂都市 BURST CITY』
出演:陣内孝則、鶴川仁美(ザ・ロッカーズ)、大江慎也、池畑潤二(ザ・ルースターズ)、 伊勢田勇人、町田町蔵、大林真由美、スターリン、 渡辺正行、ラサール石井、小宮孝泰(コント赤信号)、 麿赤児、戸井十月、上田馬之助、泉谷しげる
監督:石井聰亙
企画:戸井十月、泉谷しげる、石井聰亙
脚本:石井聰亙、秋田光彦
撮影:笠松則通
発売:発売中
価格:Blu-ray/¥4,700+税
販売:東映
発売:東映ビデオ
収録時間:本編 116 分
初回封入特典:縮小復刻 劇場公開時パンフレット
※初回封入特典は限定生産品です。在庫がなくなり次第、通常の仕様での販売となります。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる