「バラエティに魂を売ったような人間がいないとダメ」 マッコイ斉藤が考える、テレビとお笑いの現在地

笑いの神様みたいな人は絶対に後ろを振り向かない

――確かに。本書の最後は、「『面白い』は正義だ。」という言葉で締め括られていますが、マッコイさんが思う「面白さ」というのは、どんなものなのでしょう?

マッコイ:面白いって何だろうと考え始めたら、もう果てしないですよ。ひとそれぞれで違うものだったりもするわけで。僕は単に自分が面白いと思っているものがいちばん面白いと信じているだけなんですよね。もちろん、それがいろんな人に伝わればいいなと思いながらやってきたわけですけど、面白さってあんまり考え過ぎると面白くなくなってしまうから。だから、思いついたらすぐにやってしまうことが大事。さっきのコンプライアンスの話じゃないけど、ああだこうだ言っているうちにまったく面白くなくなってしまうことってたくさんあるじゃないですか。

――そうですね。

マッコイ:だから、そこはそんなに考え過ぎないほうがいい。僕もこれまでいろんなものを作ってきましたけど、結局シンプルなものがいちばん面白かったりするんです。僕はこれまでいろんな人をいっぱい落とし穴に落としてきましたけど……。

――『みなさんのおかげでした』の「全落・水落シリーズ」ですね(笑)。

マッコイ:そうそう。やっぱり落とし穴に落ちるだけで人は笑うんだなっていう。考え過ぎていろんなものを詰め込むよりも、シンプルなことがやっぱりいちばん面白いんですよ。

――先ほど「思いついたら、すぐにやるのが大事」と言っていましたけど、やはりその瞬間がいちばん面白いというか、大勢の人たちがリアルタイムでそれを観ることの面白さってありますよね。

マッコイ:ホントそうですよ。で、すぐに忘れられる(笑)。ただ、それは作っているこっちも同じで、すぐに次のことを考え始めるんです。笑いの神様みたいな人は絶対に後ろを振り向かないですから。あれが面白かった、これが面白かったと言って、昔やったことを繰り返してもどんどんつまらなくなっていきますからね。コンプラの話もそうで、昔は良かったじゃなくて、コンプラがあるならあるでどうやってそれを超えながら笑いを作っていくのか。そこは今、みんな一生懸命考えているはずです。

――ただ、若者たちが前の晩にテレビで観たものをクラスで話したり、真似をするみたいなことは今の時代、少なくなってきているんじゃないですか?

マッコイ:それはそうですよ。今の中学生や高校生は、TikTokとかのショート動画を観ながら、これ面白いとか面白くないとか言っているんじゃないですか。というか、多分テレビに出ている人たちに面白さを求めてないんですよね。一般の人たちの中にすげえ面白いやつがいるっていうのが刺激的なんだと思う。うちの親戚の子とかも何か変な名前でTikTokとかやったりしているみたいなんですけど、試しにちょっと観てみたら意外と面白かったりするんです。そんな感じで自分だけが知っている面白いもの、オモシロ人間を日々探している感じなんじゃないですか。で、そういう人たちがテレビじゃないところでどんどん有名になっていく。今の若い子たちがテレビを観ないっていうのは、そういうことだと思うんです。

――テレビを観ている暇がないというか、そこに面白さを求めていない?

マッコイ:そう。だって僕、テレビには全然出てないんですよ。僕が出るのなんて年間で一本か二本ぐらいなのに、街を歩くと「いつも観てます!」ってめちゃめちゃ声を掛けられる。みんなYouTubeにアップされている動画で僕のことを知っているんです。

深夜番組はバカと不良が作ってないとダメ

――マッコイさん自身は、もうテレビはいい感じですか?

マッコイ:やらせてもらえるならば全然やりますけど(笑)。ただ、こんな歳になってこんな本を出しているようなフリーのディレクターを、テレビ局のほうが使いませんよ。使ったとしたらよっぽどの賭けであって。ただ、今の深夜番組とかで結構ひどいのありますよね。あんなの僕らにやらせてくれればいいのにって思います(笑)。やっぱり深夜番組はバカと不良が作ってないとダメなんですよ。真面目に勉強ばかりしてきたやつが、夜遊びチャンネルみたいなことをやったって面白いわけがない。

――確かに。

マッコイ:そういうものは昔からずっといる権力を持ったおじさんたちが、偉そうに「あれやれ」「これやれ」って作らせていたりするんですよね。そうではなくて、やっぱり若い人たちにもっとチャンスを与えないとダメだと思います。

――マッコイさんが気になっている若い世代の演出家とかっているんですか?

斉藤:『みなさんのおかげでした』で僕の下でディレクターを10年以上ずっとやっていたフジテレビの中川(将史)っていうやつは、長年我慢していた分、のびのび演出し出したら、今、すごく面白いものを作っていますよね。『ドッキリGP』とか。

――ちなみに、昨今よく名前が出てくる佐久間宣行さんや藤井健太郎さんなどは、どんなふうに見ているのでしょう?

斉藤:非常にいいと思います。僕の世代の下ぐらいから、名前を残すようなディレクターがあまり出てこなくなったんですよ。で、もうテレビからは出てこないのかなって思っていたら、佐久間くんとか藤井くんの名前をよく聞くようになって。彼らが作っているものはやっぱり面白い。ああいうバラエティに魂を売ったような人間がいないとテレビはダメですよ(笑)。

――ちなみに今、マッコイさんが特に力を入れているプロジェクトと言ったら、何になるんですか?

斉藤:最近はいろんなものが細分化されているじゃないですか。専門チャンネルの時代というか。たとえば釣りだったら釣り、格闘技だったら格闘技の専門チャンネルがあって。一方でバラエティの百貨店的なチャンネルって、まだないような気がしていて。だったら、自分で動画配信サービスをやってみようと思って『29TV。』っていうのを始めました。まだ全然形になっていないんですけど、そろそろ本腰入れてやらなきゃなって思っています。あとはやっぱり映画を撮りたいですね。これまで何度かチャンスをいただいているんですけど、映画だけは当てたことがないんですよ。

――それは『我々は有吉を訴える』シリーズみたいなものではなく、普通の劇映画を撮りたいということですか?

マッコイ:そうです。多分最後は、笑いなしの映画を撮りたくなるんじゃないかなという予感があって。普段の何気ない会話から滲み出てくる笑いってあるじゃないですか。そういうものを撮りたいというか。あからさまに笑いを取りにいくような構成ではないんだけど、そこで自然と生まれた空気が面白いっていう。そういうものを自分の演出家人生の最後に作ってみたいですね。

■書籍情報
『非エリートの勝負学』
著者:マッコイ斉藤
価格:¥1,650(税込)
発売日:2023年7月7日
出版社:サンクチュアリ出版

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