サカナクションが追求し続けた“総合芸術”としての音楽表現 映像・音響・アートを融合した挑戦と革新のバンド史

“世界初”にも挑んだサカナクションの音響に対するこだわり

 もちろん、ライブで重要なのはビジュアル面だけではない。サカナクションはその根幹である“音”においてもイノベーションを繰り返してきている。2013年のツアー『SAKANAQUARIUM 2013 "sakanaction"』の幕張メッセと大阪城ホールでの公演では、世界初となる6.1chサラウンドシステムを導入。会場を取り囲むように228本ものスピーカーを設置し、音に包まれるような空間を生み出してみせたのだ。筆者もあのライブを観に行ったときの驚きは鮮明に覚えている。横や後ろから音が飛んでくる、いや、音に包み込まれるような感覚は、それまでのライブとまったく異なる音楽体験だった。2019年のツアー『SAKANAQUARIUM 2019 "834.194"』ではさらにスピーカーの数を増やしてますます圧倒的な音響を実現。バンドにとって過去最大規模となるツアーを、音楽表現としてもさらに高い次元へと押し上げたのだった。

サカナクション - LIVE Blu-ray&DVD「SAKANAQUARIUM 2013 sakanaction」
「SAKANAQUARIUM 2019"834.194"」ダイジェストトレーラー

 ここまでMVやライブを中心にサカナクションのクリエイティブを振り返ってきたが、作品のアートワークへのこだわりについても触れておきたい。音楽のパッケージソフトの市場が縮小していく中にあって、サカナクションはパッケージ自体をひとつのアートピースと位置付け、気鋭のアーティストやデザイナーとともに作品のメッセージやコンセプトを伝えるメディアとして活用してきた。たとえば2018年にリリースしたベストアルバム『魚図鑑』では、サカナクション関連のデザインを多数手掛けるアートディレクター・平林奈緒美が魚に関する古い専門書をベースにしたアートワークを制作。サカナクションの楽曲をあらゆる視点から分析したブックレット「魚大図鑑」や、魚の分布図をモチーフにしたデザインなど、文字通り“図鑑”としての重厚さを感じさせる、所有欲をくすぐる作品を生み出した。また、2019年のアルバム『834.194』ではアーティストデュオ・Nerholの作品2点をメインビジュアルとして起用。これはある2つの地点を連続的に撮影した写真を積み重ねた上で掘り込み、そこに潜在する視点や感覚を浮き上がらせていくというコンセプトで作られたもの。それは北海道と東京というバンドにとって重要な2つの場所の距離をタイトルにしたアルバムとも密接にリンクするものだった。いずれも音楽自体を出発点にデザインやアートに昇華させた例だ。

 ほかにもLIQUIDROOMで開催したクラブイベント『NF』やグッズデザイン、『「SAKANAQUARIUM 2025 "怪獣"』での映像とステージ上のパフォーマンスがシームレスにつながる演出など、サカナクションがカルチャーやアートフォームを横断しながら自身の音楽を拡張していく試みについては枚挙にいとまがない。かつ、彼らが特殊なのは、単に各領域をクロスオーバーさせるだけでなく、そのすべてにおいてバンドとしての意図が完全に浸透した“サカナクションの表現”として完成度を追求し尽くしたものになっているという点だ。それこそが山口が常に自分たちを「チームサカナクション」と呼ぶ理由である。バンドである以上もちろん音楽が中心ではあるが、サカナクションにおいては音楽が主、そのほかの表現が従という関係は常に絶対というわけではない。さまざまな表現が互いに呼応しながら新たな体験を生み出していく中で音楽に込めたメッセージやテーマが顕在化していく、それがサカナクションの総合芸術だ。

 今回の『MUSIC AWARDS JAPAN 2026』はそうした彼らの在り方に改めて光を当てた。この受賞を力にこれからさらに進化していくであろうサカナクションの表現にも、引き続き注目だ。

※1:https://j-mediaarts-festival.bunka.go.jp/award/single/sakanaction/index.html
※2:https://natalie.mu/music/news/41779

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