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恋愛から解き放たれた女性映画『マイ・インターン』の新しさ

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監督の描く、一歩進んだフェミニズムとは

 本作の監督は、脚本と演出の両方で、ティーンから熟年女性まで、人生の転換点や様々な心理を赤裸々に、ユーモラスに描写することを得意とするナンシー・マイヤーズだ。彼女の作品は、登場人物のスピーチのような自分語りでスタートするのが特徴で、多くは、ここで語られる心情や、現代社会への素朴な疑問が、作品自体のテーマとなっていく。

 『ハート・オブ・ウーマン』や『恋愛適齢期』、『恋するベーカリー』など、近年の彼女の作品では、コメディ・タッチで観客を楽しませながらも、女性の心を全く考えない男の傲慢さ、男ばかりが若い相手と付き合う理不尽さなど、女性差別的な社会への風刺を巧みに物語に織り込んできた。しばしばある種の男性によって、「フェミニズム的な要素は自由な娯楽表現を阻害する」と言われることもあるなかで、コメディ描写を活かしつつ、それがエンターテインメントとして成立し得ること、素材としてプラスに作用し得ることを作品で証明し続けている作家だといえるだろう。

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 このようなフェミニズム的な要素を扱ってきた彼女のテーマのひとつである、無神経な男性への批判は、本作で飛躍的に高度なものになっている。ジュールズのベンへの偏見を通し批判しているのは、女性の中にもある「無神経な男性性」であり、それは本質的に女性差別にもつながるような、異質なものへの無神経な決め付けや固定観念である。女性をターゲットにする商業映画で、このような女性の主人公による差別意識を掘り出すというのは、作り手の勇気や信念があってこそだろう。しかし、女性であれ男性であれ、真に差別を撤廃しようと考える人間にとって、自分の差別意識に向き合うことは避けられないのも事実だ。そこをきっちり扱っているという意味で、彼女の脚本は考え抜かれているし、意義深いものになっているといえるだろう。

恋愛から解き放たれる男女のかたち

 ナンシー・マイヤーズ監督が描いてきたテーマは、他にもある。それは、「自分の人生を主体的に生きること」、そして「人生を楽しむこと」である。監督作『ホリデイ』のように、自分が大事にしているものや楽しみを、旧態然とした社会や世間体のために、あきらめてはいけないということを、繰り返し強調している。そして、本作ではその最も大事なものが「恋愛」だと描かれていないのも画期的だ。本作は恋愛映画ではなく、男女の愛を一部に含めた、あくまでもライフスタイルを描いた作品なのである。男と女が分かり合うために、必ずしもキスやハグ、ましてセックスをする必要はない。むしろ、そのようなつながりがないからこそ、ここでは欲望を排除した、より信頼できる関係が成立しているはずだ。古風だが経験豊かで芯の通ったベンという存在は、やがてジュールズの生きる指針ともなっていく。その上司と部下による、上下が逆転した師弟的な関係は、特徴的なラストシーンにも表れている。

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 本作は、じつは当初、ジャック・ニコルソンがベンを演じる予定だったという。ジャック・ニコルソンといえば、マイヤーズ監督の『恋愛適齢期』でも主演している。『恋愛適齢期』は、主に海辺の家を舞台にした恋愛作品だが、海辺にある雑貨店のシーンで、監督とニコルソンの意見が対立し、険悪な雰囲気になるというトラブルがあったという。ニコルソンは、自分が着る衣装を、カラフルなボーダーのマリンルックにするべきだと主張し、シンプルでエレガントなファッションが好きなマイヤーズは、それは自分の好みに合わないと反対した。

 母親がデザイナーであったというマイヤーズにとっては、自分のファッションセンスに強い自負があっただろうし、ニコルソンのことを、いかに名優だと尊敬していても、「あなたにファッションの何が分かるの」と批難したかったかもしれない。しかしニコルソンは、この店内の場面が、海が近くにあるということが観客に伝わりづらいという、経験からくる危惧があったらしい。そして、その弱点を補強するためにボーダーを着るという彼の主張は受け入れられた。

 監督に意見をするようなやかましい俳優を、マイヤーズは本作でまた起用しようとしていたのである。それは、ニコルソンの豊富な経験による発想が、正しかったことを素直に認め、彼の映画への真摯さに心を打たれたという証でもあるだろう。その尊敬は、ベンという、ニコルソンから少しだけやかましさを除いて紳士的になった、より理想化された存在として、脚本の中に受け継がれたのだと思われる。このように、男性の無神経さを批判しながらも、良いところがあればどんどん学んでいこうという柔軟性、そして他者を理解しようという姿勢が、本作によりしなやかな強さを与えているのだ。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『マイ・インターン』
全国ロードショー中
配給:ワーナー・ブラザース映画
(C)2015 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/myintern/

      

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