物語は終わらないーー『デート』スペシャル版で描き出された“心”とは?
依子は言う。「心が欲しいです」。心のなかは制御不能であると知りながら、「でも、心が欲しいです。あなたの心が欲しいです。隅々まで全部欲しいです」。そんな彼女の言葉に戸惑いながら、唐突に「アイ・ラブ・ユー」を「月が綺麗ですね」と訳したという漱石の逸話を披露する巧。そして、彼は言うのだった。「つまり、月が綺麗なんです」。リアルタイムでは、“スーパームーン”が話題となっていたこの日に、このネタを持って来る本作の脚本家・古沢良太の周到さよ! そして巧は言う。「あげますよ。僕の心なんかで良ければ、隅々まで全部あげます。その代わり、君のも欲しいです。隅々まで全部欲しいです」。途中回想シーンを挟みながら、実に15分以上にもわたって延々と繰り広げられたこのシーンは、間違いなく今回のクライマックスだった。そして翌朝、ふたりはついに“秘湯”を発見する。
その後、横浜に帰って展開される、依子の“プロポーズ・ショー”の印象があまりにも強すぎて、思わず見落としそうになったけれど、その“秘湯”は、のちに依子自身によって“依子の湯”と名づけられることになる。それって、どんな意味があったんだろう? 「無いと思っていたものがあった」……そう、“秘湯”とはすなわち、「心が無い」と言われ続けていた依子の“心”を意味していたのだ。本作のサブタイトルは、『2015夏 秘湯』……意外と分かりにくい! かくして、ふたりが事前に作成した「結婚契約書」は破棄され、新たな「結婚契約書」の作成がスタートする。依子は言う。「どうやら、認めざるをえないようです。結婚生活において最も重要なのは、お互いを思いやる愛情なのだ、と」。それを受けて巧は言う。「不本意だけど認めざるを得ないですね。愛こそすべてだ」。出会った当初、愛だの恋だのに頓着しないことで意気投合したはずのふたりが、最後の最後に見せた、この驚きの展開。そして、“心”、“愛”といった計量不可能なものを盛り込んだ、新たな「結婚契約書」の作成が始まるのだが、それはのっけから難航し……結局、物語は振り出しに戻るのだった。
ある意味、回りまわって再び同じ場所へと戻ってきたようにも思える今回のスペシャル版。それは、ある意味、この物語の「終わらなさ」を暗示するようなものでもあった。端的に言えば、さらなる続編の可能性を示唆するような終わり方(巧が最後言い放った「こりゃ結婚できないわ」という台詞は、どういうことなんだろう?)。このドラマの続編が、今後作られるかどうかは、もちろん分からない。しかし、もし続くのであれば、今回登場シーンが限られてしまった佳織(国仲涼子)の活躍を……というか、その分、依子と巧の関係をかきまわす“狂言回し”の役を一手に担い、よく考えたらキス・シーンすらなかった(全部寸止め)このドラマのなかで、温泉でのサービス・ショット(?)を含む孤軍奮闘ぶりを披露して、最後まさかの行方不明で終わってしまった鷲尾君(中島裕翔)が浮かばれることを期待します!
(文=麦倉正樹)