ラップにおけるメディア関係者のネームドロップはどのような意味を持つ? 国内外の例から考察

ネームドロップされたライターからのアンサー

 〈Rommy  Montanaみたいにこのシーン奪うパイオニア/アボカドさんライター/Fuji Roseと書いた/スケッチブックに夢を大胆に〉。新潟を拠点に活動する新進ラッパーのGamBallは、先日公開された「03- Performance」のサイファー企画「03- Freshman Cypher 2026」でそんな怒涛のネームドロップを聴かせた。〈Rommy Montana〉は03-Performanceの主宰、〈Fuji Rose〉はGamBall作品を多く手掛けるプロデューサー、そして〈アボカドさんライター〉はこの記事を書いている私(アボかど)のことだ。私は昨年GamBallをFuji Roseと一緒にインタビューしており、ここでの私のネームドロップはその後の〈Fuji Roseと書いた〉を補強する効果を生んでいる。

03- Freshman Cypher 2026 ft. sh1t, Worldwide Skippa, ShowyVICTOR, ORIGAMI & GamBall

 この並びで私の名前が出てくることには当事者としては驚いたが、ライターやメディア関係者などのネームドロップはそこまで珍しいことではない。そこで今回は類似の例をいくつかピックアップし、非アーティストのネームドロップが曲においてどのような効果をもたらしてきたかを振り返っていく。本稿は、いわばGamBallへの私からのアンサーだ。

 国内の例で近年話題を集めた例の一つに、7のシングル「Boss Bitch (Remix)」での客演のElle Teresaによるラインが挙げられる。ここでElle Teresaは〈私を褒めるUSB〉とラップしているが、このUSBとは音楽ブログ「インディーラップ試食会」などを運営していたライターのLilPriのXでのユーザーネームのことだ。LilPriは時には辛口な評価を下すライターであり、ここでのUSBのネームドロップは「そんなUSBから賞賛される自分」という文脈でセルフボーストの一種として機能している。

7 - Boss Bitch(Remix) feat.LANA & Elle Teresa (Official Music Video)

 そのUSBのラップ評からの影響を公言しているWorldwide Skippaは、ミックステープ『Skipping Tape Vol.2』収録の「楊貴妃」でユニークなネームドロップを披露している。ここでの〈イドンみたくソロでやるぞDAWNのオキニやし〉というラインは、インディペンデントストリートカルチャーマガジンの「DAWN」と、K-POPグループのPENTAGONでの活動の後にソロに移行したアーティストのDAWN(※PENTAGON時代の名義はイドン)をかけたもの。Worldwide Skippaは昨年(カルチャーマガジンの)DAWN主催のイベントに出演しており、これも「DAWNに気に入られている自分」をボースティングするラインとなっている。

 もう少し古い例としては、SALUの2012年のシングル「STAND HARD (Remix)」での客演のSIMONのラインが挙げられる。ここでは〈生唾モンだろ?なぁBenzeezy〉というラインがある。benzeezyは当時人気を集めていた国内ヒップホップ情報サイト「JPRAP.COM」の主催者で、LilPriと同じく時には辛口の評価を下すことで知られていた。そんなbenzeezyに生唾を飲ませる自信を覗かせる、挑発的なネームドロップだ。

SALU - STAND HARD (Remix) feat. SIMON, NORIKIYO, AKLO & Y's (prod by. BACHLOGIC) [Official Video]

ディグの精神とハングリー精神が生んだ面白さ

 こういったネームドロップはもちろん国内だけではなく海外でも散見される。Migosのクエイヴォとテイクオフが2022年に残したアルバム『Only Built For Infinity Links』収録の「Tony Starks」のフックでは、〈They keep askin' questions, like they Nardwuar(あいつらずっと質問してきやがる、ナードワーみたいだ)〉という人気インタビュアーのナードワーのネームドロップがある。この曲のテーマはいわゆるフレックス系で、このラインでは人前に姿を現せばあれこれ聞かれるスーパースターの心境をユーモラスに表現している。

Quavvo & Takeoff - "Tony Starks" (Official Lyric Video)

 セルフボースト以外の例としては、ケニー・メイソンの2021年作『Angelic Hoodrat: Supercut』収録「Much Money」での客演のフレディ・ギブスのラインが挙げられる。ここでは〈Big Rabbit gon' whip that brick up regardless/Known in the Chi', Fake Shore Drive, Andrew Barber(ビッグ・ラビットはとにかくブリック(=コカイン)を作りまくる/シャイ(=シカゴ)で知られている、フェイク・ショア・ドライブ、アンドリュー・バーバー)〉というラインを披露している。ビッグ・ラビットことフレディ・ギブスの出身はシカゴのあるイリノイ州に隣接するインディアナ州で、これはハスラーとしての手腕が隣の州まで届いているというニュアンスのラインだ。「フェイク・ショア・ドライブ」はシカゴ出身のアンドリュー・バーバーが地元シーンを紹介するために立ち上げた音楽ブログ兼メディアで、このネームドロップはシカゴでの知名度を強調する効果を生んでいる。

kenny mason - much money [ruff]

 ネームドロップは文脈が共有されていることで効果を発揮するテクニックだ。ヒップホップは良くも悪くも情報を求める姿勢を要求するカルチャーであるため、ラッパーやリスナーの間で「なんとなく見たことのある名前」が豊富で、その中に情報を発信するライターやメディアなども含まれていることからこういった表現が生まれるのだろう。また、メディア関係者はある意味「うるさ型リスナー」や「知名度が出てきてから接する機会の増える人」の代表的な存在であるため、特にセルフボーストの文脈では使いやすいという事情もあるのかもしれない。メディア関係者のネームドロップが面白く響くのは、ヒップホップが持つディグの精神や「認めさせたい」というハングリー精神あってのことなのである。

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