CASCADEはマニアックかつポップであり続ける 怒涛のデビュー、初武道館……30年間の紆余曲折と“新しい衝動”

1995年にオーディション番組『えびす温泉』(テレビ朝日系)で5週勝ち抜き、ビクターエンタテインメントからメジャーデビューしたCASCADE。2002年に解散するもその7年後に再結成し、現在も定期的にツアーを続けている。簡単には言い表せないその音楽性は永遠のニューウェイヴで、カラフルなルックスとは裏腹に、単純な解釈を拒んできた。あれから30年を経て再び古巣であるビクターからリリースされたニューアルバム『ネブラマクラ』(ネブラ=星雲、マクラ=斑点・黄斑)がかつてのファン、新しい聴き手にどんな反応を呼び起こすか。今はただ楽しみでならない。メジャーデビュー30周年を迎えたTAMA(Vo)、MASASHI(Gt/Vo)、HIROSHI(Dr)に話を聞いた。(佐々木美夏)
「最初に聴いたときからワクワク」――大衆的で退廃的な“CASCADE印”
――今回ビクターに返り咲いてリリースした経緯というのは?
HIROSHI:長谷川さん(デビュー当時からのA&R)にバーで会ったときお酒呑みながら軽く話したんですよ。「再来年デビュー30周年だからビクターから出させてくださいよ」「はいはいはい」みたいな。で、1年前くらいに「あの話はそのままやっていいんでしょうか」って聞いたら「じゃあちょっと打ち合わせしようか」ってMASASHIくんを呼び出して。
MASASHI:そうそう。やっぱりデビューから一緒にやっていただいていたんで思い入れもあるし、ぜひやりたいなと。それでまぁ時を経て今年の4月かな、僕らはツアーやってて、「終わってから曲作り始めるかなぁ」って感じでいたら、長谷川さんから「そろそろ曲上がってるかな?」みたいに聞かれて……「え?」(笑)。で、ツアーが終わった5月の頭くらいから作り始めた感じですね。
――すごいスケジュール。
MASASHI:ツアーが終わってからそのテンションで作り始めようかなと思ってたんで。でもちょっと時間に余裕を見すぎてた(笑)。まぁ何曲かは前から作ってたメロディがあったり、あとライブで披露したけど形にはなっていなかった曲もあったり。「0と1の黙示録」とかそうですね。けっこう前からあってライブで数回やったけど音源になってなかった。
――レコーディング前に3人で何か話はした?
HIROSHI:ツアー中は毎週末会ってたんで、そのときにMASASHIくんに最近聴いてるものを教えてもらったり。マニアックなものばかりだけど、高校生とか中学生のときって人が聴いてないものを聴くのがかっこよかったりするじゃないですか。今Apple Musicとかですぐ検索できるし、そういう話を楽屋でしてた。
――それでサウンドの方向性を決めていった?
MASASHI:そうですね。僕はがっちり決めてやることはあまりなくて、でもみんなのテンション感は知りたくて。作った曲をライブでやる、そこが一番なんで。だからみんなが今どんな曲を聴いてワクワクしてるのかなってのは気にしてますね。洋楽・邦楽問わず。
TAMA:みんなよくMASASHIが聴いてるものはマニアックだって言ってますけど、やっぱりどこかポップなんですよ。すげえなと思うのはずいぶん昔、「ブリトニー・スピアーズ知ってる?」って聞かれて「知らない」って答えたらいきなりガーッて売れて、次は「レディー・ガガ知ってる?」「知らない」と言ってたらまたガーッと売れたり。あとはONE OK ROCKもCDを持ってて、そのときはまだそれほど売れてなかったのに今はもう世界を駆けまわるスーパーロックスター。MASASHIは情報をキャッチするのが早いんですよ。だからできた曲もマニアックだけどポップだなぁと思います。大衆性と退廃的なものがミックスされてる。それがCASCADEのフィルターを通してでき上がっていくから、最初に聴いたときからワクワクはしてますね。
――MASASHIくんが作るものへの全面的な信頼感があると。
TAMA:もちろん。じゃないと30年もやってませんよ!

――メロディを作るときにバックのサウンドも一緒に出てくる?
MASASHI:今回だと確かに同時ですかね。メロディとサウンドを分けて考えない。バンドで演奏することが一番なので、ステージでみんなが輝いてるところを想像しながらのメロディって感じですかね。
――タイトルを決めたのはいつ頃でしょう?
MASASHI:アルバムを作る前ですね。今やってるツアー(『CASCADE Debut 30th Anniversary Tour 2025「ネブラマクラ」』)が先に決まってて、そのタイトルを先に『ネブラマクラ』にして。アルバムの制作はその後に決まったんだけど、内容的にもアルバムタイトルにふさわしいかなと思って一緒にして。
――『ネブラマクラ』はラテン語?
MASASHI:ラテン語ですね。ネブラって言葉とマクラって言葉は別々の単語なんですけど、くっつけると『ドグラ・マグラ』っぽいし、そんな感覚で造語みたいに。なんとなく僕らっぽいし。
――昔から意味がわからないタイトルが多かったもんね。
MASASHI:そうですね。あんまり意味づけ……してる曲もありますけど、それよりその言葉を聞いてワクワクする感じっていうか、一発でわかってもらいたいっていうより考えてもらうほうが好きっていうか。
レコーディングにも表れる30年の変化
――レコーディングは3年ぶり?
HIROSHI:そうですね。ドラム録ってるときMASASHIくんもほとんど来ないで、たまに顔出して「どんな感じ?」って。TAMAちゃんは京都にいるから音を送り合ってました。
MASASHI:だから変わったと言えば変わりましたね。昔に比べたらデモテープはだいぶ綿密に作ってる。昔はなんとなくみたいなレベルのデモで、その後みんなでスタジオで時間かけてアレンジしていったけど、今はデモテープの段階でもう歌詞も乗っかってるし。
――昔はどんな曲かを口で説明してたよね。
MASASHI:そう、スタジオでね(笑)。今は考えられないですね。スタジオ入ってからそれかよ、みたいなのはもうない。

――TAMAちゃんは東京のスタジオには来なかったの?
TAMA:来たという体でお願いします(笑)。気持ちはみんなと一緒です。
――昔より丁寧に歌ってる気がしましたけども。
TAMA:(笑)。何パターンか録って、「好きなのを使って」って。
MASASHI:そんなに選んだ気はしてないけど。レコーディング中に電話かかってきて「ここはどうする?」とかいうのはありましたね。
――30年前とはずいぶんやり方が変わっている。
MASASHI:そうですね。30年前はスタジオに入っての化学反応っていうか、みんなどうするのかなっていうワクワク……まぁそれは今もあるんですけど、30年やってると「こう来るだろうな」っていうのが何となくわかるじゃないですか。ライブのときもそうだし。そういうのが入った上でワクワクする、「何が起こるかな」って待ってる感じじゃなくて、「こう来るよね」ってわかった上でのやりとりが早くなった感じはしますね。
――この中でアルバムを象徴する曲を挙げるとしたら?
MASASHI:1曲目の「Meta Nova」ですかね。あとは「絶叫ノ廻聲」とか「プレイバック16」とか。
――「プレイバック16」は青春ソングですね。
MASASHI:これは昔からあるメロディなんですよ。出す機会をうかがってたというか、Aメロとサビのキーの高低差が難しいなと思ってて。でも今回ラインナップ的にライブで盛り上がるガツガツした曲が多いから、ちょっとこういう曲も入れたかった。
――歌うのが難しかった曲は?
TAMA:特にないなぁ……。
MASASHI:1曲目(「Meta Nova」)をレコーディングしてる様子の映像を送ってくれて、「おぉ」みたいに思いましたね。身体を震わせて歌うっていうか、昔の曲で言えば「la narracion grande」みたいに。あと今回SE(インスト曲「ネブラマクラ」)を真ん中にしたのもこだわりですね。カセットテープで言うB面の始まりっていうか。SEに引っ張られないで「Meta Nova」を聴いてほしかったのもあるし。
――歌詞は相変わらず苛立ちがベースにあって。
MASASHI:あ~(笑)。ちょっと不穏な感じというかね。
――でもそれを一点突破したいというか。
MASASHI:まぁそうですね、みなさんと一緒というか。
――TAMAちゃんは世界観を理解するのに苦労した歌詞はある?
TAMA:そこに関しては前からそうなんですけど「これはどういう意味なの?」とか聞かないんですよ。MASASHIも押しつけてこないし、自由に歌ってくれと。自分に預けてもらっているというか。だから自分も歌詞とかメロディとかに関しては、全部理解して歌おうとするとどうしても押しつけがましくなってしまうし、やっぱりライブもCDも自由に楽しんでいただけたら嬉しいなというのがあるんですね。どんな聴き方でもいいですし。車の中でも海でも山でも家でもいろんなところで聴いてほしいなと思ってます。

――マスタリングが終わって完成品を聴いてみてどうでした?
MASASHI:やっぱり4月のツアー中に話してたところから始まったものが完結したかなっていうのと、これからライブでやっていきますけど、リハーサルでやってみると今までにない感じのワクワクというか、ドキドキする感じの曲ができたなと思ってますね。MVを撮った「ヘッチャラッチャ・クラッシュ」とかも今までにない感じのいい曲できたなと。
HIROSHI:もともとMASASHIくんの曲ってそういうのが多いんですけど、今回も1曲の中に3曲くらい入っているのがやってて面白いし、「おぉー」と思いましたね。メロディは今まで通りポップだけど、こんなにブレイクが多い曲は今までなかったもんね。でも大変じゃないですよ。もうわかってるから。「HIROSHIくんはこういう感じでドラムのフレーズを入れるんだろうな」ってわかってる。だから今回はデモのドラムとほぼ一緒なんですよ。そのまま行けたんで、わかってくれてるんだなぁと。
TAMA:8曲のバランスがいいなぁと思いましたね。
HIROSHI:いいよね。聴いてて全然飽きない。

















