Mardelas 1万5000字インタビュー 10年の道のりの真実、鳴らすべき音楽、現在地――語り尽くす

中島みゆきが藤圭子に曲を書いたら――蛇石マリナの想像と誇りの結晶「蛇に牡丹」
――「蛇に牡丹」はライブで演奏する機会は多いですが、これもMardelasらしい曲を挙げると筆頭に出てくるものですね。
蛇石:嬉しいです。当時も、この世界観を歌うにはちょっと早すぎたかなと感じてたんですけど、やりたかったんですよ。自分の歌謡曲ルーツみたいな部分とブルースロックで、自分だからできること、自分のシンボルになるような曲を書きたかったんです。ただ、今のほうが絶対に説得力があると思う。それに、「女性が年齢を重ねるのって悪いことじゃないよな」って、この曲を通してすごく思ったんですよね。「蛇に牡丹」は、歳を重ねた深みと影のある女性像がモデルになってる。だから、リベンジしたかった曲のひとつでもありますね。あの歳でこの曲を書けたことは、すごく誇りに思ってますし。
――70年代の素晴らしい歌謡曲を振り返ると、当時の歌手は20歳ぐらいの年齢で歌っていたりして、今になって驚かされるんですよね。
蛇石:藤圭子さんとか本当にそうですね。実は「蛇に牡丹」は、中島みゆきさんが藤圭子さんに曲を書いたら、というのをイメージをしつつ、自分のエッセンスを入れていったんです。
――川端康成の同名小説をモチーフにした「千羽鶴」もマリナさんが作詞作曲ですね。
蛇石:「千羽鶴」は、今回新たに撮った「Daybreak」のMVの撮影チームと出会った曲でもあるんですよ。そこから10年間、その方々と一緒にやることになるとは思わなかったです。『DEAD OR ALIVE』の映像も彼らに撮ってもらっていて。そういう意味でも思い出深いですね。人と人を繋いだ曲、みたいな。
――文学作品を元に制作された楽曲は「千羽鶴」以前にもありましたっけ?
蛇石:いや、これが初めてですね。純文学メタルみたいな言われ方もされたことがありますけど(笑)。子どもの頃から小説を読むのが好きだったんですよ。『Ⅳ』の時に、もっさん(本石)が「Spider Thread」を書いてきて、「歌詞は『蜘蛛の糸』(芥川龍之介)がいい」って言われたんですよ。
本石:『蜘蛛の糸』か『羅生門』かと思ったんですけど、曲を作った時点で蜘蛛っぽいイメージがあって。
蛇石:でも、何かをもとにして曲を書くのは好きかもと思いましたね。もしタイアップの機会があったりして、誰かのために書くとか、そういった時の訓練にもなるかなと思って始めたのもありました。「Last Round Survivor」(『Ⅳ』収録)もめっちゃ『ロッキー』だったりしますし。
――作り手の趣味嗜好も見えてきて面白いですよね。『Ⅰ』に関しては、特に「Daybreak」と「Phantasia」はまさにMardelasの始まりを告げた曲ですね。バンドが始動してすぐに自主制作でリリースされたダブルA面シングル『Daybreak / Phantasia』にも収録されていましたし。
蛇石:このシングルを出す前の段階で、「Daybreak」と「Phantasia」はYouTubeにデモバージョンを上げてたんです。なので、バンドが始まって最初の何回かのライブでもやってたんですよ。で、MVはどの曲にするかと話し合って、やっぱりインパクトも考えて、まだまったく世に出ていない曲にしたほうがいいんじゃないかということで「Eclipse」になったんですね。今回は「Daybreak」のMVを撮りましたけど、あの時に選ばれなかったのも、今思うと理由があったのかな、って。その意味では導かれたような気がします。始まりの曲で、ライブの定番曲でありながら、10年越しにMVを作れるとは思わなかったので。
――「Daybreak」の作曲時にはどんな思いだったんですか?
及川:これは前のバンドで僕が骨組みを作っていて、サビは違ったんですけど、ライブでやったりもしてたんですよ。その意味では、時間をかけて作り上げた楽曲っていう感じ。若い頃って、すごく芸術家だったんですよね。「本当にやりたい曲をやろう」って気持ちでしたし、これが自分だと思えるようなエッセンスが全部入ってると今でも思うんですね。8ビートが好きっていうのも、ここに戻ってくるんだなと思いましたし。イントロがリフから入るっていうのも、自分がハードロックを好きになった理由だったりするんですよ。だから、本当にやりたいことをやった曲なので、10年経って新しい音で録り直すことになっても、そこまでアレンジを変えることもなく、ストレートにやってみて。それでも明らかにパワーアップはできたし、「かっこいいじゃん!」って客観的にも思えましたね。バンドの名刺代わりになっている理由が自分でもわかるんですよ。
――当時、なぜこの内容の歌詞を書こうと思ったのでしょう?
蛇石:“夜明け”とは何なのか、って話ですよね。
――ええ。〈夜明けに帰りたい〉というサビの一節が、ものすごく印象的に響いてくる。どう考えても、別に朝まで夜通し飲んでいたいといった話じゃないわけで。
蛇石:聴いた人たちがいろんなふうにとらえてくれてるので、“夜明け”の正体は明かさないままでいこうかなとは思ってはいるんですが、一種のトラウマみたいなものが植えつけられる前に戻りたい、こんなこと起こらなかったらよかったのに――そういう気持ち。
――そのようなことを思い巡らしていたと。
蛇石:うん。「帰りたいな」って思ってました。戦争の歌なんじゃないかとか、いろんな解釈をする人がいるけど、全部正解という感じです。それぞれのシチュエーションに当てはめて考えてほしいというか。でも、懐かしさみたいな部分は根本にあるかもしれない、歌詞のなかにも。「帰りたい」という気持ちって、たぶんそういうことだと思うので。
――あまり具体的なことは言いたくないのも承知していますが、ひとつだけ確認させてください。サビを締め括る〈激情の嵐〉とは何でしょう?
蛇石:……私、この歌詞のことを話すと泣きそうになるんですよね、いつも。
及川:たしかに、聞いたことないな。「Daybreak」の歌詞について。
蛇石:とてもパーソナルな曲なんですよね……。
――そうなんだと思います。聴き手それぞれの解釈でいいとはいえ、マリナさんのなかにある具体的な“何か”には、いまだに到達できないんですよね。ただ、とにかく自分では処理しようがない、抑えられない、どうにもできない感情が渦巻いている状況なんだろうなとは想像できます。
蛇石:それを外に出すことができないというのが、〈激情の嵐〉。もともと、あまり答えを明確にしない傾向がありますよね。自分が「何のことを歌っているんだろう?」と思うような歌詞が好きというのもあるんですけど。みんながみんな答えばかり示していたら、音楽の価値って下がっちゃうんじゃないかなと思いますし。そうじゃない人がいてもいいんじゃないかな、って。歌詞は歌詞であって、手紙でも作文でもないし。手紙っぽい歌詞もありますけど、この曲に関しては違うので。だから、答えを言わないほうがいいし……自分も冷静に説明できるほどまだ整理できてない。
――10年ぐらい経っても、そう思っているということでしょう? それはあらためて聴き方が変わりますよ。
蛇石:はははははは。うん……やっぱりこの歌詞について考えると、ちょっと……ワーッてなります。
――そうなんでしょうね。話しながら涙が止まらないですもんね。
蛇石:本当に……すみません。
普通のメタルバンドではやらないことへの挑戦、蛇石マリナの詞世界の確立
――「Phantasia」も始まりの曲ですから、収録されて当然ではありますね。
及川:当時、「Daybreak」と同じくダブルA面シングルとしてリリースして、その後にアルバムに入ったんですけど、予算的にMVを作らなかっただけであって、この2曲はMV曲という位置付けに近いな、と。ほかにもいい曲はあるけど、『Ⅰ』から3曲選ぶのであれば、これを外したらちょっとひねくれた選曲になっちゃうなと思って、王道的な選択をしました。
――この時点で蛇石マリナの歌詞の世界というものができていますよね。
蛇石:そうだと思います。でも、「Phantasia」は自分の主観がそんなに入ってないというか。ファンタジーでもないけど、実体験から書いた歌詞でもないんですよね。出だしの雰囲気だったりとかもそうで、ちょっとシリアスな感じ、小説っぽい感じにしたいなというのがありました。当時は、作詞という作業に対して考えてた時期ではあったと思います。物事を主観的にとらえるのか、俯瞰的にとらえるのか、いろんな書き方を試して。その意味では、「Daybreak」と「Phantasia」は、歌詞の書き方としては対照的な2曲です。
――サビ頭の〈桜吹雪〉という言葉ですが、華やかなもの、激しいもの、儚いもの、いろんな見え方がありますよね。ここで書かれているのは、楽しい話ではないのはわかるけど、誰もが知っている言葉でズバッと言い切る表現が面白いなと思って。
蛇石:「Phantasia」の歌詞を書いたのは、「Daybreak」と同じぐらいの時期だと思うんですけど、サビのメロディがそう聴こえたんですよね。力強いんだけど、どこか儚い印象。和風なイメージにしたいのはありましたね。
本石:僕は「Phantasia」は、F#って感じですかね(笑)。バンドに参加した当初はサポートメンバーでしたけど、F#の曲ってあまりやったことがなくて、新鮮だったんですよ。ギタリスト的には、リフを作りやすいのかな? メタルって、EmとかAmの曲が多いじゃないですか。「千羽鶴」もややこしかったのを覚えてます。
蛇石:「千羽鶴」はコード進行もややこしいよね。
本石:うん。普通のメタルバンドじゃやらないね。
蛇石:私の手癖みたいなのもあるんですけど、鍵盤で作ってるのもあって、半音進行だったりするんですよね。コード進行に対するメロの乗せ方とか、すごくこだわった記憶があります。
及川:理論的に頭で考えないと、ソロもハマらないので。今はわかるので何も問題ないんですけど、いい勉強になりました。アレンジが大変だったんですよ、マリナの曲は(笑)。
蛇石:君の引き出しをいっぱい開いてあげたんだよ、私が(笑)。



















