藤井 風、Vaundy、YOASOBI……“キャリア初”の挑戦で塗り替えていく自身の可能性
藤井 風の3rdアルバム『Prema』が、発売から約1カ月を経過してもなお話題の勢いは止まらず、ロングヒットを記録している。同作は、藤井にとって初となる全編英語詞のアルバム制作に挑んだ意欲作。幼い頃から邦楽のみならず、洋楽にも影響を受けてきた藤井。アルバムの制作過程を追ったドキュメンタリー特番『NHK MUSIC SPECIAL 藤井 風 ~いま、世界で~』(NHK総合)での発言(※1)によれば、英語詞のオリジナル曲を作ることはかねてから思い描いていたのだという。
同番組では、当初はアルバム制作が難航したこと、突破口となった楽曲が「I Need U Back」だったことが明かされた。アルバムの2曲目に配置された「I Need U Back」は、イントロのファンキーなギターが高揚感を誘うダンサブルな楽曲。歌われているのは、〈My passion has died away〉(僕の情熱は死んでしまいました)という大切なものを失ってしまった現状への嘆き。さらには、〈I need you back〉(帰ってきてください)、〈Never wanted nothin’ like I want you tell me you’ll be mine〉(今までこれほど何かを望んだことはない、僕のものになると言ってください)、そんな切実な願いだ。“音楽への情熱”という視点で捉えれば、藤井の素直な心情が込められた楽曲とも言えるだろう。この曲であらためて自分自身と向き合った藤井は、念願だった英語詞のアルバムを完成させた。そして、ここから世界へと羽ばたいていく、そんな新たな挑戦が透けて見えるようだ。
藤井 風のように新しいことへの挑戦こそが、自身の可能性を広げるきっかけとなる。本稿では、アーティストの“キャリア初”の取り組みと、その試みが作品にもたらした効果について迫りたい。
Vaundyは、今年放送30周年を迎えた紀行ドキュメンタリー番組『世界遺産』(TBS系)の新テーマ曲「軌跡」を書き下ろし。彼にとっては、初のオーケストラ編成での楽曲制作となった。
番組の公式YouTubeチャンネルでは、本曲のレコーディングに密着したメイキング映像が公開されている。かつてThe Beatlesがレコーディングを行った場所でも知られるAbbey Road Studiosを訪れ、感慨深い様子のVaundy。特別な環境のなかで自らディレクションして完成させた「軌跡」は、歴史の重みを感じさせる壮大で迫力のあるサウンド、優雅で琴線に触れるメロディが印象的だ。映像内でVaundyは、タイアップについて「自分の新しいことをやらせてもらえる場所だと思っている」と挑戦意欲を見せつつ、今回の経験も「次で使える要素がいっぱいあった」と語っていた。常に新しい取り組みから学びを得ている彼は、今後も進化した姿を見せてくれるに違いない。
YOASOBIは、ドラマ『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』(フジテレビ系)の主題歌「劇上」を10月2日に配信リリース。YOASOBIにとって、初の連続ドラマへの楽曲提供となった。
さらに「劇上」は、コンポーザーのAyaseが初めてボーカルに加わり、MVでも初の本人出演という初めてづくしの作品だ。シェイクスピアの戯曲にもある「この世は舞台であり、人は皆それぞれ役を演じている」というテーマを軸に制作された本曲では、現状に不満を抱えた主人公が〈もしも世界が/舞台ならば/これも与えられた役回り?〉と自問自答し、その過程で〈全ては自分次第〉なのだと気づき、〈いつかこの幕が降りるまで/この命を演じ続ける〉〈この命を見せつけてやる〉と決意を固めるまでの道のりが描かれている。MVは、パフォーマンスをするYOASOBI、それを撮影するカメラマンというメタ的な構造。加えて、AyaseがYOASOBIとして初めてマイクに向かったことで、〈主役を演じ切る命であれ〉というメッセージが強調されたように思う。ツインボーカル、実写MVという新たな試みが、楽曲のテーマを体現することに繋がっているのだ。
アーティストの“キャリア初”の挑戦には、それぞれの音楽への真摯な探求心が宿っている。新たな取り組みを経てどんな表現が生まれていくのか、これからも見届けたい。
※1:https://realsound.jp/2025/10/post-2184268.html

























