『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』大ヒットで注目 スターツ出版「感動プロデュース」戦略を読む

 『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』『鬼の花嫁』『すべての恋が終わるとしても』といった、読者の感動を強く誘う作品を続々と送り出し、「感動プロデュース企業へ」という経営ビジョンを着実に遂行しているスターツ出版。老舗の文芸出版にはないフットワークの軽さと、ティーンや女性といった読者層のニーズをとらえる企画力で躍進を続けている。『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』の映画が興行収入45億円の大ヒット作となったこともあり、出版界全体でアクションやミステリーとは違ったエモーショナルな作品を探す動きが強まる中、作品を集めつつ読者層を広げて存在感を高めていこうとしている。

 人気漫画を原作にした『キングダム』の映画が好成績をあげる中、同じ実写の邦画でこれに迫る好成績をあげた映画が『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』だ。スターツ出版文庫から刊行中の汐見夏衛による小説が原作で、現代の女子高生が終戦直前の日本にタイムスリップして特攻隊員と交流するという、センシティブな題材を扱いながら感涙のストーリーで大ヒットした。

 上映館では、恋心を抱いた相手が特攻隊員として出撃し、死んでしまうことを悲しむ女子高生の心情や、逆に誰かを残して死ななくてはならない特攻隊員の思いに共感して、涙ぐむ若い観客が続出した。原作を改めて手に取る人も多かったようで、スターツ出版の2024年12月期第2四半期決算の売上高は前年同期比7.6%増の42億8000万円を確保し、経常利益も同8.7%増の12億5800万円となった。6月には待望の続編『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。Another』も登場。発売1ヶ月で3刷7万7000部という好調さを見せている。

 人気があったから映画化された作品が、映画化によってさらに人気を獲得する好循環を見せた格好。同じ現象が2025年公開予定の映画の原作となる丸井とまと『青春ゲシュタルト崩壊』(スターツ出版文庫)に起こることが期待されている。気持ちを押し殺すあまりに自分の顔が見えなくなってしまった少女が、出会いを通して自分を取り戻していくストーリーで、居場所に迷う現代の若い人たちを引きつけている。ボーイズグループ「IMP.」の佐藤新と、元日向坂46の渡邉美穂がダブル主演することも、それぞれのファンを映画館に引き寄せ、原作に関心を向かわせるサイクルへと繋げそうだ。

 中高生を主な読者にエモーショナルなストーリーで関心を誘う作品は、かつてはケータイ小説が発信元となっていて、Yoshiの『Deep Love アユの物語』や美嘉の『恋空』を送り出し、映画化も行われて盛り上がった。「小説家になろう」のような小説投稿サイトの登場でプラットフォームがケータイからPCやスマートフォンに移ってからは、『転生したらスライムだった件』のような異世界ファンタジーが人気となる一方で、スターツ出版の投稿サイト「野いちご」にはティーン向けの恋愛小説が登場。その中にあった『あの花が咲く丘で、また君と出会えたら。』が読者をとらえ、刊行からベストセラーとなり映画化される道を歩んだ。

 ライトノベルを得意とした出版社でも、こうしたエモーショナルなストーリーを持った作品を、ライト文芸やキャラクター小説といったカテゴリー向けのレーベルを作って出すようになっていく。そこから一条岬の小説で、なにわ男子の道枝駿佑と東宝シンデレラ出身の福本莉子が主演する映画も作られた『今夜、世界からこの恋が消えても』(メディアワークス文庫)や、Snow Manの目黒蓮主演による実写映画がヒットした顎木あくみ『わたしの幸せな結婚』(富士見L文庫)などが登場した。

 『わたしの幸せな結婚』の大ヒットは、薄幸の女性が驚くような存在から見初められ、幸せになるというシンデレラストーリーへの関心を高めた様子。スターツ出版文庫からはクレハ『鬼の花嫁』シリーズが登場し、『わたしの幸せな結婚』のヒロインとは違って現代的な感性を持った女性が、国を裏から牛耳る鬼の一族の跡取りに見初められるストーリーでファンをつかんでいる。

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