明くる夜の羊、圧倒的な熱量で示した新時代のヒーロー感 バンドの歴史を凝縮した結成7周年ライブ

明くる夜の羊が東京・LIQUIDROOMで開催した、結成7周年記念ライブ『echoing pulse』。私はこのバンドのライブを初めて観たが、「こんなヒーローみたいなバンドがいるのか」と率直に思った。
ノグチアユム(Dr)は、堅実なドラマーであり、華やかなエンターテイナーだ。パワフルな出音でバンドをしっかり支えつつ、的確なキメと鮮やかなフィルインで、聴き手の心を射貫く。ナツキ(Ba)は、一音一音のタッチとニュアンスで、楽曲の感情の起伏を巧みに描き出していく。シンプルなルート弾きにさえ繊細な表情があり、バンドのグルーヴを司る存在として、職人的なアプローチを見せた。

クラシマヒロミチ(Gt)の鋭く叙情的なプレイを目の当たりにすれば、誰もが彼をギターヒーローと呼びたくなるだろう。楽曲の核となるリフから心を揺さぶるリードフレーズまで、その手から生まれる音はどれも説得力に満ちている。そして、フロントマンのカワノユイ(Vo/Gt)。正確な音程、明瞭な発音など、技術の高さも特筆すべきだが、迷いがないことが何よりの本質だろう。言葉を届けようという強い意志が、空気を突き破り、聴く人の元へ一直線で飛んでいく推進力を生んでいた。

4人の息はぴったりで、キメというキメが全て鮮やかにキマる。ライブハウスで鍛錬を重ねてきたことを想像させるアンサンブル。歪むサウンドも痛快だ。この日彼らが1曲目に披露したのは「涙の隣」。疾走感溢れるサウンドとともにサビに突入すると、観客が堪らない様子で拳をグッと突き上げた。次の曲「あの日の僕ら」がすぐに始まると、期待に満ちた空気が会場を包んでいく。両手を広げ、まっすぐに〈知らない誰かの言葉じゃなくて/私を信じてみてよ〉と伝えるカワノは、観客の期待をまるごと抱きしめる気概があり、頼もしい。そして〈あの日の僕ら、今何をしている?〉という歌詞は、「あの日の僕らは……今、LIQUIDROOMでワンマンしてる!」と変えて歌われた。憧れの舞台でバンドの喜びが爆発した瞬間だった。

4曲目の「共存」では、ノグチ、ナツキ、カワノが順にソロを披露。続けてクラシマが挙手して、圧巻のギターソロを披露した。思わず笑ってしまうほど痛快な展開。興奮する観客に、カワノが「その拳、天井突き破るくらい上げてもらっていいですか!」と声を掛け、「行こう!」とラスサビに突入した。しかし、まだまだ先がある。次の曲「By Your Side」では、カワノの「聴かせて!」という熱い呼びかけを受けて、観客の歌声とメンバーのコーラスが混ざり合いながら響いた。やはり、ヒーローのようなバンド。演奏力、表現力、楽曲の強度、観客を巻き込む熱量——ギターロックバンドに求められる全てを、このバンドは持っている。

この日彼らは、7年の歴史を網羅するセットリストを披露。メンバーにとっては、“あなた”の顔が浮かぶセットリストだという。あの時のライブであの子が泣いていた、あのおじさんが拳を上げていた——そうしたライブでの記憶とともに、明くる夜の羊の楽曲は存在している。その上で、彼らは「ライブで(各地の観客から)もらったもの、全部今日に持ってきてます」と力強く語った。

前半から一転、中盤ではテクニカルでハードな一面を見せる。「リプレイ」では、カワノとクラシマのツインギターが、複雑なギターリフを阿吽の呼吸で披露。ダークで緊迫感のある「影の行方」では、メンバーが火花を散らすような演奏を繰り広げた。「代替品」は、変則的なギターバッキングに他楽器の音が重なり、少しずつ形になっていく立ち上がりが印象的。そして「環状線」へシームレスに繋ぐライブアレンジ、4つ打ちのリズムがフロアの高揚感を誘った。ここまで聴いてきて改めて気づくのは、楽曲の振れ幅の広さだ。明くる夜の羊は、作曲クレジットが全曲バンド名義になっている。各々の大好物を一皿に乗せたような、わんぱくかつ多彩な楽曲群が、観客の心を躍らせた。

ライブの終盤に差し掛かると、カワノが言葉で楽曲を束ね、観客へのメッセージに変えた。「LIQUIDROOMでライブできたことも嬉しいけど、あなたと会えたことが嬉しい。私の生活とあなたの生活、ちゃんと歩いてきた先だから、今ここで再会できる」「深く深く潜り込んだ先にいたのは、あの日の自分。愛せなかった自分。切り離したくてしょうがなかったけど、繋がってたから、出会えた人がいる」――そんなMCとともに届けられたのは、「周回軌道上」「幻の君」「今もこの街で」の3曲。青を基調とした照明に、曲を重ねるごとに橙の光が混ざり合っていく演出も感動的だった。音楽の海に潜った先での出会い、ファンの存在が、バンドに希望をもたらしたことが視覚的に表現されていた。

本編ラストのMCでは、カワノが「バンドを始める前は弱い人間でした」と打ち明けた。誰かとぶつかることや、分かり合えない悲しみから壁ができることが怖かったという。そんなカワノは「メンバーといっぱいぶつかった」7年間だったと振り返った。バンドを7年も続ければ、そうしたこともあるだろう。これだけ個性溢れるメンバーならなおさら、誰か一人の強いこだわりは、時に周りとの衝突を生むのかもしれない。それでもカワノが「今ここに立てているのは、(メンバーが)ちゃんと向き合ってきてくれたから」と語ったように、4人はぶつかることで互いを理解し、絆を深めながら、ここまで来たのだ。

「4人の弱さを乗っけて、その先にあなたがいて、シンパシーを感じて居てくれている。とんでもない弱虫がいっぱいいるのかもしれないけど、私はそれが嬉しいです。ステージとフロア、言葉を交わすことはできないけど、ちゃんと伝わってる。弱さも情けなさも、全部乗っけて歌います」
各々の音楽的な個性も、一人の人間としての個性も、明くる夜の羊は全てを乗せて歌う。等身大の姿で相手と向き合う。それがこのバンドの在り方であり、観客との絆の源なのだろう。19曲目「空っぽ」の歌詞をカワノは力を込めて歌い、バンドも同じ熱量で寄り添いながら、言葉を押し上げた。曲中、カワノは自身を鼓舞するように「YouTubeでもない、サブスクでもない、CDでもない! ライブハウスで、同じ空間で、私はあなたに何を歌える!?」と叫ぶ。続けて「このライブよりも遥かに長く続くあなたの人生を、ちゃんとあなたの足で歩いていけるように! たった一曲、たった一節、たった一音で、あなたの隣にいたいと思ってる! これからも変わらない! あなたのそばに居続ける!」と宣言する。本編ラストを飾ったのは、「蹴り飛ばして」。激しいバンドサウンドの中、「あなたが傷だらけなのは弱いからじゃない! ちゃんとその足で歩いてきたから!」と観客の存在を最後まで肯定し続ける姿が心に残った。
アンコールも終わり、メンバーが去ったあと、バンドのネクストアクションを示す映像がスクリーンに投影された。来年2月に新曲をリリースし、東名阪ツアーを開催。7月にはEPをリリースし、その後全国ツアーを開催。そして夏に、バンダイナムコミュージックライブ内のレーベル UNIERAよりメジャーデビューすることが発表された。直後、フロアから怒号のような歓声が上がる。メンバーを祝福したい気持ちからか、観客の拍手と歓声は終演後も止まず、いつまでも響いていた。

























