浅井健一、前だけ見て進むポップな境地へ BLANKEY JET CITY再結成はあるのか、赤裸々に語る

浅井健一、ブランキー再結成にアンサー

 今回のインタビューでは、ベンジー(浅井健一)にどうしても聞かなければならないことがある。ひとつはポップなニューアルバム『OVER HEAD POP』のこと。もうひとつはBLANKEY JET CITYの再結成はあるのか? ということである。

 『OVER HEAD POP』はタイトル通り、ベンジーのロックンロールのサウンド感がポップに結晶化した作品である。おなじみの小林瞳(Dr)のドラミングに、一昨年のSHERBETSのツアー『24th→25th ANNIVERSARY TOUR “そして未来へ"』をサポートして以来の付き合いとなる宇野剛史(Ba)のベースラインが絡むことで、グッと引き締まったバンドサウンドに結実。その上で自由度を増し、イマジネーションが膨らむばかりのベンジーの歌が躍動しているのだ。

 そしてブランキーについては、今夏に発表された全作品のサブスク解禁とアナログ盤のリリースが大変な騒ぎとなっており、その向こう側ではベンジーと照井利幸(Ba)、中村達也(Dr)の3人が再び一緒に活動するのではないかというファンの憶測と期待が渦巻き続けている。2000年の夏に解散したこの伝説のバンドは、24年の間、一度も再結成をしていない(例外的に『RISING SUN ROCK FESTIVAL』で、3人だけの数分間のセッションを見せたのみ)。

 当のベンジーもこうした喧騒が起こっているのはわかっているようで、はからずも対話は現在のことと過去のことを行き来しながら展開した。すべてのことを穏やかに、ポジティブに語ってくれたベンジー。そして、何もかもが一貫しているベンジー。ニューアルバムの最後の曲「けっして」で〈けっして 後ろ振り向くな/前だけ見て 歩め〉と歌う、彼らしい言葉の数々になったのではと思う。(青木優)

わずか2カ月で完成したニューアルバム、SHERBETSとは一味違う作品に

 ーー『OVER HEAD POP』、いいアルバムだと思います。

浅井健一(以下、浅井):おおー、マジで? ありがとう。

ーーはい。それで最初にこのアルバムに至るまでを確認したいんですけど、浅井さんは去年まではSHERBETSの活動がメインだったんですが、暮れから今年の序盤まではAJICOの制作があって、春からはAJICOのツアーが始まりました。それと別に今年の2月には浅井健一 ACOUSTIC & ELECTRICのツアーが神戸と名古屋と東京であって。こちらは小林瞳さん、宇野剛史さんとの初めての組み合わせでしたね。

浅井:ああ、そうだね。今年はそこから始まったんだわ。

ーーそして6月下旬からはこの3人で『Thousand Tabasco Tour』という東名阪のソロツアーをしていて、東京は7月5日のLIQUIDROOMでした。そこで、10月からの新たなツアー『Kenichi Asai Autumn Tour』が発表されたんですけど、浅井さんは「新しい作品を作ろうと思ってるけど、まだ何も決まってないんだわ」と言われていて。ところが、それからわずか2カ月と少し経った今、こうしてアルバムのインタビューに答えてもらっている状況です。

浅井:そうだね(笑)。いや、めちゃくちゃ頑張ったよ。「今からアルバムを作る」と言ったはいいものの、大変だろうなとは思ってたんだけど。でも発想を変えたの。SHERBETSでアルバムを2枚作ったから、今度はその真逆の、自分の面白いところ? そういう感覚で曲を思いっきり作ったらいいんじゃないかなと思ったんだわ。特にあのふたり(小林と宇野)の演奏はすごくタイトだから、SHERBETSとはまた一味違う分野になるよね。それでポップな感じというか、「思いっきり楽しく激しい感じを追求しよう」と思ったら、いろいろアイデアが出てきて……ということだね。

ーーまさにこの3人だからこその音だと思います。そしてこれは宇野さんが加わった初めての作品になりますが、すごくいいですよね、彼のベースは。

浅井:ああ、剛史、めちゃくちゃ頑張ってたよ。楽しそうだった。

ーー彼のベースはとてもグルーヴィですが、そこはいかがでしょうか?

浅井:うん、グルーヴィだから一緒にやってるんだよね。それプラス、レコーディングで一番大事なのは、やっぱりメロディなんだわ。剛史は今まではライブで(既存の)曲のベースラインを完璧に弾いてくれてたけど、新しく作る曲では剛史が(ベースの)メロディを作るから、そこで曲を作る能力があるかないかはすごく大事なの。今回はそれができたと思うね。だから(宇野は)メロディを作る才能もあると思うよ。

ーー浅井さんはこれらの曲を書き溜めてはいたんですか?

浅井:いや、新しく書いたのもあるし、前からあったのもあるよ。

ーー前からあったのは「けっして」ですか? この曲だけリズム隊は椎野恭一さん(Dr/AJICO)と仲田憲市さん(Ba/SHERBETS)ですけど。

浅井:いや、「けっして」は新しいね。これは内容が(自分自身を)振り返る曲でしょう? 振り返るには、あのふたり(小林と宇野)は若いじゃん? だからやっぱり先輩というか、「振り返れる歳の人に演奏してもらわないと」と思って、椎野さんと仲田先輩に弾いてもらった。お金、すごいかかっちゃったけど。でもお金はそういうことに使わないとね。

ーー別のセッションになりますからね。でも「けっして」が最後にあって、アルバムがいい形で締まっていると思います。そして聴いていて、とても心地いい作品だと思います。

浅井:うん、心地いいってのは大事だね。じゃあ、みんなに聴かせるのが楽しみだね。

ーーそして曲なんですが、夏のツアーのタイトルが『Thousand Tabasco Tour』で、このアルバムには「HUNDRED TABASCO AIRLINE」という曲がありますね。

浅井:まあ響きが気に入っちゃってるんで。『HUNDRED TABASCO TOUR』というのは、去年やったツアーかな。いつだったっけ? 忘れました(2022年に浅井健一 & THE INTERCHANGE KILLSで開催)。

ーーそのぐらい“タバスコがたくさん”というイメージがあったんですね。

浅井:うん。辛いもの好き、タバスコ好きだから。

ーーですよね。今までの曲にも辛い食べ物が出てきていますね。

浅井:「ハラピニオ」とかあったよね(2014年『Nancy』収録曲)。タバスコ以外に出てきたっけ? まあチリがあったか。

ーーそうですね、そもそも〈チリドッグ〉がブランキーの「D.I.J.のピストル」(1993年『C.B.Jim』収録曲)に出てきましたし、今回の「Come on Cushion Fight」には〈タバスコシャワー〉が出てきます。昔から辛いもの好きですよね。

浅井:そうだよね。「せっかく食べるなら辛くして食べないと」って思っちゃうんだよ。

ーー「POPCORN」では〈ポップコーンは 塩が効いてなくちゃ意味がないよな〉という歌詞があります。

浅井:たまに、塩が効いてない映画館があるんだよね(笑)。映画館、最近は全然行ってないけど、昔は子供を連れてってたからさ。それでやっぱポップコーン食べるもんね。

ーーやっぱり塩味ですよね。昔、インタビュー取材の合間に、浅井さんが激辛のカラムーチョをボリボリ食べてるのを見て、驚いたことがあります。

浅井:激辛のカラムーチョ? そんなもん、誰でも食べれるでしょ?

ーーいや、僕は食べないですよ。辛すぎるのは苦手なんです。

浅井:それは温室育ちだわ(笑)。そんなの、普通にスーパーで売ってるんだから、普通食べれるでしょ? みんな。

ーー(笑)。でも激辛を食べれない人は多いと思いますよ。

浅井:ああー。まあバカみたいに辛いやつとか、あるからね。それはやめといたほうがいいと思う。俺も友達にプレゼントされたバカみたいに辛いカレーを食べたんだけど、少しムカついたもんね。こんなものをくれるな! とか思ったもん(笑)。あれは身体に悪いと思うよ。

ーーその一方で、歌に甘いものもよく出てきますよね。このアルバムでも「猿がリンゴ投げた」に〈Sweet Milk Shake〉があって。ブランキーの『METAL MOON』(1993年)にこの言葉をタイトルにした曲がありました。

浅井:うん。久しぶりに、また登場しました。

ーーそれから「HUNDRED TABASCO AIRLINE」ではソフトクリームをなめる場面があります。

浅井:ああ、〈ミスタースヌーピン〉がね(笑)。

ーーそうです。それに先ほどの「POPCORN」には〈アイスクリームショップ〉も出てきます。

浅井:うん、それは本当にできたんだよな、アイスクリームショップが事務所の近くに。こういうの、みんな楽しんでくれるかな?

ーーはい、いろんなポップな描写が出てきますし、空想の中に本当のことも紛れてるんですね。ただ、現実には、こういう食生活を送ってるわけではないですよね?

浅井:こんな食生活は送っとらんよ、俺(笑)。今のところ健康だし。

ーー(笑)。それは何よりです。それと「Fantasy」の歌詞には、〈ミセスロビンソン〉が登場しますね。

浅井:うんうん、『卒業』(1967年公開のアメリカ映画)だね。それは俺らの年代の人は一発でわかるっていうか。

ーーはい。そしてその主題歌だった「The Sound of Silence」を歌ったのがサイモン&ガーファンクルで、彼らの「Mrs. Robinson」も『卒業』で使われています。浅井さんは昔からサイモン&ガーファンクルが好きだと言ってましたよね? もう34年も前のことですけど、『イカ天』(『三宅裕司のいかすバンド天国』/TBS)に最初に出た時にもその話をされてるんですよ。

浅井:サイモン&ガーファンクルが好きだって?

ーーそうです。僕もその放送を観てたんですけど、プロフィールにサイモン&ガーファンクルが好きだと書いてたそうで、テレビでは審査員の人に「ポール・サイモンに似てるって言われない?」と聞かれていて。

浅井:ボブ・ディランじゃなくて? ……ああ、そうか。それで俺が「ボブ・ディランに似てると言われます」と言ったんだっけ(笑)?

ーーはい。番組中で、そういう話になって。

浅井:曲は好きだけど、自分がポール・サイモンに似てるとは思わないな(笑)。あれは周りがパンクスとかだらけだったから、俺はそん中でホッとする曲が聴きたかったんだよね。それで(サイモン&ガーファンクルが好きと)書いたんじゃないかな。

ーーただ、サイモン&ガーファンクルが好きなのは本当ですよね。2009年、東京ドームでのライブも観に行ってましたよね?

浅井:うん、行った。サイモン&ガーファンクル、めちゃくちゃいいじゃん。

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