櫻井裕一×高野聖玄が明かす、トクリュウ=匿名犯罪者の脅威「あらゆる点で、従来の犯罪集団と違う」

SNSは闇だらけ、どう身を守る?

――SNSを見ていると、闇バイトを筆頭にかなり怪しいアカウントがたくさんあります。インフルエンサーと言われる人が実は犯罪者であるケースもあります。

櫻井:インフルエンサーの効果は大きいですね。写真のインパクトは相当あると思います。例えば、札束や高級腕時計を目の前に並べて「儲かるよ」と言われたら、「俺も儲かるのかな」と思って飛びつく人がいるんです。

高野:お金の写真で引っかかる層は、いつの時代も一定数います。経済格差や家庭の環境なども影響していて、貧困から脱したいとか、成り上がってやろうとか思っている人、昔の経歴で仕事ができない人が、ワンチャン一発逆転したいと思っている。だから、甘い言葉や勧誘に気をつけましょうと言っても、なかなか耳に届かないと思うんです。

――インターネットやSNSを取り締まることはできないのでしょうか。

高野:そこも一筋縄ではいかないんです。日本人が使っているインターネットのプラットフォームはことごとく海外のものなので、日本の法律が及びにくいのです。LINEは韓国資本も入っているアプリですが、適正化の取り組みを進めているものの、それでも日本の政策とはギャップがある。アメリカ企業が運営するFacebookやInstagram、Xはほぼ言うことを聞きませんし、アメリカの政治家にお願いしても聞く耳はもたないでしょう。

――通信内容の監視はできないのですか。

高野:逐次、発信されている内容をチェックすることは通信の秘密の観点からもNGです。同じ理由でオンラインカジノをどう遮断するかがいま議論になっています。そのため、SNSなどのアカウントを使って悪いことをしている人を、リアルの事案として捕まえるなどして対処するケースのほうが多いです。インターネットのプラットフォームやOS、端末などテクノロジーの競争に負けたのが、日本がサイバー犯罪を取り締まる上でかなり不利に働いています。

――それにしても、犯罪は常に新しいテクノロジーが駆使され、次々に新しいアイデアが生み出されていくので恐ろしいですね。

櫻井:オレオレ詐欺や還付金詐欺が社会的に認知されてしまい、かけ子が集まりにくくなった結果、直接的な強盗が行われるようになりました。ところが、それも実行犯も捕まりだし、人が集まらなくなった。そこで詐欺に回帰し、昨今では警察官を名乗る詐欺が始まったのです。スマホの画面に警察署の電話番号が表示され、直接警察を名乗るので信用されやすく、引っかかる人が続出しています。若い人はおかしいと思う人もいるようですが、高齢者はそうしたテクノロジーに詳しくない方も多く、騙されてしまうケースが後を経ちません。

高野:高齢者を騙す手口として多かったのが、リフォーム詐欺です。若い犯罪者集団が、どうせ自分たちは年金ももらえないのだから、高齢者から金を奪い取ってしまえばいいじゃんという歪んだ考えで犯罪を行う例が、7~8年前くらいから続いていました。そのロジックは特殊詐欺とも共通している面があると思います。それがより過激になり、高齢者の家に入って金品を奪うだけでなく、殺人を犯すほど凶暴化したのがここ最近の現象です。

生成AIを使った犯罪は増える

――この先、犯罪はどんどん巧妙になってくるでしょうか。

櫻井:もっと巧妙化して、リアルになってくると思いますよ。詐欺の電話をしながら、その後ろで警察の無線のテープを流したりもするんです。

高野:サイバー上では家族の音声をもとに生成AIで声を作ったり、写真をもとに生成AIで画像を作るなどして、詐欺を行う犯罪集団が現れています。高齢者は画像が粗い状態でも、それっぽく見えたら信じる人が少なからずいます。そもそも詐欺は1%が信じれば十分利益が出ますから、犯罪集団も数打てば当たる作戦でやっているのです。

櫻井:AIを使った犯罪は間違いなく、今後多くなるでしょうね。芸能人や政治家は言うに及ばず、知人友人の顔や声を利用して行われる詐欺も出てくるかもしれない。

高野:もう既に行われ始めていますからね。それに、生成AIの存在そのものを知らない人もいますし、使ったことがなければいったいどんなことができるのかもわかりません。サイバー犯罪者にとって格好のツールともいえます。

――犯罪組織はこれからどう変化していくと思いますか。

櫻井:犯罪組織の人間は自分が手を出さず、カタギに犯罪をやらせて、金を吸い上げるパターンになるでしょう。中学生や高校生もサイバー犯罪をやっていますが、こうした犯罪に手を染めるのは昔より簡単になってきていることも脅威です。

――現代の新たな脅威から身を守るために、私たちは何をすればいいのでしょうか。

高野:サイバー犯罪からの防衛は、個人にできることは限られます。普段の使い方で不注意なことをしないように気をつけましょう、くらいしかアドバイスできることがないのが現状です。もはや、法制化や法執行機関の手法の工夫で対応するしかないと思います。

櫻井:今なら儲かるなんていう、儲け話はないと心得たいですね。警察から電話が来ても嘘だとはっきり思っていい。警察は電話することもあるけれど、直接行くパターンが多いので、信用しないで疑ってかかるしかない。今の世の中は安易に信じ込まないのが大事です。

■書誌情報
『匿名犯罪者-闇バイト、トクリュウ、サイバー攻撃』
著者:櫻井 裕一、高野 聖玄
価格:946円
発売日:2025年3月7日
出版社:中央公論新社

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