星野源、松任谷由実、米津玄師、優里、JURIN ASAYA、ROIROM……注目新譜6作をレビュー

New Releases In Focus

 毎週発表される新譜の中から注目作品をレビューしていく連載「New Releases In Focus」。今回は米津玄師「星野源「いきどまり」、松任谷由実「岩礁のきらめき」、米津玄師「トレモロ」、優里「最低な君に贈る歌」、JURIN ASAYA「PS118 (feat. Rapsody)」、ROIROM「Dear DIVA」の6作品をピックアップした。(編集部)

星野源「いきどまり」

星野源 - いきどまり [Official Video]

  土井裕泰が監督を務め、ともにドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』や『コウノドリ』、『スロウトレイン』(すべてTBS系)などでタッグを組む那須田淳がプロデューサーを手がけた映画『平場の月』の主題歌を星野源に託したのは、いわば必然だったように感じる。そうして生み出された「いきどまり」はピアノと歌だけのシンプルな楽曲で、底知れぬ美しさと儚さ、どうしようもない悲しさに包まれたバラードナンバーだ。歌詞は映画の物語と強く重なっているのだが、この曲を聴いているときに浮かぶさまざまなこと――私たちはいつも原因と結果を取り違え、失望はすぐに諦めに変わり、それらはずっと心のなかに沈み、溜まっていく――は、この社会に生きるすべての人の感情に寄り添ってくれるはず。飾り気のないアレンジとメロディのなかにある、あまりにも豊かな音楽性にも耳を傾けてほしいと思う。(森)

松任谷由実「岩礁のきらめき」

Gansyono Kirameki

 過去のボーカルトラックを音声合成ソフト「Synthesizer V」にラーニングさせ、“Yumi Arai”としての歌声で制作されたニューアルバム『Wormhole / Yumi AraI』。AIを全面的に導入したことで大きな話題を集めているが、この作品の本質は、より自由になったメロディラインと日本語の機微を感じさせる歌詞であり、それを象徴しているのが「岩礁のきらめき」だ。洗練と情緒、瑞々しさとノスタルジーという相反する雰囲気を同時に感じさせる旋律、そして、時の流れとともに霞んでくる思い出をテーマした歌詞が一つになったこの曲は、時空を超えるようなアルバムのコンセプトと真っ直ぐに繋がっている。90年代初め頃〜現在のボーカリゼーションが驚くほど自然に溶け合う歌声にもぜひ注目してほしい。(森)

米津玄師「トレモロ」

米津玄師 / Kenshi Yonezu - トレモロ / Tremolo [Audio]

 高校時代にRADWIMPSと出会い、大きな衝撃を受けたという米津玄師が、トリビュートアルバム『Dear Jubilee -RADWIMPS TRIBUTE-』のために用意したのは、メジャー1stアルバム『RADWIMPS 3 ~無人島に持っていき忘れた一枚~』に収録された「トレモロ」。壮大な世界観と“君”と“僕”の関係を対比させた、初期のRADWIMPSを代表する楽曲の一つである「トレモロ」を米津は、原曲へのリスペクトを強く反映させながらカバーしている。中心を担っているのはもちろん、彼自身のボーカル。メロディと言葉が身体のなかで完全に血肉化されていて、一つひとつのフレーズをどこまでも丁寧に、豊かな愛情とともに紡いでいるのがはっきりとわかるのだ。尊敬とか影響という言い方では到底及ばない、遺伝子レベルの音楽の伝達がここには確かにある。(森)

優里「最低な君に贈る歌」

優里 『最低な君に贈る歌』 Official Music Video

 一つひとつの言葉を噛み締めながら歌い上げるバラードで、とにかく切ない恋、泣ける恋の歌という意味で、かつての平井堅に匹敵しそうな名曲である。〈本気じゃないってわかってるはずなのにね/ズルさに乗っかるようにまた君に会ってる〉という歌い出しから始まるのは、このまま続けていてもどうしようもない関係にハマってしまった〈私〉の心象風景。苦しさや切なさ、今も溢れてくる愛しさなどが切実に表現されており、タイトルにもある〈最低な君〉が、その言葉どおりの意味で聴こえてこない。これが優里の表現力。歌の主人公を限定しない、さまざまなキスシーンのみで構成されるMVもお見事。(石井)

JURIN ASAYA「PS118 (feat. Rapsody)PS118(feat. Rapsody)」

JURIN ASAYA – PS118 (feat. Rapsody) | Official Music Video

 XGのリーダーJURINがJURIN ASAYA名義でソロデビュー。XGにもHIPHOPナンバーは多々あるが、これはサンプリングとラップのみで構成されるオールドスクールかつ激渋な一曲。2010年代のアメリカシーンを牽引したラッパーの一人である、ラプソディが客演で参加している。派手なシンセやキャッチーなメロディがないぶん、二人のラップスキルが際立つばかりで、JURINのリリックの鋭さや英語発音の滑らかさには今さらのように舌を巻く。日本出身の若き表現者が、母国語ではない言語で、本場のHIPHOPスターとここまでカッコよく渡り合う。少なくとも10年、15年前には想像できなかった光景だと思う。XGの“規格外”はどこまでも続く。(石井)

ROIROM「Dear DIVA」

ROIROM 'Dear DIVA' Music Video

 『timelesz project -AUDITION-』(Netflix)で最終審査まで残った二人、浜川路己と本多大夢が、今年5月からユニットとして活動をスタート。待望のプレデビューシングルがこの曲となる。中村泰輔とTomoLowの共作で生まれたのは、ラテンの香り漂う歌謡風J-POP。歌に対してバックの音が相当小さく、あくまで二人の歌声とドラマティックな歌詞が主役となっている。そもそも大所帯が多い現在のボーイズグループシーンで二人組というのも珍しく、さらに言うならK-POPを筆頭とする時代の潮流をまったく無視しているのも面白い。これは異端か王道か。次の一手が気になる。(石井)

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