なぜ『ナルコス』は数ある“麻薬モノ”の中で突出して面白いのか? 実録ゆえの説得力に迫る
熱い人間ドラマ、緊張感あふれるサスペンス、強烈なヴァイオレンス描写、そしてパブロと、バブロを追う者たち、さらにコロンビア政府にアメリカ政府と、さまざまな思惑が絡み合う濃密なストーリー…どれもが一級品だ。そして、こういった要素と、監督のジョゼ・パジーリャの演出手法が見事にマッチしている。ジョゼ監督は、ブラジルで記録的ヒットとなった傑作『エリートスクワッド』シリーズで知られる人物だ。緊張感のあるアクション描写もさることながら、元々ドキュメンタリー出身であり、情報整理の巧みさにも定評がある。事実、『エリートスクワッド』でも、人間ドラマ・アクション・サスペンスを描きつつ、スラム街の治安が悪化するシステムについて、極めて分かり易く説明するという離れ業をやってのけている。本作でも、ともすれば混乱しそうな複雑な物語を、ナレーションや、実際の映像を織り交ぜることによって、綺麗にまとめあげている。俯瞰視点からのナレーションで物語を語るのは、ドキュメンタリーの常とう手段であるし、これは『エリートスクワッド』でも見られた。まさにパジーリャの“得意技”だ。
近年は、ドラマ『ブレイキング・バッド』の大ヒットや、実際にメキシコで起きている麻薬戦争の影響によって、麻薬モノが増えている。しかし本作は、その中でも「実録」という強烈な個性と、その個性を最大限に活かす演出技術によって、一歩抜きんでた存在になっている。早くもシーズン2の制作が決定しており、今後はさらなるスケールアップと物語の加速は間違いない。数ある海外ドラマの中でも、注目作であると言えるだろう。
■加藤ヨシキ
ライター。1986年生まれ。暴力的な映画が主な守備範囲です。
『別冊映画秘宝 90年代狂い咲きVシネマ地獄』に記事を数本書いています。