なきごと、“あなた”と紡ぐ日常への愛しい眼差し 熱狂とともに2025年の集大成を届けたツアーファイナル

ライブの終盤、水上えみり(Vo/Gt)が「なきごと、届いてますか?」と尋ねると、観客が温かな拍手で応えた。なきごとの『これからもよろしくお願いしman to manツアー2025』は、そのタイトルの通り、今年7月にメジャーデビューした彼女たちによるファンへの挨拶周りのようなツアーだった。10月12日、ツアーファイナルの東京・LIQUIDROOM公演は、各地のファンから受け取ったエネルギーを、そして「2025年の集大成と言えるライブにしたい」という自身の強い想いを、音楽にぶつけるようなステージに。ライブはアンコール、ダブルアンコールまで続き、熱狂とともに幕を閉じた。
最初に演奏されたのは「愛才」。今年1月に配信リリースされ、メンバーにとって「なきごとはどんなバンドか考え抜いた1年だった」という2025年の開幕を担った曲だ。水上の歌うポップなメロディ、岡田安未(Gt/Cho)によるロックなフレージングというなきごとの二本柱が早速炸裂するなか、観客も歌詞を口ずさみ、水上は「おっ、歌えるね!」と笑顔。〈本当はどうしたい?〉という歌詞に続く〈混ざり合いたい/君とだから答え出したい〉というフレーズは、これから始まるライブへの――そして今後もまだまだ続くリスナーとの音楽人生への意思表明として歌われた。

2曲目「シャーデンフロイデ」のイントロが激しく鳴らされると、観客が拳を掲げて反応する。水上が観客に「楽しみにしてた人?」と尋ね、フロアの熱いリアクションを受け取りながらも「私たちは、それよりももっと楽しみにしてきました!」と笑うなか、バンドは熱量の高い演奏を繰り広げ、その高揚感を音楽に託した。
今回のツアーは、6~8月に行われた『初心にかえるman to manワンマンツアー』に続いて開催されたもの。前ツアーから数えると計11本のワンマンライブ、そしてツアーの合間のフェス・イベント出演によって、バンドはますます鍛えられたのだろう。サポートメンバーを含む5人のコンビネーションは抜群、その上で岡田がギターヒーローとして確かな存在感を発揮していて、なきごとにとって黄金のバランスが実現していた。奥村大爆発(Dr)、高田真路(Key)、山崎英明(Ba)、岡田のソロ回しを経て披露された「Summer麺」、ラテンにパンクにとリズムチェンジする同曲の情熱を引き継いで演奏された「0.2」では、緻密な音の構成と起伏に富んだ展開でフロアがヒートアップ。水上のタイトルコールから始まった「たぶん、愛」は壮大なサウンドスケープを描くイントロが鮮烈で、こんなにも器の大きなバンドに成長したのだと実感させられた。

彼女たちは「なきごとを改めて知ってもらいたい」「昔からずっといい曲書いてきたよ」「今のなきごともこんなにいいんだよ」という想いで今回のツアーに臨み、特にこの日のツアーファイナルは今年最後のワンマンであることから、「2025年の集大成に」という気持ちがあったという。気合いの入った演奏だが、伝わってきたのは単なるパッションを超えたもの。パレットの上の色彩のバリエーションが増え、各曲が解像度高く表現されていた。結成当初から演奏し続けている「メトロポリタン」も、楽曲そのものの面白さを再認識させてくれるような、音楽的に豊かな演奏だった。
2025年の濃密な活動を経て、水上の歌の説得力、言葉の重みも格段に増した。「どうすればあなたに感謝が伝わるかって考えたんだけど、あなたとずっと一緒にいたいと伝え続けることが私にできる感謝の表現だと思って」――そんなMCとともに届けられた「短夜」におけるボーカルは、隣で歌いかけてくれるような、ステージとフロアの距離を無効化させる力があった。この「短夜」によって、続く「退屈日和」はより素朴で純度の高い愛情表現として響いた。

ライブ終盤に届けられた「明け方の海夜風」も心に残った。曲が始まる前、水上は「ライブをするから出会えた人がいて、バンドをやってなかったら出会えなかった人、見られなかった景色がたくさんある。ツアーやライブで感じたことを音に込めて、また共有して……この“音の渡し合い”がすごく楽しくて」と語った。さらに「これってあなたがいないと成立しないことだと思うんです。私は、あなたといて幸せを感じるからこそステージに立ちたいと思う。だからこそ、今を最大限に分かち合いたい。あなたと一緒なんだって思い合いたい」と言葉を重ねた。そんなMCのあとに披露されたこの曲は、以前ツアーで山口県・周南を訪れた際に海を見て書いたというエピソードがある。つまり、直前で語られた“音の渡し合い”をまさに象徴する曲である。岡田のスライドギターによる滑らかなポルタメントが潮の満ち引きを表現するなか、水上はある種幸せの定義と言えるこの曲を非常にやわらかな声で歌った。同じく海を連想させる曲「ぷかぷか」が続くなか、穏やかながら芯の通った声で「あなたにはなきごとがいるよ。ずっとそばにいるよ。あなたならきっと大丈夫」と観客へ伝えていたのも印象的だった。

高校時代、「あのバンドの新譜が出るから」という楽しみを糧に日々を乗り切ってきたという水上。その経験から「音楽は生きるエネルギーになる」と信じ、「またライブハウスで会いましょう」といつも口にしているのだと語りながら、観客に「生きていこう、前を向いて頑張っていこうと思えるのは、本当に、ひとえにあなたのおかげです」とまっすぐ伝えた。お立ち台の上に立ち、真っ白な光を背負いながら想いを語る水上。今年の活動を経て、フロントマンとして一回りも二回りも頼もしくなった彼女の佇まいは、観る人を安心させ、音楽に寄りかかることを肯定するもの。音楽に救われたからこそ、今度は音楽で救いたい。そんな信念に貫かれた一つひとつの言葉を、観客は真剣に受け止めていた。
そして「あなたの心の一番奥深いところに次の曲を届けたい」という決心とともに「生活」が鳴らされる。ギターのアルペジオに乗せて〈生きていく生きていく/たったそれだけのこと/息を吸う息を吐く/たったそれだけのこと〉と歌った水上は、直後、観客に「それだけのことが、なんでこんなに苦しいんだろう?」と投げかける。さらに「上手く生きたふり、上手く笑えたようなふり、そんなふうに毎日を過ごして……。でも、なきごとの音楽がある時は心から辛いと思っていいんだよ。泣き言を言ったっていいんだよ!」と続ける。一人の人間としての等身大の実感、音楽の中でこぼれた本音に、バンドのフロントマンとしてのメッセージを重ね、観客一人ひとりを抱きしめた瞬間だった。その言葉は、バンド名に込められた想い――なきごとの原点を感じさせるメッセージでもあった。

本編ラストに演奏されたのは「ドリー」。なきごとは誠心誠意・全身全霊で過去一番の轟音を鳴らし、「またライブハウスでお会いしましょう」という言葉を残してステージをあとにした。そしてアンコールには、10月8日にリリースされたばかりの新曲「夢幻トリップ」を披露。水上が「この曲が書けた時、この人生を生きてきてよかったなと思った」と語った同曲は、とてもやさしいバラードで、なきごとというバンドとして、リスナーとともに紡ぐ日常を愛おしむような眼差しが感じられた。この温かな余韻を胸に、なきごととそのファンは人生という旅路をこれからも歩いていく。
セットリスト プレイリスト:https://erj.lnk.to/ZtOXT6

























