Mrs. GREEN APPLE、大ヒット曲の“聴き取れていなかった”魅力 インストアルバムから見える緻密な音楽設計の全貌

 Mrs. GREEN APPLEのインストゥルメンタルアルバム『10 -Instrumentals-』が12月8日に配信リリースされた。今年7月にベストアルバム『10』をリリースした彼ら。そのインストアルバムである今作には、『10』収録の全19曲に加え、ダウンロード限定ボーナストラック「道徳と皿 〜2025 ver.〜」と今年9月リリースのシングル「GOOD DAY」を含む全21曲のインストトラックが収録されている。彼らは2020年にベストアルバム『5』をリリースした際も、その5カ月後にインストアルバム『5 -Instrumentals-』を配信している。今回も同様の流れで、『10 -Instrumentals-』はフェーズ2の締めくくりにあたる2025年末に届けられることとなった。

「私は最強」「ニュー・マイ・ノーマル」……フェーズ2の物語をサウンドで辿る

 フェーズ2の約3年9カ月間は、Mrs. GREEN APPLEにとって飛躍の時期となった。ベストアルバムを濃密な日々の記録と解釈すれば、楽曲の多彩さ、振れ幅の大きさ、情報量の多さにも合点がいくだろう。作詞作曲者でアレンジの統括も行う大森元貴(Vo/Gt)が書いたカラフルな楽曲を、若井滉斗(Gt)、藤澤涼架(Key)の演奏技術が支えることで、表現の可能性が大きく拡張された。そうして生まれたサウンドが、老若男女をワクワクさせた。それが彼らの飛躍の一つの要因だろう。

 『10 -Instrumentals-』を聴くことで見えてくるのは、その緻密な音楽設計の全貌だ。現在開催中の展覧会「MGA MAGICAL 10 YEARS EXHIBITION『Wonder Museum』」の内容からも窺えるように、大森は視覚的イメージが豊かだ。彼の脳内には様々な景色が広がり、無数の音が鳴っている。大森が設計する音楽は、楽曲という名の画であり空間だ。インストは、その空間で各楽器がどんな役割を担い、どう配置されているかを把握するためのヒントとなる。楽器同士がバトンタッチしながらダイナミクスを作り上げる構造や、モチーフの展開過程もインストだと追いやすく、楽曲全体を貫く構想がより明確に浮かび上がる。

 では、具体的にインストで何が聴こえてくるのか。例えば、ボーカルメロディの裏で歌うもう一つの旋律線。セカンドメロディは、アルバムの1曲目「ニュー・マイ・ノーマル」から早速確認できる。サビでリードギターが非常に細かいフレージングを施しているのだ。インストでは、歌があると埋もれてしまいがちな副旋律が主役級の存在感を放つ。「ケセラセラ」や「ライラック」など何億回と再生されたヒット曲にも、まだ聴き取れていなかった魅力があることに気づかされるはずだ。

 緻密な設計の上に展開されるフェーズ2の楽曲群。その出発点を象徴するように鳴り響くのが「私は最強」だ。バッキングギター1本でスタートし、やがてバンドサウンド、ストリングス、ブラスが溢れ出すように展開していくこの曲は、活動休止期間中に制作されただけに、原点から音楽的イメージを拡大していく様が刻まれている。1番と2番ではサビのドラムパターンが異なるのも印象的だ。1番は力強いロールであるのに対し、2番では付点を効かせてギャロップのようなリズムを刻む。いずれも勇む心や高鳴る鼓動を表現したものであり、曲が進むにつれて、風に乗って駆けていくようだ。再始動と新たな挑戦への決意が音に宿っている。

「天国」「ナハトムジーク」……細やかな意匠で紡いでいくドラマ性や二面性

 大森が設計する音楽空間では、音色や音楽ジャンル、和声の選択が、楽曲の世界観を雄弁に語る。「コロンブス」の冒頭小節では、パーカッションループのような音が16分音符で細かく刻み、4拍目に水音が重ねられている。ボーカルが同じリズムで動いていたため気づきづらかったこの意匠が、インストでは明確に。そして耳を澄ますと、スネアドラムが鳴るたびに水音が重ねられているのもわかるだろう。「ビターバカンス」では、8ビートを刻むピアノとロカビリー系のギターが新鮮な響きを生む一方で、ケルトや中東など民族音楽の楽器も取り入れられている。国籍不明の音が、脳内で作り上げた“ここではないどこか”への逃避願望を物語っているようで、〈休めばいい〉〈バカンスに行っちゃえばいい〉と歌う楽曲のテーマとの符合を感じた。この曲は、映画『聖☆おにいさん THE MOVIE ~ホーリーメンVS悪魔軍団~』の主題歌でもあり、イエスを連想させるオルガン、ブッダを連想させるサントゥールなど、作品とリンクする音色も散りばめられている。インストで聴くと、こうした遊び心にも気づきやすい。「ナハトムジーク」では澄み切った音世界が構築されているが、デジタル音の重ね合わせや意図的な音のぶつかりによって不穏さも漂っている。楽曲が持つ二面性、美しさと危うさを音色と和声の選択で描き出している。

 ライブや音楽番組での大森のパフォーマンスが鮮烈な「天国」は、ボーカルがなくても非常にドラマティックだ。楽曲はピアノのコードと雑踏のような環境音から始まり、最低音域に近いB音が鳴らされる瞬間、環境音が消える。その切り替わりだけで、主人公の抱える孤独感がまざまざと伝わってくる。ピアノが静かに紡ぐ旋律、心の軋む音として鳴るデジタルサウンド、ストリングスの描く下降線、唐突なカットアウト……。あらゆる手段で表現される絶望が、インストだからこそ明瞭だ。楽器の種類や音数が増え、感情の波が徐々に拡大していくなか、楽曲後半では歪むギターが掻き鳴らされる。叫び声を上げているかのようだ。そして終盤、ドラマティックなストリングスとともに異様な頻度で転調が繰り返され、天国への階段を一段ずつ上っていくような感覚を生む。転調とともに明るい方へ向かうなか、鳥のさえずりとピアノのフレーズによって曲が終わるが、そのラストは唐突だ。ブツ切れのラストに、誰もが主人公の行く末を想像してしまうことだろう。この美しくも恐ろしい楽曲は、Mrs. GREEN APPLEが設計する音楽空間のひとつの到達点とも言えるのではないだろうか。楽曲を構成するすべての要素が、一つの風景として結実している。

 怒涛のフェーズ2を経て、Mrs. GREEN APPLEの音楽世界はさらなる深みと広がりを獲得した。活動の記録として刻まれた楽曲の数々は、インストトラックを通して、音の配置や重なりまで含めた輪郭をはっきりと現す。メンバーにとっては苦楽の思い出が染み込んだ楽曲も、楽曲によって紡がれたライブでの景色やリスナーとの繋がりも、すべてが愛おしい宝物だ。それらを胸に抱きながら、彼らは新たな旅路へと向かうのだろう。

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