『ディーン、君がいた瞬間(とき)』監督インタビュー
写真家・映画監督アントン・コービンが語るJ・ディーン そしてボノやプリンスとの思い出
U2に初めて会った頃、彼らの音楽はあまり好きじゃなかった
——アーティストから信頼を得るためのコツというのを、こっそり教えてもらえませんか? 自分も音楽ジャーナリストとして20年間仕事をしていますが、信頼関係を結ぶことができたアーティストもいれば、そうでなかったアーティストもたくさんいます(笑)。
コービン:まず、ジャーナリストとフォトグラファーでは、アーティストと結ぶ関係性の種類がまったく違うと思う。それはわかるよね?
——そうですね。わかります。
コービン:その上でアドバイスをするとしたら……うーん、でも、そういうのってとてもオーガニックなプロセスなんだよ。10人アーティストがいれば、10通りのプロセスがあるんだ。
——それもわかります。
コービン:フォトグラファーにとって、そのアーティストの作品を自分が好きかどうかはあまり関係ないんだ。U2のメンバーと初めて会った時、彼らの作品はその前に聴いていたけど、正直に言うと、あまり好きじゃなかった。だから、彼らとその後何十年にもわたってあんなに親しくなるとは、当時は夢にも思わなかったよ(笑)。
——それは衝撃的な告白ですね(笑)。
コービン:デペッシュ・モードにいたっては、はっきりと音楽的に嫌いだったからね(笑)。
——(爆笑)。
コービン:それでも、人間的にウマが合って、そこで撮った写真がアーティストにとっても納得できるものになると、次の機会へとつながっていく。そして、そうした仕事の関係が続いていくことでそこに信頼関係も生まれてくる。……でも、その過程に何か法則のようなものがあったかと言うと、アーティストによってまったく違っていたとしか言いようがないね。
——では、逆にまったく信頼関係を結ぶことができなかったアーティストやアクターというと、誰のことが思い浮かびますか?
コービン:プリンスかな(笑)。
——(笑)。
コービン:最初に会った時に大きな間違いを犯したので、もう二度と彼からは呼ばれなくなったよ。
——そのエピソード、詳しく教えてください!
コービン:撮影の前に自己紹介をすると、彼が僕の過去の作品を褒めてくれたんだ。でも、そこで彼が言っていた「僕の作品」は、他のフォトグラファーの作品だった。普通だったらそういう時は、相手の言葉を聞き流して「ありがとう」って言っておくべきなんだろうけど。
——まして、相手はプリンスです(笑)。
コービン:そう、まして相手はプリンスだ。でも、僕は思わず言ってしまったんだ。「あ、あの作品は自分が撮った作品じゃありませんよ」って。それで、すべてが終わったよ(笑)。オランダ人はバカ正直なことで有名なんだよ。そして、僕はすごくオランダ人的な性格の持ち主ときている。
——今日のここまでの発言からもわかります(笑)。
コービン:アメリカ人やイギリス人は「How Are You?」と挨拶されると、「Fine」と一言で返すだろ? でも、オランダ人はそう訊かれると、今の自分の体調や気分や悩みをとうとうと相手に話し始めるんだ。社交辞令というものが存在しない(笑)。その正直さが、時には相手と信頼関係を結ぶきっかけになるし、時にはそうして裏目に出ることがある。