米津玄師、Vaundy、King Gnu、YOASOBI……巧みな“オノマトペ”が膨らませるイメージ

 私たちは日常的にオノマトペをよく使っている。「雨が“しとしと”降っている」「約束の時刻に間に合うか“ハラハラ”する」といったように、物事の状態や感情をわかりやすく伝えるのに役立つからだ。では、こと音楽、楽曲においてはどうだろう。本稿では、オノマトペを効果的に使った楽曲にフォーカスしてみたい。

 直近でリリースされた楽曲でオノマトペが印象的だったのが、Vaundyの「忘れる前に」だ。東京メトロ「Find my Tokyo.」のCMソングで、穏やかなメロディに乗せて夢と現実を彷徨うような情景が描かれている。そして、終盤に登場するのが〈ツルリ、ツルリ〉〈ゴクリ、ゴクリ〉のフレーズだ。それまでが柔らかな言葉で綴られていただけに、唐突に登場する〈ツルリ、ツルリ〉〈ゴクリ、ゴクリ〉は音の響きとしても強烈なインパクトを放つ。見ていた夢が〈バクに食われた〉として楽曲は終わるが、そのラストに繋がる〈ツルリ、ツルリ〉〈ゴクリ、ゴクリ〉は、目の前にあったものが失われていく過程がオノマトペだからこそ生々しく表現されており、少ない言葉で聴き手の想像をかき立てている。

忘れる前に

 米津玄師の「IRIS OUT」には、サビで「ボン」「バン」といった声が挿入されている。本曲は劇場版『チェンソーマン レゼ篇』の主題歌として書き下ろされ、「ボン」「バン」は作品のキーパーソンであるレゼが発するもの。当初は曲に入っていなかったが、レゼのセリフを当てはめた映画の予告映像を米津自身が観て気に入り、実際に曲にも挿入されたという(※1)。こうした映画とのリンク性も魅力だが、楽曲単体で聴いてみても、一瞬の静寂とともに訪れる「ボン」「バン」の爆発音で景色が急変する画が浮かぶ。〈駄目駄目駄目 脳みその中から「やめろ馬鹿」と喚くモラリティ〉と歌われている通り、これ以上近づいたらダメだという危険な恋模様が「ボン」「バン」によって強調されているように思う。

米津玄師 Kenshi Yonezu - IRIS OUT

 少し遡ると、2023年にKing Gnuがリリースしたアルバム『THE GREATEST UNKNOWN』の収録曲「):阿修羅:(」には、〈クタクタクタ〉〈ハラハラハラ〉〈ジタバタバタ〉といった複数のオノマトペが登場する。日常的には「クタクタ」「ハラハラ」「ジタバタ」と使用するのが一般的だが、3回反復されているのは曲中に複数登場する〈“修羅修羅修羅”〉にあわせているためだろう。「クタクタ」と2回反復するよりも、切迫した状況がより伝わってくる。そして、これらのオノマトペが〈“修羅修羅修羅”〉とともに呪文のように響くことで、曲の中毒性を高めているのだ。

 同じく2023年にリリースされたYOASOBIの「Biri-Biri」も、そのタイトルのとおりオノマトペが頻出する楽曲である。〈キラキラ〉〈ドキドキ〉といったポップな言葉が登場したかと思えば、サビも〈ビリビリ〉〈ジリジリ〉〈ヒリヒリ〉といった言葉が並ぶ。さらに面白いのは、〈Give me, Give me〉(ギミギミ)や〈Living, Living〉(リビリビ)といった英語のフレーズと韻を踏んでいることだろう。オノマトペを用いながら繰り広げられるリズミカルな言葉遊びが、楽曲の明るくにぎやかな雰囲気をより引き立てている。

YOASOBI「Biri-Biri」 Official Music Video

 限られた情報のなかで聴き手のイメージを膨らませるためにも、楽曲においてオノマトペは効果的に使われている。曲中に登場する面白い表現にワクワクしながら、これからも楽曲での新たな発見が楽しみだ。

※1:https://natalie.mu/music/pp/yonezukenshi31

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