ももいろクローバーZはなぜステージで命を燃やすのか? 3年ぶり『夏のバカ騒ぎ』、全力疾走の一夜を振り返る

ももいろクローバーZの夏の恒例ライブ『ももクロ夏のバカ騒ぎ』が、今年は『ハマの夜祭り番長襲名記念 ももクロ夏のバカ騒ぎ2025 in 横浜スタジアム』と題され、8月2日に開催された。天気予報を覆し、晴天のもとで迎えた真夏の祭典。今や“夏といえばももクロ”という文脈は定着しているが、今回の横浜スタジアム(略称:ハマスタ)公演では、ファンタジックな演出とアグレッシブなセットリストが交差し、横浜の夜を鮮やかに染め上げるような空間が広がっていた。
ももクロにとって初の横浜スタジアム単独公演となった今回。そのタイトルからしてすでに“お祭り感”満載だ。ハマスタに足を踏み入れた瞬間、目に飛び込んでくるのは巨大なモアイ像、ピラミッド、朱色の鳥居……と、もはや異世界。メインステージからセンターステージにかけては、ナスカの地上絵を模した不思議な模様が描かれ、フロア全体がまるで世界中のパワースポットを一堂に集めた空間のような、非日常的な熱気を漂わせていた。
ライブの幕開けは、まるでプロレスのようなスターティングメンバー紹介。スクリーンには「TDFはいつまでもハルク・ホーガンが大好きです」の文字が浮かび、会場全体に笑いと期待が走る。ステージ上部には約7メートルにもなる巨大なモアイ像が構え、開演と同時に高所で和太鼓による生OVERTUREが鳴り響くという、五感すべてを刺激するスタートダッシュだった。ステージ上部に構えた巨大なモアイ像は、どこかメンバーの面影を投影したような親しみを感じさせ、導入から“らしさ”満載の世界観が観客を引き込んでいった。





オープニングナンバーは「Re:volution」。全員がサングラスをかけ、鋭いダンスと重厚なビートで空気を切り裂いていく。そこから「DNA狂詩曲」「ワニとシャンプー」「CONTRADICTION」「BIONIC CHERRY」と続く前半ブロックは、水の演出と疾走感のある楽曲で畳みかける攻めの構成。高く上がるウォーターキャノンが宙に飛び交い、ステージから客席へ、視覚と感覚のボーダーが溶け合うような臨場感があった。
最初のMCでは高城れにが「台風を跳ね除けて、今日この日を迎えられたことが本当に嬉しい」と笑顔を浮かべ、恒例の自己紹介、そして“DOWNTOWN MOMOCLO BAND”のメンバー紹介も。このあたりは例年通りの安心感がありつつ、会場の一体感を整える場でもあった。



中盤では、今年リリースされたばかりの新曲「Acceleration」を初披露。タイトル通り、疾走感に満ちたアレンジで、拳を突き上げる振り付けが観客の熱を呼び起こしていく。「ココ☆ナツ」ではメンバーがアリーナに降り立ち、水鉄砲で客席にシャワー攻撃。そのまま会場後方の特設ステージに移動し「ROCK THE BOAT」へ。玉井詩織の〈You gotta rock the boat〉のセリフを合図に、会場のテンションはさらに急上昇。横浜の夜を突き抜けるような歓声が、一帯を“夏フェスモード全開”に染め上げた。
続く「ももいろ太鼓どどんが節」ではトロッコ移動とキッズダンサーの共演もあり、視覚的にも夏祭りとしての賑やかさがピークに達する。観客と演者、そして子どもたちがひとつの輪になる、そんな多世代型のエンタメ空間は、ももクロというグループの包容力の象徴でもある。
続くブロックでは、チャイナ服風の新衣装で登場したメンバーが「stay gold」「行くぜっ!怪盗少女 -ZZ ver.-」「孤独の中で鳴るBeatっ!」を畳み掛けていくる。ももクロは変化を恐れず、過去を現在進行形にアップデートしていく。その強さを感じさせるセクションだ。百田夏菜子の力強い煽りに導かれるように、「走れ!-ZZ ver.-」がスタート。イントロが鳴り響いた瞬間、客席の熱気が一気に膨れ上がる。観客はタオルを振り上げ、コールの波がスタジアム全体を揺らす。ももクロのライブにおいて何度も披露されてきたこの楽曲だが、今夜は、夏の空気と大歓声に包まれて、どこか一段と伸びやかに響いていた。



続く「Hanabi」では、ミニマルな照明のなかで静かに歌い出すメンバーの声に、場内の空気がふっと澄み渡る。サビの高まりとともに夜空に次々と打ち上がる花火。その音と光が楽曲の感情と呼応するように、音楽と視覚のコントラストが感動を増幅させる。ただ華やかなだけではない、楽曲の持つ繊細な情緒に寄り添うような演出が心を打つ。何度もライブで観てきたはずの曲が、この日この場所ではまったく違う表情を見せる。その瞬間にしか生まれない高揚と感動が、たしかにそこにあった。きっとそれは、夏という季節のなかで、ももクロとファンが共有する“かけがえのない時間”が、音楽に重なっていたからだ。




トロッコで再び後方ステージに移動し、百田の「タオル持ってる〜?」の掛け声に呼応して「BLAST!」「GODSPEED」「ツヨクツヨク」が披露された。キッズダンサーとの絡み、笑顔のリレー、そして一体となる会場の空気。どこか運動会にも似た親しみやすさと、命を燃やすようなステージング。その同居こそが、ももクロの魅力の核心かもしれない。


そして本編ラストには、再び新曲「Event Horizon」、続けて「Re:Story」を披露。前者は宇宙的な広がりを感じさせるサウンドで、未来への加速を象徴するような一曲。後者は“これまでの物語”を再解釈し、また新たに踏み出していくための決意のようにも響いた。“夏のバカ騒ぎ”という枠を超え、グループの現在地と展望を刻む終幕だった。





アンコールでは、「天手力男」が「ももクロ定番夏ソング総選挙」で1位に選ばれたことを記念して披露。グッズ紹介を挟んだタイミングで、会場のスクリーンには無表情なお面を装着した観客たちが映し出され、客席からは大きな笑いが巻き起こった。緊張と爆笑のバランスも、ライブ全体を引き締めるかのように作用する。そこから「ニッポン笑顔百景 -ZZ ver.-」「コノウタ」、そして「やわく恋して 〜ずっと僕らでいられますように〜」を通して、会場はゆっくりとエンディングへ。大団円のような盛り上がりと、温もりに満ちた別れの時間。恒例の「せーの! ももいろクローバーZ!」の掛け声とともに、3年ぶりの『夏バカ』は幕を閉じた。





あらゆるエンタメの要素が、過不足なく調合された2時間半。そのどれもが“全力で走り抜けること”に意味を持ち、誰もが笑って、濡れて、叫んで、そして最後には胸があたたかくなる――そんな稀有な体験だった。ライブ終盤のMCでは、『ももいろクリスマス2025』がさいたまスーパーアリーナで開催されることも発表され、夏の終わりに向けて、早くも次なる季節への期待が高まる。2025年夏、横浜で体験したこの一夜は、きっとこの先も記憶に残り続ける夏の思い出になったはずだ。

























