アニメ化決定で注目! 江戸時代から平成まで戦い続ける大河ファンタジー『鬼人幻燈抄』誕生の背景とは?

 江戸時代から平成まで、鬼となって時代を超えて生きながら、鬼を相手に戦い続ける青年を主人公にした中西モトオの大河ファンタジー『鬼人幻燈抄』(双葉社刊)。当初は小説投稿サイトに連載され、いったん完結したものの2019年に双葉社から単行本化されて刊行がスタートし、2023年に全14巻が完結するまでに約40万部が売れるヒット作となった。2022年から里見有の作画によるコミカライズが始まり、2025年放送予定でアニメ化も決定。8月28日にはスピンオフ短編集『夏樹の都市伝説集 鬼人幻燈抄 番外編』も刊行される。ますます人気が広がりそうなこのシリーズはどのようにして生まれたのか、そしてどこに注目して読んでいけば良いのかを、作者の中西モトオに聞いた。(タニグチリウイチ)

平成を舞台にしたパートの方が先にできあがっていた

小説版『鬼人幻燈抄(一)』(双葉社)

ーーアニメ化決定、おめでとうございます。主人公の甚夜(当初は甚太)を演じるのが八代拓さん、妹の鈴音は上田麗奈さん、甚夜が守る巫女の白雪は早見沙織さんと人気声優がキャスティングされていて、期待が高まります。

中西モトオ(以下、中西):基本的にサブカルチャーが大好きなので、知っている有名な方々が声を当ててくれるというだけでもう嬉し過ぎて、これは夢なんじゃないかと思っています。中学生の頃に読んでいた上遠野浩平先生の『ブギーポップは笑わない』(KADOKAWA)が大好きで、そのテレビアニメ(2019年版)で谷口正樹というキャラクターを演じていたのが八代さん。その方に自分のキャラクターを演じていただけるのはとても光栄です。

ーー上遠野先生の「ブギーポップ」シリーズがお好きということですが、『鬼人幻燈抄』にもその要素が入っているということなのでしょうか。

中西:この作品を小説投稿サイトの「Arcadia」や「小説家になろう」で連載を始めたのが2011年ですが、実はストーリーは平成を舞台にしたパートの方が先にできあがっていたんです。それが「ブギーポップ」シリーズのような異能バトルでした。よく読んでいたライトノベルで能力バトルが隆盛を誇っていたので、自分が書く時もそうなりました。

ーー江戸時代から順を追って平成まで書いていったと思っていたので、「平成編」の方が先だったとは意外でした。それがどうして江戸時代から始まる物語になったのですか?

中西:最初に思いついた話は、都市伝説と特殊な能力を持った主人公の戦いのようなものでした。その主人公を掘り下げていくうちに、どのような気持ちで戦っているんだろうといったことを考えるようになって、そこから逆算してだんだんと昭和、大正、明治、江戸へと遡っていった感じです。

ーーなるほど。確かに「平成編」でコトリバコのような都市伝説が登場します。

中西:それで、都市伝説のことを調べていくと、例えば「口裂け女」のように原典がある話が幾つも出てくるんです。江戸時代から伝わっていた話が、いつの間にか都市伝説にリメイクされるものが結構あって、その原点とリメイクの両方を知っている主人公がいたら面白くないだろうかというのが出発点なんです。こんな妖怪がいたといった伝説が出て来た時に、主人公はその実物を自分の目で見ていて、本当はそうではないということを知っている。そうしたシュールコントのような状況設定を作ってみたかったんです。

ーーそして、ウェブの小説投稿サイトで連載がスタートして、話題になって書籍化に至ったということになります。ここでも意外だったのが、いわゆるライトノベルのレーベルからではなく、双葉社から一般書籍として単行本化されたことです。

中西:作品自体は2016年には完結していて、そこからしばらく経っていたので、書籍化の話を聞いた時は何かの間違いではないかという思いの方が強かったです。正直かなり驚きました。書籍化のお誘い自体はそれ以前も一応あったんですけど、元々趣味的に書いていたものだったので、歴史に関する知識も間違えたままだったところがありました。それでお断りしていたんですが、双葉社さんからお声がけをいただいたので、改めて取り組んでみようと思い、お願いしました。

ーーウェブでの連載版から相当に手を入れられたのですか?

中西:編集者の方から助言をいただいて視点の統一を行いました。ウェブでは2000字とか3000字で切りながら掲載していくので、お話が細かく切れて視点もバラバラになってしまうんです。それでは読みにくいということで、編集の方が該当するところをピックアップしてくれて、それを元に直していきました。あと、「ブギーポップ」やライトノベルを意識して書いていたこともあってラブコメ的な要素も入っていたので、それを削ったところもあります。ただ、基本的なストーリーラインについては変わっていません。

甚夜といっしょに長い時を渡って成長していく気分に

コミックス版『鬼人幻燈抄(1)』(双葉社)

ーー山間部にある葛野(かどの)という土地で、兄の甚夜と妹の鈴音が仲睦まじく暮らしていたところ、甚夜が白夜という名の巫女を守り怪異を払う鬼切役となったことである事件が起こって、甚夜と鈴音が長い時を超えて対峙するようになります。そうした設定を軸にして、江戸時代から幕末、明治、大正、昭和、そして平成と時代を超えて進んでいく物語の上で、どのような思いを込めて甚夜や鈴音といったキャラクターを作っていったのですか。

中西:甚夜に関しては無骨で真面目というのが最初のイメージですね。基本的にはあまりきちんとしていないというか、精神的にはまだまだ未熟な感じで、普通は気づけることを全然気づけないでいた。それが、長く生きていく中でだんだんと成長していくといった感じになっています。そのため当初は、かなり自分勝手な性格として描くように心がけていました。シリーズを読まれる方は、そんな甚夜といっしょに長い時を渡って成長していく気分になれると思います。

ーー甚夜のそうした自分勝手で自己中心的なところが、鈴音の心底からの兄への思いを感じ取らせないでいて、結果として悲劇を呼んで長い長い対峙へと繋がっていくことになります。鈴音というキャラクターについても造形に気を遣ったところはありますか。

中西:鈴音については近視眼的というか視野が狭くて甚夜のことしか考えていないところがありました。甚夜がいなくなってしまったら他はどうでもいいやといった感じ。ストーリーが進んでいってもそうした子供のままでいて、力だけ強くなっていくというイメージで書いていきました。泣きわめいている赤ん坊が、そのままバケモノになってしまった感じです。

――甚夜には時間の経過に伴う成長があるけれど、鈴音はずっと同じままといった具合に対称的なふたりです。

中西:そうですね。甚夜は長い時間をかけて余計なものを背負い、無駄なことをしながら強くなっていく主人公で、鈴音の方は長い時間の間にこれはいらない、これもいらないと切り捨てていって、最終的にとても強くなっていくという、対比するキャラクターにすることを決めていました。

ーー鈴音から切り捨てられた部分が鬼の娘として登場し、甚夜に絡んでくるという設定もユニークでした。

中西:それも、古い怪談とか妖怪話から考えついたことなんです。伝承や伝説には、愛情が高じて鬼女になってしまったとか、恨み辛みだけが積み重なって悪霊になってしまうといった話が多いですよね。それと同じイメージです。人の気持ちって高じるとバケモノに近いものになるんだろうというのが自分の中であって、そこから鈴音やその娘のようなキャラクターが生まれました。

ーーそうした娘の中でひとりだけ、少し変わった立ち位置にいるキャラクターがいて、シリーズのラストに大きな役割を果たします。ネタバレになってしまうので詳細には触れませんが、読んでいてとても愛おしくなる存在で、鈴音も甚夜も共に救われるエンディングになったと思いました。

中西:ありがとうございます。やはり最後はハッピーエンドの方が良い、誰もが少しくらい報われて欲しいという気持ちがありますから。

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