『デーモン・ハンターズ』が残した大きな足跡、新人グループの早期ヒット……“文化としての定着”が感じられた2025年のK-POP

 2025年のK-POPシーンは、大きな地殻変動のようなものはなかったものの、今までにはなかった全く違う新しい動きも見られた。

 これまで、韓国内の音源サービスの利用者数では長年Melonがトップを独走しており、海外のK-POPファンの間でも「韓国内でのヒット曲を見るならMelon」というイメージが定着していた。しかし、ここ数年ユーザー数を劇的に増やしてきたYouTube Musicがついにアクティブユーザー数1位となった(※1)。モバイルデータ分析企業IGAWorksの「モバイルインデックス」2025年10月のデータではYouTube Musicが約797万人に対してMelonは約705万人となっており、3位のGenieは約303万人と2倍ほどの差がある。2024年に韓国内で正式にローンチされたSpotifyは5位の173万人と他サービスと比較すれば少ないユーザー数だが、今後NAVERと提携するとのことだ。

NMIXX(엔믹스) “Blue Valentine” M/V

 この変化の中でもそれぞれの年間チャートを見ると、G-DRAGONやBLACKPINKメンバーなどのベテラン勢やaespa、IVE、LE SSERAFIMなどの既存の人気ガールグループは安定した強さを見せ、Hwasa(MAMAMOO)の「Good Goodbye」やロングヒットを記録しているWOODZ「Drowning」等のバイラルヒットも堅調だった。2022年にJYP EntertainmentからデビューしたNMIXXは、「Blue Valentine」で音源チャートトップ圏入りのみならず、Melon、YouTube Musicともに初の1位を記録。ボーイグループではBOYNEXTDOORの「IF I SAY, I LOVE YOU」のように本格的なプロモーション活動終了から現在に至るまで上位にチャートインしている楽曲も見られた。

2025年の“K-POPの顔”はTHE BLACK LABEL?

“Golden” Official Lyric Video | KPop Demon Hunters | Sony Animation

 2025年、K-POPシーンで最も大きなグローバルヒットとなったのは、間違いなくHUNTR/X「Golden」だろう。ソニー・ピクチャーズ アニメーション制作でNetflixの映画部門で歴代視聴数の記録を塗り替えたアニメ映画『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』(Netflix)に登場するガールグループで、同じく作中に登場するボーイグループ・Saja Boysの「Your Idol」「Soda Pop」とともに韓国内では現在まで長期間チャート上位に君臨。米ビルボードのソングチャート「Hot 100」や英「オフィシャルシングルチャート」など、アジアのみならず欧米圏の主要チャートでもトップ圏内に長期にわたってチャートインするなど、2025年のグローバルエンタメと音楽シーンに大きな足跡を残した。

 「Golden」の大きな特徴は、“K-POP”を謳っているものの歌詞は全て英語であるという部分だろう。しかしながら、楽曲自体は韓国のヒットメーカー・TEDDYが率いるTHE BLACK LABELの作曲家によって作られているという点が、この楽曲をK-POPとしての側面を持たせている。『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』全体に関しても、制作に韓国系クリエイターは複数関わっているものの、制作はあくまでアメリカの法人であり、韓国ではない。『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』人気に呼応して、アメリカや韓国では日本でいう“応援上映”のような映画館で合唱しながら見るのが前提の上映会も開催された。こういった光景はある意味では、日本におけるアニメのように、アメリカなどの異文化圏から見た“韓国文化とK-POP”に対するある種のステレオタイプが明らかになった瞬間とも言えるだろう。

ALLDAY PROJECT - ‘FAMOUS’ M/V

 そんな『POPガールズ! デーモン・ハンターズ』の楽曲を手がけたTHE BLACK LABELは2NE1・BLACKPINKのプロデュースで知られるTEDDYがYG Entertainmentから独立したレーベル(初期はYG Entertainmentによる投資が入っていたが、現在は完全に独立している)で、数々のグローバルヒット曲を生み出した人材が所属している。今年、THE BLACK LABELからデビューしたALL DAY PROJECTはK-POPでは珍しい男女混合企画グループながら、アメリカの名門・コロンビア大学卒業という異色の経歴を持つANNIE、サバイバル番組出身者のYOUNGSEO、中学生時代にヒップホップサバイバル番組へ最年少出場した経験のあるWOOCHANなどが所属しており、デビュー前から注目を集め、1stシングルアルバム収録の楽曲「FAMOUS」は実際に韓国でヒットを記録した。BLACKPINKの3年ぶりの新曲「JUMP」も含め、2025年の“K-POPの顔”はTHE BLACK LABELだったと言ってもいいかもしれない。

日本アーティストの来韓急増、中堅〜ベテラン格のライブでの活躍

 また、韓国内では日本のアーティストの来韓ライブの急増とJ-POPテーマのフェスが複数開催されるなど、若者中心にJ-POPがサブカルチャーとしてさらなる盛り上がりを見せた。特に米津玄師は、韓国国内での認知度と人気も高く、すでに3月に仁川で行われるライブのチケットを即完売させており、主題歌を歌った劇場版『チェンソーマン レゼ編』の韓国内での大ヒットと連動し、9月末には「IRIS OUT」がYouTube Chartsの韓国における「デイリー ミュージック ビデオ ランキング」で1位を達成(※2)。Melonでも「TOP100」チャートで4位を記録した。

BLACKPINK - ‘뛰어(JUMP)’ M/V

 2025年はBTSのメンバーが全員兵役を終え、ソロで活躍しながらも、2026年春のカムバックを予告。BLACKPINKもグループとして3年ぶりの新曲「JUMP」のリリースや約1年5カ月ぶりのワールドツアー『BLACKPINK WORLD TOUR <DEADLINE>』をスタートさせた。また、デビュー20周年を迎えたSUPER JUNIORや、15周年記念のワールドツアーを行ったINFINITEなど、“第2世代”と言われるベテラングループの活躍も目立った年だ。

 2010年代後半デビューですでに中堅格のアーティストたちは、アルバムやコンサートで市場の中核を担った。今年デビュー10周年を迎えたTWICEは、アメリカでも着実にツアー規模を拡大。ニューヨークのメットライフ・スタジアムでの公演を成功させた。SEVENTEENの5thアルバム『HAPPY BURSTDAY』は発売1カ月ほどで全世界で300万枚に近いセールスを記録し、Stray Kidsのアルバム『SKZ IT TAPE「DO IT」』は米ビルボードのメインアルバムチャート「Billboard 200」でで8作連続で1位を獲得している。日本やアジア圏のみならず、欧米圏でも第3世代のアーティストのファンダムを中心に、“K-POP”はサブカルチャーのひとつとして完全に定着したと見ていいだろう。

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