「青春ブタ野郎シリーズ」がついに完結! 「思春期症候群」を描き続けた10年間を振り返る

 とりわけ『ゆめみる少女の夢を見ない』は、同名の小説と続く『青春ブタ野郎はハツコイ少女の夢を見ない』を原作に、死がもたらす離別の哀しみであったり、誰かの命のために誰かの死を求めなくてはならない残酷さであったりといった、超シリアスなテーマを描いて読む人を大いに迷わせた。その解決にあたって盛り込まれたSF的な設定はなかなかに巧妙で、「思春期症候群」の原因となっている人の想念の強さを感じさせた。

 この『ゆめみる少女の夢を見ない』でのエピソードが実は、シリーズ完結編となった『青春ブタ野郎はディアフレンドの夢を見ない』に至る展開に大きく関わっていて、「青春ブタ野郎シリーズ」が全体を通して、ひとつの物語世界を形作っていることを示している。そこで鍵となるのが、「霧島透子」という名前でネット上に楽曲を発表している覆面シンガーの存在だ。その影響力の強さが、やがて日本中を巻き込んで驚きの事態を引き起こす。

 ひとりの迷いでも周囲に多大な変化が起こる「思春期症候群」が、「霧島透子」という存在とその楽曲を媒介にして日本中の若者たちの間で発症したら、どのような変化が起こるのか。気になるところが、それとは別に咲太には、「霧島透子」がどのようにして誕生したのかの方が衝撃だっただろう。映画の『ゆめみる少女の夢を見ない』に描かれたハッピーエンドがひっくり返るような展開に抱く咲太の苦悩は、読む人にも同じ苦渋をもたらす。

 『青春ブタ野郎はガールフレンドの夢を見ない』で咲太が味わう疎外感に、天罰のようなものを感じ取れるが、そのままでは咲太や麻衣や咲太の妹や他の大勢の人たちが、「思春期症候群」を乗り越えて得てきたものを失いかねない。だからこそ、そうした状況と咲太が対峙する『青春ブタ野郎はディアフレンドの夢を見ない』が、シリーズのクライマックスとなった。

 読み終えた時に誰もが少しの成長を感じ、哀しみを味わい、そして生きていくための力を得るだろう。「青春ブタ野郎シリーズ」は人が青春という人生における特別な時期と、どう向き合うかを教えてくれたライトノベルだった。

 本編が完結して、今後はアニメ化されていないエピソードが順次アニメ化されていき、動き話す咲太や麻衣とともに物語の世界を旅していくことになるだろう。そこで気になるのは、やはり「霧島透子」というシンガーの描かれ方だ。誰もが惹かれ心を揺さぶられる楽曲とはどのようなものなのか? そこは『ぼっち・ざ・ろっく!』シリーズで、漫画の中の楽曲を完璧以上に形にしたCloverWorksの手腕に期待したい。

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