誰かの不幸で腹を満たすーーなるみや「恋のfrog」が描く現代のリアル、バイラルの枠を超えて拡張する世界

なるみや、「恋のfrog」で見せた表現の深化

 2021年にTikTokへの初投稿を行って以来、わずか1カ月で10万人フォロワーを達成し、その独特の音楽性とユーモア溢れる人間性で瞬く間に若い世代の心を掴んだシンガーソングライター・なるみや。作詞・作曲・編曲のすべてを自ら手がけ、世の中の“不憫”に寄り添い続ける彼女の音楽は、数多くのリスナーの共感を生み、今や「可愛いあの子が気にゐらない」の楽曲総再生回数が2億4,000万回を超えるほどの爆発的な広がりを見せている。そんななるみやが、6月にリリースした新曲「恋のfrog」に注目したい。

〈縦型の思想のゴミ溜め〉ーーなるみやの楽曲に潜む“読み解く”楽しさ

 若者を中心に広く共有されている“蛙化現象”をテーマに据えたこの楽曲は、2022年当時高校生だったなるみやがTikTokに投稿したデモをフルサイズ化したもので、ファンの間で長らく音源化が待ち望まれていた中、このたび正式にフル楽曲としてリリースに至った。

 まず耳が奪われるのは、エレクトロスウィング調のジャジーなアレンジだ。軽快なリズムと華やかなホーンアレンジが楽曲を彩り、どこかレトロでありながらも、同時に現代的な感触も備えた、小洒落た音作りが面白い。なるみや作品の特徴である“かわいさと毒”の共存が、本作ではさらに洗練された形で表れていると言えるだろう。

 特筆すべきは歌詞である。“蛙化現象”という言葉は恋愛文脈で語られがちだが、なるみやはそこに若者特有の現代的なテーマを詰め込んでいく。中でも〈誰かの不幸で腹を満たす/縦型の思想のゴミ溜めで時間を燃やしてる〉というフレーズには、ショート動画やSNSに依存する現代人への鋭い批評性が宿っている。

恋のfrog - なるみや

 一方で、そのシニカルな視点が説教臭くならないのは、特有のウィットに富んだ言語センスがあるからだろう。MVのコメント欄において細かな歌詞考察や演出についての話題で盛り上がっていることからも、なるみやの楽曲は聴くだけでなく“読み解く”楽しさがあると感じる。

 なるみやの音楽は、これまでも現代の“生きづらさ”をポップに昇華してきた。コンプレックス、孤独、嫉妬、違和感。普通なら言葉にしづらい感情を、彼女はユーモアとキャッチーなメロディで包み込み、誰もが口ずさめるポップソングへと変えていく。その手腕こそが、彼女を唯一無二たらしめている理由だ。その強い作家性は、若手クリエイターの中でも突出していると言っていいだろう。

 ボーカル面での進化も大きい。本作では、従来から評価されてきた多彩な表現力に加え、ラップを取り入れたテクニカルな歌唱が印象的。韻を踏んだリリックを軽快に発音する早口のフロウを自在に繰り出し、キュートさ、シニカルさ、嫌悪感、諦念など、さまざまな感情を一曲の中で目まぐるしく出し入れする。そのイマジネーション豊かな展開力は、現代のポップシーンでも随一のもの。だからこそ、彼女の歌には“ここ好き”と言いたくなる魅力が要所要所に散りばめられていると感じるのだ。

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