『#真相をお話しします』で脚光 新鋭ミステリー作家・結城真一郎『難問の多い料理店』インタビュー

 2022年の『#真相をお話しします』(新潮社)で一気に注目される存在となったミステリー作家・結城真一郎。その最新作は、謎めいたオーナーシェフが切り盛りするゴースト・レストランと、彼に雇われて探偵助手の役割をする配達員たちの物語だ。連作短篇集『難問の多い料理店』(集英社)はどのように出来上がった作品なのか。作者の声を聴いてみよう。(杉江松恋)

リアリティを残すことが大事

結城真一郎『難問の多い料理店』(集英社)

——『難問の多い料理店』って良いタイトルですね、宮沢賢治のもじりで。その手があったか、と思いました。『小説すばる』に連載された各話は「転んでもただでは起きないふわ玉豆苗スープ事件」とか題名が長いものばかりなので、本にするときどうするんだろうと思っていました。

結城真一郎(以下、結城):タイトルについては様々な案があったのですが、担当編集との打ち合わせの中で一番評判が良かったのが『難問の多い料理店』でした。調べてみたら、「難問の多い料理店」というタイトルの、移民問題も絡めて他国料理店を特集した記事があったんですけど、本じゃなくて記事だからいいかと思って、そのまま決定しました。

——第74回日本推理作家協会賞短編部門を受賞した「#拡散希望」を含む前著『#真相をお話しします』は共通キャラクターが登場しない短篇集でしたが、各話にコロナ禍でのリモート飲み会など現代の世相を非常に反映した題材が扱われているという特色があり、また都市伝説を思わせるような雰囲気もあり、普段ミステリーを読まない層にも好評を博したという印象があります。今回は、一店が複数の料理を手がけてデリバリーで提供するという、いわゆるゴーストレストランが主舞台で、そのオーナーが主人公です。彼は料理以外に裏で謎解きの依頼も引き受けているという設定ですが、このあたりをどうやって構想されたのかをまずお伺いしたいと思います。

結城:「#拡散希望」以降に評価していただいた流れがありますので、現代性のあるモチーフを使った連作にするという前提がもともとありました。それにふさわしい題材を考えていて、配達員たちが一定の場所に出入りするという形なら物語の広がりが持てるんじゃないかということをまず思いつきました。ゴーストレストランという舞台、オーナーシェフと出入りする配達員たち、という形式があれば連作という器に耐えられるかも、というあたりから広げていった感じですね。

——謎解きをするオーナーは厨房から出てきませんので、推理者が現場に行って調査をせずに謎を解く、安楽椅子探偵ものにミステリーとしては分類できます。最初の「転んでもただでは起きないふわ玉豆苗スープ事件」はすでに連作を想定して書かれていると思いますが、裏の依頼をしたい人は4つのナッツを織り込んだシークレットの注文をするとか、裏メニュー的なシステムがおもしろいですね。

結城:実際にこういう生業があったとして、どうすれば客のニーズを店側が汲み取れるか。かつ、世間に知られず、ひっそりと営業できるか。それを考えていたときに、知る人ぞ知るメニューを注文すると依頼のトリガーになる、というのを思いついたんです。現実にこんなお店は99%無いでしょうけど、残りの1%で、もしかしたらどこかにあるかも、みたいなリアリティを残すことが大事だと思っていました。

——短篇の題名だけ見ると、日常の謎的な内容が思い浮かびますけど、これ、男性のアパートが火事になって、そこにわざわざ飛び込んできた女性が焼死体で見つかるという、結構な大事件ですよね。ほんわかしたタイトルと大変な状況の食い合わせの悪さが、この連作にブラックユーモア的な印象を与えていると思います。これは狙ってやっていますね。

結城:はい、ポップな感じに見せかけて、実際食べてみるとまったく違った味がする、みたいな外しは心得てやっています。特に第1話は、ミステリー的な要素をあえて強くして、見た目とのギャップを感じさせようと。「読んでみたら、全然予想と違った」みたいな印象を残せたら成功だと思っていたんです。

流れの安心感を作ることは明確に意識した

——前作の『#真相をお話しします』で結城さんは、短篇でずばっと切り込む感じを体得されたんだと思うんです。それは長篇の組み立て方とちょっと違って、もっと端的に読者の心を掴まなくちゃいけない。その感覚が今回も活かされていますね。とにかくこのオーナーなる人が胡散臭い感じだし、店には謎の合言葉みたいなものもあるし、と雰囲気が気になって読んでいるうちに、いつの間にか不可能犯罪の興味に引き込まれると。ミステリーとして感心したのは、オーナーがどの段階で仮説検証を完成させたかがはっきり判るように書かれている点です。これは書き手として大事な部分ではないかと思いますが。

結城:そうですね。何がきっかけだったのか読者に伝わらないと、「なんかよくわかんないけど解決したなあ」となってしまいますから。そこが伝わってこそ謎解きの快感が得られると思うので、しっかり書こうと強く意識していました。連作としては、話の構造自体は毎話同じで、冒頭で事件が起こっていて、配達員が報告をして調べていく、という流れなんですけど、フォーマットから外れた部分みたいなものをちょっとずつ各話に設けることで、続けて読むおもしろみを出せたらいいな、と思っていました。

——2話目の「おしどり夫婦のガリバタチキンスープ事件」で、だいたいフォーマットが固まっていますね。依頼が持ち込まれる流れもだいたい同じで、オーナーが「試食をしようか」と言ったら、そこから推理パートになる。2話目で、フォーマットとしていけるな、という感覚があったのではないでしょうか。

結城:この設定を思いついた段階で、うまく調理すればすごくおもしろくなるだろうな、と感じました。第1話は最初なので、そもそもどういうお店なのか、という説明で文字数を使っているんですけど、2話目以降はそれを省きつつ、テンポ感を持って気持ちよく書き進められるようになったという手応えはありましたね。

——意図的に同じ繰り返しをすることで、前の話に出てきた情景が再現されるようにしているんですね。毎回同じにすることに意味がある連作というのがおもしろいです。

結城:これは『#真相』のときにも感じたことなんですけど、まだそんなに本を読み慣れていないような方には、「この本はこういう構造の話なんだ」というのがあらかじめ掴めているほうが負担が少ないのではないか、ということを考えていました。なので、あえて毎回一言一句同じ台詞でオーナーに締めさせるとか、流れの安心感を作ることは明確に意識していましたね。

——助手を務める配達員が毎回交替しますが、これは最初から決めていたことですか。

結城:そこは初期段階ではあまり考えていなかったんですけど、実際に配達をされている方の体験記やブログなどを参考にして読んでいるうちに、働いている方にもいろいろな事情があることがわかってきたんです。せっかくこういう舞台を用意したのだから、1人だけじゃなくて、そういう人たちの声を少しでも多く書いたほうがいいなと感じまして、2話目から視点人物を替えることにしたんです。

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