『バッドガイズ』原作は1600万部突破の世界的ベストセラー! Z世代を虜にする理由とは?
考えてみれば、2000年前後に生まれた「Z世代」以降の、現在の若年層を中心に絶大な指示を受け、世界的なポップアイコンとなったビリー・アイリッシュによる、いまや近年を象徴する大ヒット曲のタイトルも、「bad guy」だった。この歌詞の内容は、“ワルぶっている”男に対し、女性の側が、その上をいくワルとしての行動を暗示することで、「私こそがバッドガイ(悪い奴)」と宣言していくというもの。
この曲でビリー・アイリッシュがカリスマ的な人気を得たのは、重たいシンセベースを基調として、途中でテンポが遅く変化するなど、ポップソングとしての前衛的なつくりもさることながら、その歌詞やパフォーマンスに、現在の若者に共感できる部分があったからだろう。彼女の表現や発言からは、相手の好みに合わせたり都合の良い存在として評価を得るのでなく、あくまで“自分に主体がある”という強いメッセージが、上の世代よりも同世代へ等身大として、ナチュラルなかたちで放たれているのだ。
Z世代を代表する世界的な存在としては、環境活動家のグレタ・トゥーンベリもいる。これ以降の世代が、自分たちやその子どもたちが気候変動の影響にさらされる未来を知って、上の世代の行動を変えさせようとしているのは、世界的な現象であり、その状況を追った『気候戦士 ~クライメート・ウォーリアーズ~』(2018年)というドキュメンタリー映画も公開されている。そんな若年層の活動の象徴となるトゥーンベリが、16歳時の演説によって、とりわけ中年以上の男性をいらだたせることになった事実は、世代間の意識や、“見えているもの”の断絶を表しているといえよう。
アイリッシュやトゥーンベリのように、社会的な課題に関心を寄せながら、個人の考えを優先して主体的にものを言っていくという、Z世代的な在りようというのは、その世代自身から見ると自然な感性や考え方だといえるが、その上の世代からすると、一種の挑発として受け取られる場合があるのが現実だ。だから、若い世代が物怖じせず主張を継続することは、旧弊な価値観の社会においては、「悪役」に見えてしまう瞬間もある。そういう世界を、下の世代は言葉にせずとも、肌で感じているのではないか。
本書で描かれるのは、良い行いをしようと奮闘し続ける「バッドガイズ」の姿だ。ある種の偏見にさらされながら、それでも正しいことをしていこうとする、その奮闘は、まさに正しい生き方を望むZ世代以降の子どもたちの宿命に接近している。それこそが、これから未来を生きようとする読者の感覚に刺さったのかもしれない。