“推し活”にも適量がある? 吉田尚記アナが研究者として説く、いきいきと生きるために必要なこと

吉田アナが語るアイドルとウェルビーイング

「“好き”の理由はどの学問分野でも説明しきれない」

吉田尚記

――推し活がいきいきとした毎日を作る一方で、特定の“推し”がいない人はどうしたらよいでしょうか?

吉田:ウェルビーイング研究はまだ始まったばかりですが、現段階で出ている示唆がひとつあります。それは“挑戦”です。たとえば「ウェルビーイング的に幸せになれる就職先はどこか?」という問いに対しては、“安定”よりも“挑戦を続けられる場所”と答えられる。なので、今は推しがいないという方も、日常のなかで何かしらの“挑戦”を見つけることが、いきいきとした人生を送るきっかけになるのかなと思います。

――アイドル自体が常に挑戦しているので、「挑戦するアイドルを応援すること」がファンにとっても挑戦になる、ということでしょうか。

吉田:まだ調べきっていないので確定的には言えませんが、おそらく仮説的には十分ありえる話だと思います。そこを検証するのが私の研究です。“推し活”は個人差が大きく、数値的な結論を出すのが難しいため、エスノグラフィー(訪問観察調査)という観察データを収集/記録して分析する手法を取ろうと考えています。通常の修士課程は2年ですが、私は勤務しながら4年かけて通う予定で、それまでにしっかりまとめたいですね。

――どのようなデータが集まるか楽しみです。

吉田:大学院で学び始めてあらためて感じたのは、人類が知っていることはごくわずかだということです。「この人とこの人を比べてどちらがお金持ちか」などは経済学で説明できるかもしれませんが、推しているアイドルに対して「なぜその人でなければダメなのか」という“好き”の理由は、どの学問分野でも説明しきれない側面があります。

 興味深いのは、先ほど述べたモノノフのように「そのグループのファンが面白い」「仲間になりたい」といった、楽しんでいるファンの姿自体がアイドルの付加価値になり得る、という点です。

吉田尚記

――ファンのウェルビーイングがアイドルの魅力の部分にも大きく影響するわけですね。逆に、推し活が生活にネガティブに働くことはありますか?

吉田:もちろんあります。推し活に熱中しすぎて現実生活が疎かになったり、グループ解散や推しの引退で“ロス”状態になったり。また、気をつけなければならないのが“推し”という存在は、見方を変えれば“権力者”と近い状態でもあるんです。その“推す”気持ちを悪用されることがないように警戒する必要もありますね。こうして並べると、推し活にも適量があるといえそうです。とはいえ「すべてを捧げることが自分のウェルビーイングだ」という人がいるのも人間の面白さ。周囲から見れば「やめたほうがいい」と思われるレベルでも、それがその人にとって生きがいになっている場合もあります。

 以前、私が『むかしむかしあるところにウェルビーイングがありました 日本文化から読み解く幸せのカタチ』(KADOKAWA)という本を共著したウェルビーイング学会理事の石川善樹さんのお父さんが医師で、ウェルビーイングについて研究されていたそうです。ある愛煙家の患者さんを診察したときのこと。医学的には禁煙させるのがセオリーでしたが、話を丁寧に聞いていくと、その人はタバコを吸うことで救われていることがわかり、吸い続けることを許可したことがあったそうです。「今まで私の病気を診てくれた医者はいくらでもいたけど、“私自身”を見てくれた医者はあなただけだ」と言われたことがあったと。多分、ウェルビーイングってそういうことなんだろうと思います。「この人にはこういうことがウェルビーイングだ」「あの人には別の形式がウェルビーイングだ」という具合に、ケーススタディを積み上げることで見えてくるものがあるのではと考えています。

――お話を聞きながら、アイドルも、そしてファンも、「相手を喜ばせたい」という気持ちが「自分をいきいきさせる」というのは、とても人間らしい心理だなと感じました。先ほど「人類がわかっていることはごくわずかだ」とおっしゃっていましたが、本当に不思議な心の動きですね。

吉田:霊長類を研究している方に聞いた話では、知らない人にモノを与えるのは人間だけだそうで……。チンパンジーのように人間に近い種ですらしないのだといいます。人間をほかの動物と分ける特徴のひとつは、こうした利他的な行動ができるかどうかではないかとも。そうした点を踏まえると、“推し活”は人間であることの最大の特徴である可能性すらあり、だからこそ研究のしがいがあると感じています。

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