マカロニえんぴつの10年間はトライ&エラーの連続だったーープロデューサー兼チーフマネージャー・江森弘和インタビュー

音楽業界を志している人に何かを与えられたら

ーーめんどくさいことが多くても、やはりバンドと仕事がしたい?

江森:今はバンドだけではなくて、ソロアーティストも発掘してやっているんです。これまで一緒にやってきたバンドのタイプもぜんぜん違っていて。東京カランコロンは男女ツインボーカルで、SAKANAMONはシンプルな3ピース。マカロニへんぴつは鍵盤がいる編成で、ヤユヨはガールズバンドなので。バンド以外では、顔出ししないで活動しているWONというアーティストもいるんですけど、結局は僕自身も新しいことにチャレンジしたいんですよね。

ーー確かにTALTOレーベルは、同じタイプのバンドがいないですよね。いい意味ではバラバラというか。

江森:しかも一筋縄ではいかないバンドばかりっていう(笑)。マカロニえんぴつがまさにそうですけど、音楽のジャンルもすごく広くて、ロックはもちろん、ジャズっぽかったりシティポップだったり歌謡曲だったり、いろんなタイプの曲があるんですよ。芯にはちゃんと歌心があって、ポップスとしてアウトプットしているのは共通項だと思います。あと、カッコよさだけではなくて、ちょっと面白さも欲しいんですけどね。そのユーモアの感覚はたぶん、僕にしかわからないかも。

ーーマカロニえんぴつにもどこかにユーモアのセンスがありますよね。

江森:そうなんです。振り返ってみると、「これって東京カランコロンでもやってたよな」ということも多々あるんですよ。タイミングとか時代もあると思うけど、同じようなアイデアがあっても、評価されることもあれば、上手くハマらないこともある。そこはずっと考えてますね。

ーー江森さんご自身も、この本を書くことによって改めて気づいたこと、わかったこともあるのでは?

江森:たくさんあります。まず思うのは、出版のプロはすごいなということ。最初に言ったようにファンクラブ向けのコンテンツとして書き始めたんですけど、編集者のおかげでちゃんとパッケージされて商品になりました。あと「自分って言葉を知らないんだな」と思い知らされました(笑)。

ーー書き手としての気づきですね。

江森:マカロニえんぴつに関して言えば、メンバーに出会ったときは僕自身30代前半だったんですよ。自分も若かったし、酒も付き合えたから密度が高かったんです。今はスタッフも増えたし、コロナ以降は飲みに行くことも少なくなって。僕自身もレーベル全体のことを見るようになって、マカロニえんぴつとの向き合い方が変化しています。ジャッジするのは今も僕なんですが、自分のなかで「付け焼刃でやってないか?」という反省もありました。たとえばこの本が世の中に受け入れられて、「第2弾を出しましょう」ということになったら、エピソードが薄くなっていく気がしますよね。「この先、ドラマティックなことがあるかな?」「先細りにならないかな」みたいな心配もあるし、この先のサクセスストーリーを盛り上げるというか、もっといろいろ考えないとダメだなと。

ーー期待してます! 音楽業界を目指す人にとっても、刺激を得られる本だと思います。

江森:そうなったらうれしいですね。ここ数年、音楽業界を目指す若い人が減っているような印象もあるんです。専門学校や音楽大学で講師をやらせてもらうこともあるんですけど、熱量のある学生はいるし、憧れだけで終わらず、がんばってほしいなと思っていて。この業界でやれることって、無限だと思ってるんです。バンドのマネージャーというと、「スケジュール管理して、メンバーを車で送り届けて」みたいなイメージがあるかもしれないけど、そういうイメージとは全然違います。音楽に限らず、たとえばお笑いの世界でも「あの人がマネージメントしたから成功した」という例がたくさんある。バンドのマネージメントでも、楽曲制作やライブだけではなくて、映像やSNSでの仕掛けだったり、やれることはめちゃくちゃあるんですよ。10周年を記念したショートムービー(「あこがれ」)は制作会社のAOI Pro.と組んで制作したんですけど、はっとりの父親役でリリー・フランキーさんが出てくれて、やってよかったなと思ってます。

ーークリエイティブな仕事ですよね。

江森:そうですね。アーティストを知ってもらうため、世の中に広がるきっかけを作るのが仕事ですけど、ルールは何もありません。『青春と一緒』もそうで、僕が本を出すことで、ラジオのMCの方が「そういえばマカロニえんぴつのマネージメントをやってる江森さんが本を出すそうです」とか宣伝してくれるんですよ。バンドが動いていない谷間の時期のプロモーションとして、最高じゃないですか。僕のなかでは映像化までイメージしているんですよ。大根仁さんが監督した『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』もそうですけど、裏方を主人公にした映画とか……。まあ、僕が勝手に考えてるだけですけど(笑)。

ーーそういうプランがどんどん浮かんでくるんですね。

江森:アイデアはめちゃくちゃありますね。バンドやレーベルの宣伝にもなるし、アーティストを目指している人、音楽業界を志している人にも何かを与えられたら、こんなに良いことはないと思います。

■書籍情報
『マカロニえんぴつ 青春と一緒』
著者:江森弘和
発売日:11月22日
価格:¥1,980
出版社:双葉社

関連記事