公務員の陰陽師 × フリーの山伏が怪異事件に挑む オカルトバディ小説『陰陽師と天狗眼』シリーズが面白い
キャラクター同士が織りなす関係性は、物語を読むときの大きな醍醐味だ。なかでも強い絆で結ばれた2人組が活躍する「バディもの」は根強い人気を誇り、さまざまなヒット作が生まれている。この記事では筆者が注目するオカルトバディ小説として、歌峰由子の『陰陽師と天狗眼』(ことのは文庫)シリーズを取り上げて紹介したい。
怪異やもののけが今もなお強い力を残す広島県の巴市。市役所には危機管理課特殊自然災害係(通称「もののけトラブル係」)という部署があり、住民から持ち込まれる多種多様な怪異現象に対応している。
宮澤美郷は500倍の倍率を突破し、新人公務員として巴市のもののけトラブル係に採用された青年。ところが引っ越しの当日に契約したアパートのダブルブッキングが判明し、住む予定だった部屋から追い出されてしまう。公園で途方に暮れる彼に声をかけてきたのが、金髪ピアスにサングラスという派手な出で立ちの狩野怜路だった。この世ならざるものが視える「天狗眼」を持ち、拝み屋として活動している怜路は、同業者のよしみで自宅の離れを格安で提供することを申し出る。胡散臭い男を当初は警戒するも、金銭的に困っていた美郷は彼の家で下宿を始めることになった。
怜路は幼い頃に記憶喪失になり、「天狗」を名乗る養父に育てられた過去をもつ。今はフリーの拝み屋として生計を立てながら、市内の居酒屋でアルバイトも続けていた。一方の美郷は出雲の高名な陰陽師一族の出身だが複雑な立場に置かれ、高校卒業後は実家と縁を切り、出自を隠して巴市に就職する。エリートだが苦労の多い公務員陰陽師の美郷と、面倒見のよいチンピラ山伏の怜路。育ちも性格も正反対な二人は、以後さまざまな怪異事件と向き合うなかで友情を結んでいくが――。
『陰陽師と天狗眼』に登場する巴市は、作者の出身地である広島県三次市をモデルにしている。三次市はさまざまな妖怪たちが登場する『稲生物怪録』の舞台としても知られており、2019年には「三次もののけミュージアム」もオープンした。もののけと縁の深い土地を描いた物語には、古くから語り継がれてきた伝承や風習、田舎の風景描写、そして広島弁がふんだんに盛り込まれている。都市を舞台にしたオカルトものとは一味異なる、地域色に溢れたなテイストがこのシリーズの特徴だ。
“陰陽師が公務員”という意外性のある設定が目を引く本作には、ユニークなお仕事小説としての一面もある。あやかし小説らしいケレン味にあふれた妖怪退治の描写がある一方で、地味な書類作業や他部署とのやり取りなど、地方公務員らしい事務処理や仕事上の苦労がリアリティたっぷりに描かれる。ファンタジーと現実的な要素が絶妙にブレンドされた、異色の公務員小説としても注目したい作品だ。