マーベル・シネマティック・ユニバースにおける『アントマン』の新しさとは?

MCUにおける『アントマン』の新しさ

 結果的にスコットは世界平和のために戦うことになるが、彼の最大の目的は娘のために人生をやり直すことだ。みんなのヒーローではなく、娘にとってのヒーローになるという、観客の共感を呼ぶ動機付けも他のMCU作品とは少し異なっている。さらに、この“父娘の絆”という点においては、自らが2代目アントマンに相応しいと主張するハンクの娘・ホープ(エヴァンジェリン・リリー)と、ハンクの関係でも描かれ、人間ドラマとしても非常に優れた仕上がりになっている。

 また、ヒーローとしての成長物語が巧みに描かれるのもポイントのひとつだ。アントマン・スーツには常人を凌ぐ驚異的なパワーが備わっているが、身体能力が人並みのスコットがこれを使いこなすには、それ相応の訓練が必要となる。また、アントマンの仲間となる様々なアリたちを思いのままに操る力も必要だ。 ある日突然大きな力を手にした過去のヒーローとは違い、“盗み”以外には何の取り柄もなかった中年男性が、ハンクやホープの力を借りながらこれらの能力を得て成長していく過程もきちんと描かれる。マイケル・ペーニャ演じるルイスら窃盗仲間たちはもちろん、空を飛ぶことができるクロオオアリ“アントニー”を始めとするアリたちと協力しながら、敵に立ち向かっていくという設定も、他のMCU作品では見られない、独特の世界観だろう。

 なお、本作はMCUフェーズ2のラストを飾る作品となっている。2008年公開の『アイアンマン』から2012年の『アベンジャーズ』までがフェーズ1。2013年に公開された『アイアンマン3』から本作までがフェーズ2となる。そして、来年2016年に公開予定の『キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー』からフェーズ3に入るのだ。 ブラックウィドウやホークアイなど、過去にも新たなキャラクターは登場してきたが、タイトルロールで新たなヒーローが登場するのは2011年の『マイティ・ソー』以来、約4年ぶりとなる。そういう意味でも、MCUにおける『アントマン』の役割は非常に大きく、これまでMCU作品を観てこなかった初心者にとっては、入り口としてかなり開かれた作品となっている。中盤での戦闘シーンや本編ラストなど、もちろんMCUファンにとっても堪らない演出も目白押しだ。2度目のエンドロール後にはMCUシリーズファンとしては、今後の展開に胸を踊らずにはいられない映像が待っているので、最後まで席を立たずにいることをオススメする。

(文=宮川翔)

■作品情報
『アントマン』
全国公開中
原題:ANT-MAN
監督:ペイトン・リード 製作:ケヴィン・ファイギ
出演:ポール・ラッド、マイケル・ダグラス、エヴァンジェリン・リリー
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
(C)Marvel 2015
公式サイト:http://marvel.disney.co.jp/movie/antman.html

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