MY FIRST STORYのステージに渦巻く“カオスと狂熱” 止まないシンガロングが轟いた『ASIA TOUR』東京公演

すごいライブだった。
『MY FIRST STORY ASIA TOUR 2025』とシンプルに掲げ、ソウル、バンコク、シンガポール、マニラ、上海、台北と回ったあと、国内をツアーしたMY FIRST STORY(以下、マイファス)が、10月7日、8日の2日間、豊洲PITで開催した東京公演の印象を一言で語るなら、この言葉しかない。本稿では東京2日目の模様を振り返る。

“自分が届けたいという意思に全振り”した強力なセットリスト
観客の気持ちを掻き立てるように曲をたたみかける前のめりも前のめりなバンドの演奏は、緩んだところが微塵もないテンションの高さを終始感じさせたが、「全力でかかってこい!」とオンステージして開口一番にHiro(Vo)が言った言葉に応えようと、ペース配分などこれっぽっちも考えずに序盤からもみくちゃになりながらステージに押し寄せ、最後の最後まで自分の思いを必死にステージの4人に伝えようとする観客の姿もまた壮観だった。
「いいカオスだ」
それを目の当たりにして、快哉を叫んだHiroが言ったその言葉はまさに言い得て妙だと思う。


そんな観客とバンドがこの日、ともに作り出した熱狂、いや、狂熱に度肝を抜かれたのは筆者だけだろうか。そんなことはないと信じているが、どれだけすごいライブだったのか。それは、Hiroがこの日のセットリストについて語った以外にMCを挟まず、8曲目の「MONSTER」まで一気に繋げ、前半戦が終わったタイミングでKid'z(Dr)がまず観客に語り掛けた言葉から、想像していただけると思う。
「昨日よりヤバくない? 大丈夫!? みんなで若干後ろに下がっていかない? 周りに苦しそうにしている人がいたら助けてあげて。前は本当にヤバい」


今や国内だけでは収まりきらないバンドに成長したマイファスに今さら何をという気もするが、かつてナイーブな魅力と表裏一体の脆さも曝け出していた頃が懐かしいとさえ思えてしまうほど、自信と確信に満ち満ちていた彼らがこの日演奏したのは新旧の全20曲。アンコールなしという潔さもまた、自信と確信の表れだと思うのだが、今の自分たちを代弁するセトリにしたいと思いつつ、観客の望むセトリにもしたいと考えると、正解がわからなくなってセトリを作るのが大変だと正直な気持ちを明かしたHiroによると、この日の20曲は、「みんなが聴きたい曲はさておき、自分が届けたいという意思に全振りして」選んだのだそうだ。
「このタイミングで自分の人生を振り返ってみて、みんなに届けたいものって何なんだろうと考えたとき、今まで自分が生きてきた道のりをいったん形にしたいと思いました」と語ったHiroが、ちょっとニヤリとしながら付け加えた「もしかしたらそんなにメジャーじゃない曲もあるかもしれないですけど」という言葉に、客席から上がった「おぉ~!」という歓声。それを聞き、観客がむしろライブの定番ではない曲を聴きたがっていることがわかった。もしかしたら、そういう曲の中に観客一人ひとりのフェイバリットがあるのかもしれないが、そんなところからもこの日、バンドと観客がともに作り上げた狂熱の正体に違いない、バンドとファンの深い結びつきが感じられたのだ。

絆という言葉に言い換えることもできるそんな深い結びつきは、見事に後半戦のクライマックスに結実していたが、まずは前半戦の見どころを振り返っておこう。
ラウドロックをバックボーンに持つ一方で、Hiroがハスキーな声で歌い上げる胸を焦がすようなエモーショナルなメロディで魅せるマイファスらしさを、1曲目の「You’re already dead」から見せつけながら、ラテンファンクの「蜃気楼」、ロックンロールの「Smash Out!!」と、巧みに変化をつけていくセットリストがまず見応えあり。スポットライトの中でHiroが歌い上げ、バラード風に始まったあと、徐々にテンポアップしていき、最後に観客を跳ねさせた「Tomorrowland」は、サステインを活かしたメロディアスなフレージングとタイトにリズムを刻むピッキングを使い分けたNob(Ba)のベースプレイも聴きどころだった。Teru(Gt)がフラッシーなリフを閃かせた「無告」は、歌メロに歌謡曲に通じる哀愁を滲ませ、マイファス流のエモーショナルなロックにさらに磨きを掛けた印象も。

そして、Hiroが歌い始めた途端、客席から沸いた歓声が一際高い人気を印象づけた「不可逆リプレイス」。Hiroと一緒にそのサビをシンガロングした観客を、シンセで繋げたラップロックナンバー「MONSTER」のハウスビートでバウンスさせると、Kid'zがツインペダルのキックを炸裂させ、前半戦は終了。
MCコーナーでは思わぬサプライズも ノンストップな後半戦
観客の休憩を兼ねた長めのMCコーナーでは、休みの日はゴルフをしているというKid'zが何の気なしに「キャディさんにマイファスのファンが4人いる」と語った話の流れから、「この間、三宿まで乗せてくれたタクシーの運転手さんもファンだって言ってたけど、今日来てるかな?」とHiroがもちろん冗談で言ったところ、客席から手が上がるという誰も予想していなかった展開にメンバーも観客もびっくり。しかし、話はそれだけで終わらず、フィリピン公演の帰りにマニラ空港(マニラ・ニノイ・アキノ国際空港)でたまたま言葉を交わしたファンから、やはりマイファスのファンだというHiroのカード会社の担当者まで、この日の客席にいたのはさらにびっくりだったが、そんなところにも前述したバンドとファンの深い結びつきと、マイファスがライブを通してその結びつきを深めてきたことを感じずにいられなかった。いや、見せつけられたと言ってもいいかもしれない。

そして、「ここからノンストップで行きます! 準備いいでしょうか!?」とKid'zが声を上げ、赤裸々な歌詞が耳に残るバラードの「ハイエナ」からなだれこんだ後半戦。NobとTeruがスラップとタッピングを応酬したバンドセッションから繋げたファンキーな「アイデンティティー」の中盤、Hiroは客席にダイブすると、ステージと客席の間にある柵の上で歌うガッツを見せる。そこから爽やかなポップロックナンバーの「Someday」、メタリックなリフも含め、ラウドなロックサウンドをガツンと鳴らした「ALONE」、哀愁が滲むメロディが胸を締めつける「The Puzzle」、観客のタオル回しが壮観だったダンスナンバー「Zero Gravity」と1曲ごとに変化をつけながら、観客のシンガロングは最後まで止むことはなかった。

「Missing You」では、「一緒に歌いましょうか。元気残ってる!?」と呼びかけたHiroに応え、一際大きな観客のシンガロングが響き渡る。それを目の当たりにしたHiroが再び快哉を叫んだ。
「全然残ってるじゃん! 最高だ!」
そして、「モノクロエフェクター」のキックの4つ打ちで観客を今一度バウンスさせ、フロアを揺らしてみせると、ラストスパートへと一気に駆け抜ける。「REVIVER」から繋げたラストナンバーは「With You」。

「ラスト1曲。僕からのメッセージです」とHiroが言った通り、タイトルで謳っているファンに対する気持ちは、ライブを通してファンと向き合う中で芽生えてきたものなのだろう。それをあえてメッセージと言って、胸を焦がす哀愁のメロディに落とし込むところが心憎い。この日のセットリストを作るにあたって、Hiroが「自分が届けたいという意思に全振りした」と語ったことを思い出してほしい。最後を締めくくるには、この曲しかなかった。アンコールなしも大いに頷ける。この日に限って言えば、アンコールは蛇足にしかならなかったはず。それも含め、バンド、ファンともに完全燃焼したことは誰の目にも明らかだった。

「心から愛してるよ。豊洲! 最高の2日間でした。本当にありがとうございました!」
バンドを代表して、深々と頭を下げるHiroに観客が贈ったのは、割れんばかりの拍手だった。

























