歌声分析 Vol.2:大森元貴 「クスシキ」「天国」……多層的な発声やスキルの取捨選択、“声色”で生み出す情感
「天国」の繊細なアプローチ、あえて低音域で聴かせる「夏の影」
「天国」は、ブレス交じりの歌声が印象に残るバラード。大森は、そっとメロディに音を置くように歌っているが、ここでは先述の2曲とは異なり、子音よりも母音がしっかり聴こえるアプローチで楽曲全体に漂う浮遊感に揺らぎを加えている。とはいえ、母音を開放して前に出すのではなく、喉の奥に閉まったまま鳴らしており、この曲で大森が母音への新たなアプローチに挑戦していることがわかる。
また、少し長めのトーンでしゃくりやこぶしを一切排除しているのも、ボーカルアプローチへの意図が感じられる。ファルセットでも少し喉を閉じ気味にして、あえて声の張りを抑えたギリギリ感を出すことで淡々とした展開の「天国」に感情を吹き込んでいる。レンジも広く、ピッチも安定していて、リズム感もある。さらに、圧倒的にブライトなハイトーンですでにオリジナリティを確立している大森元貴というボーカリストが、新たな挑戦に加え、さまざまなスキルの取捨選択をしているところが実に尊い1曲である。
「夏の影」は、Mrs. GREEN APPLEの代表曲でもある「青と夏」とは、真逆――というか「青と夏」にないアプローチが満載の1曲である。「青と夏」が全開のハイトーンで空へ抜けていくアップチューンなら、「夏の影」は地上に留まる低音で、沈む夕陽と長い影を見つめているようなバラード。
注目したいのは、あえて低音域で聴かせるサビである。Aメロで柔らかでクリアな中高音を聴かせ、その後ハイトーンがくるかと思ったら、オクターブ下の低音を繰り出しているのだ。声そのものの重心も低く、母音を濁らせ気味にして歌っている。喩えて言うならば、ロックのように荒々しく発声して濁らせているのではなく、喉を締め気味にし、ブレスを混ぜることでざらつきを加えている。バックのコーラスとの対比で、大森の母音のざらつきを強く印象づけているアレンジにはバンドとしての挑戦も窺える。そして、このざらついた母音の中に、倍音が感じられるのも大森ならではと言えるだろう。声を張らずに歌の熱量、そして感情の起伏を表現しているのが「夏の影」の大森の歌声だ。
この4曲を改めて聴き込んで思ったことは、大森は“音圧”ではなく“声色”で、メロディとは別の情感を作り出そうとしているのではないかということだ。大森の歌声の進化こそが、Mrs. GREEN APPLEがフェーズ3へ入るための重要なファクターにもなるかもしれない。声音を歌の表現の中心に据えた、新しいMrs. GREEN APPLEのポップス。その胎動は、すでに始まっているのだ。
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