『サンローラン』が描く、奇才にとらわれた男の人生ーー鮮烈な描写はなぜ生まれたか?

『サンローラン』鮮烈な作風の理由

 さらに、ボネロ監督が最も描きたがったサンローランの派手で退廃的な一面においては、パートナーであるピエール・ベルジュが神秘のベールでひた隠そうとしたであろう、奔放な性愛、日常から逃れるために溺れていったドラッグ、生涯苛まれ続けた精神の病をもあますことなく表現し、ストーリーはより鮮烈かつショッキング、華麗でありながら刹那的な印象を強める。

 これは、イヴ・サンローランを「ファッション界における歴史的人物」ではなく「奇才に囚われたひとりの男」として遠慮なく迫った成果だ。

 「責任感から逃れて若さを味わいたい」「自分に素直にバカなことばかりやってみたい」、かつてサンローランがインタビューで口にしていた願望は、歪んだカタチで果たされることとなる。逃げ道に迷い込み、堕落寸前まで追い込まれる様子からは、もはや世界を席巻した有名デザイナーの片鱗はなく、もろすぎたひとりの青年の物悲しささえ如実にあらわした。

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 繊細さと大胆さの両面を持ったサンローランを『ハンニバル・ライジング』で主演を務めたギャスパー・ウリエルが演じる。パートナーのピエール・ベルジェには『ある子供』のジェレニー・レニエが抜擢された。また、サンローランの親友であり、ミューズのルル・ドゥ・ラファレーズには『アデル、ブルーは熱い色』のレア・セドゥ、モデルであり悪友のベティー・カトルにはシャネルやクロエのトップモデルとして活躍するエイメリン・バラデが起用された。

 そして、この作品の核となる人物で、サンローランの隠された本性を危険な魅力で引き出し、堕落の道にいざなう愛人ジャック・ド・バーシャスを『ドリーマーズ』のルイ・ガレルが熱演している。

 華やかなファッションという舞台に立ち続け、富と名声をも手にしたサンローランという男の隠され続けられた真実が、いまここに描かれる。

■内藤裕子
ライター。2004年より雑誌の編集、WEB企画、商品企画をメインに、イベント企画、総務、人事、広報を経てクリエイターのマネージメントに携わる。現在看護師として働く傍ら、写真関連のUstreamの企画構成にも携わる。

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■公開情報
『サンローラン』
12月4日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
監督:ベルトラン・ボネロ
出演:ギャスパー・ウリエル、ジェレミー・レニエ、ルイ・ガレル、レア・セドゥ、ヘルムート・バーガー
原題:Saint Laurent/2014年/フランス/151分/カラー/ビスタ/5.1ch デジタル
字幕翻訳:松浦美奈
後援:在日フランス大使館、アンスティチュフランセ日本
(C)2014 MANDARIN CINEMA - EUROPACORP - ORANGE STUDIO - ARTE FRANCE CINEMA - SCOPE PICTURES / CAROLE BETHUEL

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