“推し活”にも適量がある? 吉田尚記アナが研究者として説く、いきいきと生きるために必要なこと

吉田アナが語るアイドルとウェルビーイング

 アイドル、アニメ、マンガに精通し、各ジャンルのファンから「よっぴー」の愛称で親しまれてきたニッポン放送の吉田尚記アナウンサー。今春から東京大学大学院へ進学し、自らの経験を活かして、今度は研究者として社会を明るく照らすという。

 その研究テーマは「推し活とウェルビーイング」だ。研究対象に選んだのは、メンバーから「ごぼう」のニックネームをつけられるなど長年にわたって交流のあるももいろクローバーZと、そのファン“モノノフ”だという。

 多くの人々に元気を与えているアイドル。だが、学問的には「まだまだ未開拓」なのだとか。ほかに研究している人がいないのなら、自分がやる。そんな熱い意気込みで取り組んでいる研究について語ってもらった。(佐藤結衣)

アイドルファンに対する疑問から生まれた研究テーマ

吉田尚記

――アナウンサーを続けながら大学院への進学。異例のチャレンジだと思いますが、そのきっかけは?

吉田尚記(以下、吉田):アナウンサーの仕事って、本番に持ち込める道具は台本とペンと時計ぐらいで、あとは自分の知識と経験だけなんですよね。だから日頃からできるだけ多くの体験をしておこうと考えていました。

 そんな折、社会学者・見田宗介先生の『現代社会はどこに向かうか――高原の見晴らしを切り開くこと』(岩波書店)という本がとても興味深くて、もともと仲良くしていた宣伝プロデューサーの栁瀬一樹さんに勧めたんです。すると栁瀬さんが僕以上に社会学にハマって。最終的には大学院に入学してしまったんですよ(笑)。すると今度は栁瀬さんから「絶対吉田さんも好きだと思うから」と大学院に誘われまして。そこまで言われるならしっかり学んでみることにしました。

――働きながら大学院に通うことは可能なのでしょうか?

吉田:むしろアナウンサーは知見を広げる活動を積極的に行うほど、仕事に良い影響が出ると思っています。たとえばニュース番組を担当しているなら国会や裁判所に足を運んでみたり、街角から中継する情報番組なら商店街を歩き回ったり。実際に僕もそうして見聞きしてきたことが本番でつながる経験を多くしてきました。

――本番以外の時間にそうした活動をされているのですね。

吉田:特に私が長く担当してきた番組では、アイドルやミュージシャンなど音楽表現をするゲストが多く出演することもあって、年間で200公演くらいライブを観てきました。そのうちにアイドルファンのすごさに気づいたんです。彼らは本当に創造力が高くて面白い。「どうしてそんなコールを考えつくの?」というような言葉が自然発生的に生まれる。そして何より楽しそうなんですよね。なぜアイドルのファンはこんなにも楽しそうにしているのかという思いが、大学院での学ぶ軸となっていきました。

――それが「推し活とウェルビーイング」の研究につながるわけですね。

吉田:「ウェルビーイング」とは1946年にWHOが採択した憲章で広く知られた言葉で、学問としてはまだこれからの分野。世界中で「どう定義していこうか」と話し合われているような状況です。日本語で強いて言えば「いきいきしている」といった感覚でしょうか。

 健康でもいきいきしていない人がいる一方で、明日命を終えるかもしれない状況でも生き生きしている人もいるじゃないですか。なので、ウェルビーイングは単純に“健康的”という意味とは異なるんですよね。人が生きる上でいきいきすることは非常に大切なのに、「じゃあどうしたらいいのか」という疑問をここ数十年でようやく追い始めた段階です。

 そのうえ、アイドルによるウェルビーイングを論じた学術論文は、私が調べた限りではほとんど見つからず、未開拓の分野であるとわかりました。誰もやっていないのなら、アイドルを長年見てきた自分にしかできないのではないか。そう考えて研究テーマに据えました。

――なぜ、そのなかでもももいろクローバーZ(以下、ももクロ)とモノノフを選ばれたのですか?

吉田:僕がももクロをアイドルとして大好きなのはもちろんなんですけど、ももクロファンであるモノノフもまた素晴らしくて。ももクロはこれまでさまざまなアーティストとコラボしながら成長してきた歴史を持っています。その結果、モノノフたちがコラボ相手のパフォーマンスに対しても全力でポジティブなリアクションを返すようになっていきました。そんな異様なくらいマナーのいいファンが数万人単位でいるって、すごくないですか? ももクロと共演したCreepy Nutsが「モノノフは客のプロだ」と言っていたほど。“ファンはアイドルの鏡”なんて言葉がありますけれど、彼らはその代表格だと思います。

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