『蓮ノ空』103期アルバムに宿る軌跡 星になれずとも、地面に根を張り咲き誇るーー3人が刻んだ消えない足跡

 7月1日に『ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ』(以下、『蓮ノ空』)から、103期生の新規ソロ曲に加えて、既存曲のソロ歌唱版19曲を含めた大ボリュームのアルバム『103nd Graduation Album ~Full Bloom Memories~』の『Hinoshita Kaho』盤、『Murano Sayaka』盤、『Osawa Rurino』盤(以下、それぞれ『日野下花帆』盤、『村野さやか』盤、『大沢瑠璃乃』盤)が届けられた。

3年間の軌跡を紡ぐ、103期生の卒業アルバム

 昨年リリースされた、『蓮ノ空』102期生にフォーカスしたアルバム『102nd Graduation Album 〜Star Sign Memories~』に引き続き、“卒業”をテーマに構成されたソロアルバムだ。1曲1曲再生する度に、3年分の軌跡をめくっていくような感覚になる、まさしく“卒業アルバム”として完成している。なお、103期生は102期生に比べ、1年長く活動が展開されているため、前年のアルバムに比べて曲数が4曲増えている点も特徴だ。

 改めて、ソロバージョンを通して既存曲を分解してみると、102期生の影響と、103期生の成長がより顕著にわかる。特に、歌い方に注目してほしい。日野下花帆は103期から104期にかけて、歌声のトーンが上がり、より楽曲にブライトな印象を与えている。103期の頃は、湿度のある甘い声で楽曲アプローチを行っていたが、これは彼女の敬愛する乙宗梢と似ていた。こうした彼女たちの方向性の一致が、103期スリーズブーケの幻想的な一体感を作り出していたのだろう。だが、104期からは百生吟子という後輩ができたことや、藤島慈と一時期ユニットをともにしたことも影響してか、声のトーンが明るくなっている。そして105期ではそれがより顕著になり、スリーズブーケは底抜けに青い春を表現できるようになった。それは、彼女がただひとりだけを花咲かせるためではなく、「すべての人を花咲かせたい」という壮大な夢を抱くようになった証なのかもしれない。

【SPOT】蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ 103rd Graduation Album~Full Bloom Memories~ Hinoshita Kaho

 村野さやかは、この3年で揺るぎなさを獲得していったように感じる。103期DOLLCHESTRAは夕霧綴理によるメランコリックなメロディと、痛いほどに自分を暴く内省的なリリックが特徴的だった。それに影響されていたのもあってか、さやかの歌にも物憂げなイメージがあった。だが、104期に徒町小鈴が加入した後は、彼女の遠慮ない情熱に背中を押され、揺るぎない力強さも獲得したように感じる。そして、105期では不安すらもあっけらかんに発露する情熱的なフレーズを、曇りなき歌声で聴く者に叩きつけ荒野を切り拓いていった。かつて、必要とされることで安心していた少女は、安心とは程遠い荒野を進む覚悟を獲得したのだ。

【SPOT】蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ 103rd Graduation Album~Full Bloom Memories~ Murano Sayaka

 大沢瑠璃乃は個人的に最も、楽曲から先輩の影響を感じていた。それは彼女が「藤島慈とスクールアイドルをやりたい」という想いだけで始まったと、筆者が思い込んでいたからだろう。そのため、105期に入っても、慈といた頃の表現から、大きく飛び出していく印象はなかった。だが、花帆、さやかとの衝突や、自身の弱さとの再会を経て、瑠璃乃は強さを手にいれる。それを象徴するのが「Echoes Beyond」だ。ナラティブに向き合いながら、ひとりで道を進んでいく覚悟と、変わらない優しさを力強くかき鳴らすナンバー。本楽曲をきっかけに、愛嬌のある高音ボイスだけでなく、小さな体に内包された力強さを押し出すような、瑠璃乃なりの低音ボイスも聴けるようになった。

【SPOT】蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ 103rd Graduation Album~Full Bloom Memories~ Osawa Rurino

 手を伸ばすほど、憧れは憧れであって、同じものにはなれないと知る。どれほど空を見上げても星にはなれないように。だが、その事実に直面してもたらされるのは、絶望や挫折だけではない。星のようになれないと気づいた時こそ、地面に根を張り、懸命に空を見上げていた自分自身に気づけるチャンスなのだ。本アルバムでは、そうして103期生が自分の位置を知り、新しい自分を始めるまでの日々を感じることができるだろう。

 そんなアルバムの最後を飾るのは、制服を脱ぎ捨てた先の未来を進んでいく、103期生自身へ向けたアンセムだ。

アルバムに刻まれた、3人が未来へ進むための足跡

 花帆が歌うのは、移り変わる景色と、普遍の想いを込めた「プレイリスト/「あの日」」。メロディアスなピアノと豊かなストリングスが景色も匂いも移り変わる切なさを引き立て、疾走感のあるバンドサウンドが風を切って駆け抜けていく。あの日と変わらない花帆の姿を思い起こさせてくれる楽曲だ。花帆が再生するプレイリストに内包されているのは、誰かの物語ではない。誰とも貸し借りのできない、彼女だけの物語なのだと、そう訴えかけてくるようだ。

 本や曲に内包された物語は普遍だが、それを読み、聴く自分を取り巻く環境は、刻一刻と変化していく。だから、曲が想起させてくれる景色や匂いは、時を経るごとに自分が“あの日”から遠ざかっていくことを実感させていくだろう。だが、不可逆性に切なくなることは、そこに自分がいた証明にもなる。誰かが書いた本や楽曲に、心打たれた経験は誰しもあるだろう。しかし、作品が切り取った情景が、当時から変化していくことを実感できるのは、その瞬間を生きていた者たちだけの特権だ。“あの日”から変わっていく景色と、増えていく大切なもの。それを感じられることこそ、花帆とこの曲を聴く者が、“今”を生きていたかけがえのない証だ。

 続いて、情熱的なロックサウンドと、伸びやかな声が聴く者の背中を押してくれる「Bless you!」。自分へのエールと自己嫌悪が内在する、さやからしい揺らぎのあるナンバーだ。特筆すべきは歌声。これまで時に物憂げに、時に苛烈に歌い上げてきた、DOLLCHESTRAの村野さやかとは違う。笑顔が素敵で、天然で、明るい少女を思わせる、等身大の素直な歌声が耳に心地よい。そんな歌い方のギャップも、筆者は“さやからしさ”のように感じる。人は常に揺らいでいる生き物で、今日の自分が、明日も同じとは限らない。同じ空を見たとしても、その時々で悲しくも嬉しくもなれるように。そうした移り変わりを実直なほどに体現し、また恐れていたのも、村野さやかという少女だったように思う。

 さやかは本来臆病な少女だ。期待に応え、誰かに必要とされることで、安心を得るほどに、だが、さやかは強くあろうとすることができる。感情を凍らせて、諦観し、進んでいくのだ。しかし、「Bless you!」が肯定する〈「自分らしく」〉とは、そうした後ろ向きの前進とは異なるはずだ。自分らしさは、日々変化していく。今日の望みが、明日は過去になっているかもしれない。そんな刹那の感情に素直に応えられることが、自分らしくあるということではないだろうか。それをさやかは後輩から学んだ。時を止めたいと思ったのなら、止めたいと願っていい。そのうえで、どうにもならない事実とも向き合いながら、祈りを抱え進んでいく力こそ、自分らしくあるための鍵なのだ。

 そして、『大沢瑠璃乃』盤の最後を飾るのが、瑠璃乃の強さと弱さを内包した「ミジンコトランスフォーメーション」だ。1番で攻撃的なロックサウンドが鳴り響いたかと思えば、2番では8bitの電子サウンドにバトンタッチ。そして間奏から2つのサウンドが混ざり合い、小気味よい8bitチップチューンパンクが繰り広げられる。この激しいサウンドの裏に隠されていた可愛らしいチップチューンが、混ざり合いひとつの曲として形を成す構成は、弱さも自身の強さであると受け止めた瑠璃乃の気づきを表現しているようだ。

 瑠璃乃はヒーローであるため、誰かの手を強引に引けるような強さを手に入れようとした。ミジンコには生き残るために、頭部を変形させ、天敵から身を守ろうとする習性がある。それは、周りからすれば、ほんのわずかな変化だろう。それでも、その途方もない一歩一歩を繰り返した先に、世界中を夢中にできる自分がいるかもしれない。もちろん、ミジンコがロブスターまで進化してどれほど強固な殻を纏おうと、内部に隠れた弱さが変わることはないだろう。それが、瑠璃乃が見つけた、理想にたどり着くための変化ではないだろうか?

 スクールアイドルであった時間で3人が残してきた足跡は、確かにアルバムの中に残されている。『日野下花帆』盤では、部屋の中でファンタジーに思い耽っていた少女が、現実の世界で自分を好きになれる魔法と出会うまでの冒険譚を。『村野さやか』盤では、時計の針に合わせて生きることを自分らしさだと信じていた少女が、針を止めたくなるほど苛烈な感情を抱いたとしても進み続ける強さを。そして『大沢瑠璃乃』盤では、誰かのために強くなりたいと願っていた弱さが本当は誰にも負けない強さであったと気づきを得るまでの軌跡を刻んでいた。

 この事実は未来永劫、決して消えることはないだろう。このアルバムを手にとった、『蓮ノ空』のこと好き好きクラブのみなさん(ファンの呼称)も、どうか彼女たちの軌跡を忘れないでいてほしい。

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