米津玄師、宇多田ヒカルと藤本タツキとの対談で見せた創作の現在地 共通するマンガとVOCALOIDというテーマ

米津玄師が語る“自身の故郷”、“一を聞いて十を知る”宇多田の聡明さ

 この対談の中でも特にディープな話題のひとつとなるこのチャプターでは、米津からの“身体性”というワードを契機に会話が展開される。「顔も名前も知らない相手と交流するデジタルな世界、いわば身体性のない物事に自身の故郷があるように思う」と語る米津。当時、彼がハチとして活動していたニコニコ動画という場所、そしてVOCALOID。そんな機械的でデジタルな音楽ルーツと、人間的な揺らぎを歌うR&Bという宇多田の音楽ルーツは対照的だが、それもまた二人の歌/音楽性の違いに繋がったのでは――そんな結論に話は帰着していくのだ。米津から送られてきたデモ音源を聴いた際に感じた“不自然さ”について、ルーツの話を受けてたちまちに自身の感覚を的確に言語化した“一を聞いて十を知る”宇多田の聡明さや、結果的に正反対の音楽性が交差した今回の機会を非常に前向きなものと捉えた彼女の並外れた受容力の高さも、この一幕からは垣間見ることができるだろう。

米津玄師 × 宇多田ヒカル - JANE DOE対談

 また、藤本との対談で、藤本自身もニコニコ動画やVOCALOIDが興隆した頃のネットカルチャーに触れていることもあり、インターネットやVOCALOIDに関する時代観を共通のものとして話が進んでいく。『チェンソーマン』という作品と“アーティスト・米津玄師”のマッチングの良さを藤本自身が以前から感じていたという話や、今のような“国民一億総発信者時代”の先駆けとして両者ともにネットを活用し創作/発信を行っていた話……。そして、動画終盤には藤本による“初音ミクと米津玄師考”が繰り広げられたりと、同じ時代の中で育ってきたクリエイターの共通言語として、VOCALOIDが話題の中心となり、会話が展開されていた印象だった。彼らと同様に当時の時代観を知る人々にとっては懐かしく、一方で当時の温度感を知らない人にとっても米津と藤本という稀代のクリエイターの才能がどのような世界で醸成されたのかを知ることができる、そんな貴重なワンシーンでもあったように思う。

 宇多田ヒカル、藤本タツキといったメディア露出の機会も少ない著名人の貴重な一面が見られることに加え、米津自身の“今の姿”を捉えられる稀少な機会としても、大勢のファンから注目を集めた今回の対談。今後もさまざまなリリースタイミングで多くの著名人と交流を深めるであろう彼の姿が楽しみだ。

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