小説家 清水晴木 × ドラマ脚本家 水橋文美江『さよならの向う側』対談 小説とドラマ、それぞれの魅力
文章表現と映像表現の違い
――これまでのお話も通して、原作、ドラマ共に、「小説ならでは」「映像ならでは」の表現が楽しめる作品になっていると思います。清水さんと水橋さんはそれぞれ文字と映像でご自身の作品を描く上で、どんなことを意識されていますか?
清水:僕の場合、この『さよならの向う側』以降、ほとんどの作品で短編連作の形式をとっています。というのも、長編小説だと基本的にクライマックスって終盤に1回あると思いますが、たとえば5話の短編連作だとそのクライマックスが5回入れられるんですよね。そこが良いなと。しかも、僕の短編連作は全ての話で主人公の視点も変わるので、5つあるうちの少なくとも1つは感情移入してもらえるんじゃないかなって。性別や年齢をバラバラにしているのは、そういった狙いもあります。
あと、僕がドラマや映画で一番好きなのが、台詞や音がなにもない無音の中で、映像だけで表現されるシーンなんですよね。あれを小説で表現するにはどうしたらいいのか。ト書きのような淡々とした地の文を書き連ねた方がいいのか、逆にセリフだけにした方がいいのかとか、よく考えてますね。実際に神楽美咲の回のラストシーンなんかは、小説の中ではセリフを並べてみました。
水橋:すごい! そうなんですね。映像の場合は、実態が伴うというか必ず人間が演じるので、キャラクターが大切ですよね。キャラクターがしっかりしていれば、おのずと絵は浮かんでくると思うんです。やっぱりベースがちゃんとしていないと、その先に広がっていかないように人間の脳はできているので、クライマックスの絵に行きつくためには、ちゃんとそこまでの道を耕さなきゃいけないなということは意識しています。
清水:あと小道具の使い方が、小説と映像では違いますよね。それこそドラマの2話では、小説にはなかったキャラメルが小道具として加わっていてすごくいいなと思いました。
水橋:やっぱり絵で見る強さがあるかもしれないですね。
清水:また『みにくいアヒルの子』の話になっちゃうんですけど、ガースケ(平泉玩助)が作ったお弁当が、一見するとただの日の丸弁当だけど、裏側にたくさんのおかずが入っていたというエピソードがあるじゃないですか。当時僕8歳とかだったと思うんですけど、あのシーンは今も鮮明に覚えてるんですよね。まさに絵の力というか。でもあれって小説で描いても面白くはならないんだろうな。僕も小説で印象に残るシーンを書きたいということはすごく思っています。ドラマや映画の強烈なシーンって、後から思い出すんですよね。「あのシーン良かったな」って。だから小説の中でも、「なんかあのシーンだけ覚えてるんだよな」って印象に残るようなものを書いていきたいと思っています。
水橋:小説の良いところは、読んだときの立場や状況によって、受ける印象が変わってくる面白さにあるんじゃないかなと思うんです。たとえば、娘と私では読んだ感想が多分全く違いますよね。そういう意味では、絵がない分、色々な読み手が想像できる余地があるのが良いところだなって。読み手自身が絵を作っていく感覚ですから、読むたびに新鮮に感じられますよね。ドラマは気に入らなければそこで終わりだけど、本は何年か経って読み返すと「あれこんな本だったっけ?」って思ったり、子どもの頃はよくわからなくても大人になって読み返すと良さがわかったり。そういった面白さにおいて、ドラマは小説に適わないですよ。
――水橋さんは印象的なシーンを生み出すという点で意識されていることはありますか?
水橋:脚本家の仕事って、本当に作品によって新たなチーム編成になるから割とケースバイケースなんです。狙って印象的なシーンを作ろうっていうときもあれば、いやそういうことよりも人物の気持ちを丁寧に描こうということもあるので、一概にはなんとも言えないんですよね。ただ、今回の『さよならの向う側』は、プロデューサーも監督もキャストもみんなが、「原作のこのあたたかさを生かしたい」という感じで一致団結して進めたので、「泣かせましょう!」みたいな意識でシーンづくりをするみたいなことはなかったですね。
清水:チームで動くのに、僕は実はすごく憧れてるんですよね。やっぱり小説はずっと一人で作品を作ってるから、チームで作っていくのは楽しいだろうなって。
水橋:まぁチーム内でみんな考えが違うこともあるので、大変なこともありますよ。だから逆に私は一人で仕上げられる小説家や漫画家に憧れたりします。お互い無い物ねだりですね(笑)。
清水:あはは(笑)。実は僕が最初に作品づくりをしたのが、高校の文化祭で上演した劇の脚本だったんですけど、それがすごく楽しかったし、評判も良かったんですよね。まさにみんなで一緒に盛り上がりながら作って、作品作りとしては一番楽しい経験でした。だから今でもみんなで脚本を作ったら楽しいんだろうなぁって思ったり。
水橋:ぜひ脚本もやってみてください! きっとその経験が小説の執筆にも活きてくると思いますよ。
清水:小説も脚本も両方頑張りたいですね。水橋さんに弟子入りしたいくらいです!(笑)。
■書籍情報
『さよならの向う側 Time To Say Goodbye』
著者:清水晴木
イラスト:いとうあつき
発売日:2023年07月20日
価格:1,815円
『さよならの向う側』audible版も配信中→https://www.audible.co.jp/pd/B0C5SF7NYV
■ドラマ情報
読売テレビ・日本テレビ系 プラチナイト木曜ドラマ
「さよならの向う側」
Hulu他にて好評配信中
【ストーリー】
ある日思いがけず訪れた死・・・
現世とあの世の狭間『さよならの向う側』で亡くなった人々を迎える一人の男。
どこか飄々とした彼は、亡くなった人々にある提案をする。
亡くなってからこの『さよならの向う側』を訪れた人は、24時間の間、最後に会いたい人と会うことができる。ただし、あなたが死んだことをまだ知らない人とだけ―
親子・夫婦・想い合う男女・・・ヒューマンドラマの第一人者・水橋文美江が脚本を務め、数々の感動作を手掛けた監督・深川栄洋が人々の切なくも温かい愛の物語を紡ぐ。
明日、大切な人に想いを伝えたくなる木曜よるのハートフル・ヒューマンドラマ
原作:清水晴木『さよならの向う側』(マイクロマガジン社 刊)
脚本:水橋文美江(主な作品…NTV「ホタルノヒカリ」、「母になる」、「#リモラブ」、NHK連続テレビ小説「スカーレット」など)
監督:深川栄洋(主な作品…映画「神様のカルテ」、映画「白夜行」 EX「にじいろカルテ」、Netflix「桜のような僕の恋人」 など)
出演:上川隆也 / 貫地谷しほり 新川優愛 米本学仁 / 眞島秀和 宮澤美保 ・ 柄本明
吉田凜音 今井悠貴 / 戸田菜穂 髙橋優斗(HiHi Jets/ジャニーズJr.)木場勝己
主題歌:大橋トリオ「さよならの無い世界」(A.S.A.B)
チーフプロデューサー:岡本浩一
プロデューサー:中間利彦、黒沢淳(テレパック)、野田健太(テレパック)
制作プロダクション:テレパック
制作著作:読売テレビ