Mardelas 1万5000字インタビュー 10年の道のりの真実、鳴らすべき音楽、現在地――語り尽くす

Mardelasがバンドの今年メジャーデビュー10周年を記念したベストアルバム『Brand New Best 2025』をリリースした。2枚組、全22曲を収録。リレコーディングとリミックスが施され、さらには新たなアレンジも加わり、今のMardelasを刻んだ作品だ。
ここに記すのは、蛇石マリナ(Vo)、及川樹京(Gt)、本石久幸(Ba)、そしてMardelasというバンド、生み出した楽曲たち、それぞれの真実を語ってもらった1万5000字におよぶロングインタビューである。笑いながら、当時を振り返りながら、そして時には涙を流しながら、3人は2時間にわたってじっくり話をしてくれた。(編集部)
勝負に出たデビュー10周年記念公演、そしてベストアルバム『Brand New Best 2025』
――今年4月29日に東京・渋谷 CLUB QUATTROにおいて、デビュー10周年記念公演がありました。Mardelasとしては大きなトピックでしたが、あらためて、どんなライブだったと振り返りますか?
蛇石マリナ(以下、蛇石):普段よりも大きな会場を押さえて、私たちにとっては勝負に出た感じというか。個人的にQUATTROという箱に憧れがあったりもしたんですけど、いろんな人が駆けつけてくれて、ちゃんと形にもなりましたし、本当にみなさんに支えられて、10周年を迎えたことをすごく実感しました。
及川樹京(以下、及川):その前にライブ作品(『Live 2024 -Dead or Alive-』)にもなっている、SHIBUYA PLEASURE PLEASUREでのライブ(2024年2月25日)がありましたよね。現状維持をよしとするような気持ちでバンドを続けてはいなかったし、その意味では、ある種の迷いがあったうえでの大きなライブを、そこで成功させられたという実感があったんです。その後により前向きな考えで決めたのがQUATTROでのワンマンで。演奏や見せ方、音の作り方もそうですけど、もっとブラッシュアップした部分を形にすることができた。めったに僕は友達とか関係者とかに声をかけたりはしないんですけど、この日は連絡をしてみたりもしたんですよね。普段の感謝なども伝えたかったですし。客観的にもよい意見をいただけたので、バンドの成長をすごく実感できた、個人的にも納得のいくいいライブでした。
本石久幸(以下、本石):僕は逆にいっつも関係者に声をかけまくってるんですよね(笑)、みんなでお祭みたいにしたいので。いろんなところに顔を出す中で新しく知り合う人たちにもMardelasの活動を知ってもらいたいですし。僕はQUATTROには行ったことがなかったから、新鮮でしたね。「これが噂の柱か!」みたいな(笑)。ライブもすごくよかったですね。その頃からオーダーメイドのイヤモニを使い始めたんですけど、パフォーマンスのクオリティがまた一段上がった実感が得られた節目のライブでもあったかもしれないですね。
及川:そういえば、知り合いに「海外の人が多いね」って驚かれました。それなりに関係者もいたとは思うんですけど、ほかのバンドのライブではそこまで多くないみたいですね。
蛇石:日本の電話番号がないとプレイガイドでチケットが買えないので、オフィシャルサイトにも海外からの問い合わせが結構あったんですよ。日本で活動しているのに、世界中にファンが増えてるのは、やっぱYouTubeとかのおかげなのかもしれませんね。海外からのアクセスやコメントは多いですし。
――実際に海外公演で初めて観た人が日本を訪れるケースもあるでしょうね。
蛇石:もちろん、そういうのもあると思います。あと、象徴的だったのが、『DEAD OR ALIVE』の時と比べて、私たちもお客さんも、すごく笑顔が増えたなって感覚があるんです。あのライブをきっかけに、バンド側もいろんなものが吹っ切れて前向きになれたというのもあると思うんですけど、お客さんもすごく楽しそうに観てくれて。当日の写真を見てあらためて思ったんですよね、私の笑顔もめちゃくちゃ増えてるな、って(笑)。
及川:コロナ禍が終わってすぐの頃は、みんなやっぱり様子見だったんですよ。そこから積み重ねもありますよね。バンドのスタイルも、地下に潜っていた期間にだいぶ変わったし。うちらも自然とポジティブな思考というか、コロナ禍でも活動を止めずにやってきたこと自体がその表れだと思うんですけど、それがすごく伝わってる気がして。
――そんなライブを経て、完成に至った今回のベストアルバム『Brand New Best 2025』ですが、10周年のタイミングで何をやるべきかという話のなかで出てきたアイデアが、この作品の制作でしたね。
蛇石:10周年で何かしたいというのはあったんですけど、私はもともとベスト盤を出すことにはあまり興味がなかったんですよ。でも、バンドが今すごくいい状態にあるのであれば、再録して、過去を超えるような作品をこのタイミングで出すのもいいかなと思ったんです。ライブを経て曲が成長してきた過程を見てきてくれた方々にはパワーアップしたものをお届けできるし、これからファンになってくれるであろう人たちに向けて「とりあえず、これを聴いとけ!」っていう作品をひとつ出すのもアリかなって。
――選曲はどういう基準だったんですか?
及川:基準の認識はメンバー内でも合っていて、MV曲とかだったり、ライブで欠かさずやってる曲だったり――。
蛇石:あとは、今後のライブで登場する回数が多くなるだろうという曲。あとはMao(Key/LIGHT BRINGER)くんのアレンジによって化けた曲を、みんなにしっかり音源で聴いてほしいという視点で入れたものもありますね。22という曲数は、自分たちのキャパ的にもやれるギリギリの線で(笑)。で、再録の曲を極力多くしつつ。結果、『Ⅳ』に入っている「Spider Thread」が、MV曲なのにあぶれてしまいましたけど。あとはちょっとしたこだわりなんですけど、歌詞カードには、各曲が収録されていたアルバムを全部記しました。初めて聴いた人が、好きな作風があれば、そのアルバムを遡ってもらいやすいように。自分がファンとして誰かのベストアルバムを聴く時に、「これは何に入ってるんだろう?」って、すごく気になるんですよ。せっかくCDを買ってもらえるんだったら、そういう便利な情報も入れておきたいなと思って。
及川:『Mardelas Ⅱ』(2016年)からの曲が多めになっているのは意図的でして。これは僕もしつこく言ってますけど……当時、あまり評価されなかったんですよ(笑)。
蛇石:執念がすごい(笑)。
及川:(笑)。曲がめちゃくちゃいいと今もずっと思ってて。ただ、ちょっと時期が早すぎた。というのは、『Mardelas Ⅰ』(2015年)が結構ストレートなハードロック/ヘヴィメタルだし、それまでに書き溜めてた「これだ!」という曲だけを入れたようなイメージで。当時は女性ボーカルのハードロック/ヘヴィメタルバンドが軒並みメジャーデビューしてた時期で、「そこに一発かまそう!」っていうアルバムでもあったし、実際に評価もされたんです。でも、2ndアルバムを作る時には、ポップ路線というわけではないけど、このままハードロックという狭いシーンにいてもダメだと思って。だから、J-ROCKとか、そっちに寄せたほうがいいんじゃないか、とか話して。
あとは最終的なミックスですね。思っていたより質感が軽かったんですよ。ここはぜひリベンジをしたいなと。曲が悪くて評価されなかったのではなく、ちゃんと今の音でやることで「めちゃくちゃいい曲なんだ」と伝えたかったです。「Cheers!!」とかは、当時は完成形を作り切れなかった感覚があって。この曲はMaoくんのシンセが入って世界観が完成した感じがあります。
――『Ⅱ』からの5曲をほかのアルバムの楽曲のなかに混ざっている状態で聴いても違和感はないですし、サウンドメイクが異なるとはいえ、当時評価されなかった理由はよくわからないですね。
蛇石:特に「神風」とか「蛇に牡丹 -snake & peony-」とか、それぞれめっちゃ及川曲だし、めっちゃ蛇石曲だし、「何が違うの?」っていう感じじゃないですか。
――むしろ、Mardelasの色が色濃く出ているような楽曲ですよね。
蛇石:そうなんですよ。意外と『II』の時の作曲スタイルって、今のベースになってたりするんですよね。
迷ったサウンドメイクを『Ⅱ』でしてしまって、10年引きずって、「録り直そう」って(及川)
――本石くんには『II』はどのように映るのでしょう? 加入する以前のアルバムになりますね。
及川:どうなの? 逆に気になるよね。
本石:やっぱ、『Ⅰ』がすごくハードだったので、あの時の音でやっていたら印象も違うのかなとか思ったんですけど……「そういう時期もあるのかな?」と思って見てましたね(笑)。「Crossroads」は当時からすごく好きで……やっぱり歌詞ですかね。
蛇石:歌詞!? あ、そうだ! 〈僕〉だからだ!(笑)
本石:そう。女性ボーカルの人が〈僕〉って歌う歌詞が僕は好きなんです(笑)。当時もこれはどういう内容なんだろうと思ってた。本当は何の歌詞なの? 恋愛とかの話じゃないじゃん。人生の分岐点みたいな?
蛇石:そう、男性の目線で描きたかったの。「あの時ああだったら、こうだったのかな」みたいなことって、意外と女性は考えないんですよね。男性のほうがそういう人生の決断について振り返る人が多いなっていう、私の個人的な仮説があって。
――正解です(笑)。
蛇石:やっぱりそうですよね。でも、いろんな人に言われたんですよ、「どうしてそんなに男の心がわかるの?」って。これは、20代後半から30代前半ぐらいの男性のイメージですね。ある程度、人生の決断をしてきた段階の男性像というのはあります。
――その時になぜそれを書こうと思ったんですか?
蛇石:(作曲者から)頼まれたからです(笑)。
及川:僕がウジウジしてたからじゃないですか(笑)。
蛇石:そう、それを代弁した(笑)。でも、別に彼だけのことをモデルにしたわけではなくて、広く一般的にこういう男性は多いよな、って。何となく共感してほしい気持ちもありました。男性はグサッとくる方が多いらしいです、この歌詞に。
及川:そうだね。それに、迷ったサウンドメイクを『Ⅱ』でしてしまって、10年引きずって、そこで「録り直そう」って。いや、その時その時のベストだと思うことをやる姿勢には変わりがないんですよ。振り返っても、手を抜いてる時期はないと思います。
――『Ⅱ』からの「千羽鶴 -Thousand Cranes-」「神風」「蛇に牡丹」の3曲の存在感は強い。Mardelasといえば、みたいなところもあると思いますし。
蛇石:「神風」もこのベスト盤で完成した感がありますね。自分の歌もそうですし、アレンジも。西海岸っぽい感じがすごく好きなんですよね。ちょっと抽象的なんですけど。
及川:アメリカンな? 何か最近、「ギターの音がアメリカンだよね」みたいに言われたんですけど、アメリカンなサウンドってどんな感じなんですか?
――カラッとしたような音でしょうかね?
蛇石:そう、だから、西海岸って言ったの。
――「神風」はまさに“神風”のイメージで曲は書いたんですよね。
及川:そうです。
蛇石:珍しくタイトル指定でしたね。
及川:普段はあまり言えないことを、ちょっとずつ曲とかに入れて表現していくのがアーティストだと思ってたので、マリナにお願いして書いてもらった歌詞でもあります。別に、他者を攻撃するとかの話ではないんですよ。今でこそムーブメントが保守になってますけど、自分の国を好きでいたり、自分の国が安全であってほしいと思うことって、何らおかしなことじゃないですよね。
――“神風”という言葉に過敏に反応する人はいますよね。
蛇石:難しい話でもありますけど、私はこの曲をもっとパーソナルにとらえていて。どんな時代でも普遍的に受け止められるものを書こうという解釈で書きましたね。だから、タイトルは尖ってるけど、どんな人にも共通する、人間として生きていくうえでの思いみたいなものをキャッチーに書けたらなと思って。サビとかとても気に入っていますね。
及川:自分のいちばん大切なものも守れないのに、世界平和は語れないと思うんですよ。だから家族愛とかだったり、そういうのがこの曲には入ってますね。
蛇石:あと、自分らしく生きたいというようなメッセージもありますね。そういう思いって、いろんなことに振り回されながらも、みんなが持ってるものじゃないですか。そういう部分がAメロだったり、Bメロだったりに入ってますね。海外で育った自分の視点もあるかな。一人称がほとんど入ってないのも、私でも僕でもない、性別もあまりわからないようにしたかったからなんですよ。いつも結構考えるんですよ、「一人称は何にしようかな?」って。



















