いいバンドの音楽は色褪せず鳴り続けるーー2000年代ロックシーンが今もなお求められる理由
アニメ『ぼっち・ざ・ろっく』に始まり、マンガ『ふつうの軽音部』やさまざまなバンドのトリビュート企画のニュースまで。ここ数年、2000年代に活躍したバンドやその楽曲の魅力に、改めてスポットの当たる機会が随所で見受けられている。
ロックバンドやライブハウス文化のみに留まらず、今日の邦楽シーン全体に今なお大きな影響を与え続けている2000年代のロックシーン。さらに言えば音楽に留まらず、アニメやマンガといった近年の日本のカルチャーコンテンツへ総じて色濃い影響を与えていることからも、当時の音楽がいかに大勢の心に鮮烈な色を残しているかが窺える。
そこで今回は、今注目を集める2000年代ロックシーンを題材とした近年のカルチャーコンテンツをピックアップ。バンドからバンドへの、音楽から音楽への継承のみならず、アニメ・マンガへと形を変えてその魅力がどのように波及しているのか。表出の仕方の差異も含めて、各コンテンツに込められた2000年代ロックシーンへの愛を紐解いていきたい。
『ぼっち・ざ・ろっく』『ふつうの軽音部』で再燃した90〜00年代J-ROCK
まず言及すべきは、やはり今日の潮流の筆頭格として爆発的な人気を集めたアニメ『ぼっち・ざ・ろっく』だろう。ASIAN KUNG-FU GENERATIONをモチーフとしたメインキャラクターや、下北沢SHELTERをモデルにした物語内のライブハウス。また作中楽曲の制作陣にも2000~2010年代の邦ロックシーンに縁深い面々を多数抱えており、そういった愛のある背景設定も、本作がここまで大勢の元に届いた理由のひとつとなる。
その後を追うアニメ『ガールズバンドクライ』や『ロックは淑女の嗜みでして』も、ガールズバンドという題材のみならず2000年代ロックシーン要素を作中で取り入れた点においても『ぼっち・ざ・ろっく』に通ずる面がある作品群だ。『ガールズバンドクライ』ではゆらゆら帝国やサンボマスター、神聖かまってちゃんなど、1990~2000年代にその名が広まったバンドの楽曲名を複数アニメ各話のタイトルに引用。『ロックは淑女の嗜みでして』には下北系・残響系とも縁深いLITEやmudy on the 昨晩、te’などの楽曲が作中に登場し、物語の主軸バンドも彼らの作風を彷彿とさせるインストゥルメンタルバンドとなっている。
また『ぼっち・ざ・ろっく』や『ロックは淑女の嗜みでして』は、さらに元を辿れば一定の人気を得たマンガ作品がメディア化し大きな話題を獲得したものとなる。その点でもマンガ界では現在のムーブメントよりいち早く、2000年代ロックシーンに焦点を当てる潮流が起こっていたと言ってもいい。
そのムードは弱まるどころか今なお高い熱量を誇っており、直近では2000年代バンドマンガの大名作『BECK』の作者・ハロルド作石による新作『THE BAND』の連載開始も記憶に新しい。加えて現在マンガ界で2000年代ロックシーンの人気を牽引する立役者としては、やはり「ジャンプ+」にて週刊連載中の『ふつうの軽音部』の功績を語らないわけにはいかないだろう。
向井秀徳に憧れる女子高生の主人公・鳩野ちひろを中心に、平凡な高校の軽音部の日常をコミカルなタッチで描く本作。作中には実在の楽曲が多数登場し、コピーバンドを主とする高校生軽音部の活動を、リアリティある描写で描いた点も作品の魅力のひとつとなる。ストーリーでは要所要所でELLEGARDENやandymori、銀杏BOYZ、Syrup16gといった2000年代ロックシーンには欠かせないバンドから、2010~2020年代を彩るアーティストまで幅広い楽曲が登場。物語と音楽、両側面から作品を楽しめると同時に、作家陣の深い“邦ロック愛”をも確かに感じさせるマンガとなっている。
アジカン、ACIDMANらトリビュートにも注目
このように時が経ってなお、マンガやアニメといった幅広いコンテンツへ形を変えて波及する2000年代ロックシーンを彩った音楽たち。だがもちろんその影響の大きさは、2020年代の音楽シーンへも当然色濃く受け継がれている。the cabs再結成やRADWIMPSとBUMP OF CHICKENの対バンの実現、UK.PROJECTによるイベント『UKFC on the Road』の15周年記念ライブ出演陣の豪華さなど。当時の音楽に親しんだ人であれば垂涎モノの話題が2025年に入ってからも逐一飛び交う中、やはり2000年代ロックシーンに通ずるトリビュート作品群の興隆についても最後に触れておきたい。
まず触れておきたいのは、今年3月リリースのAVYSSレーベルによるコンピレーションアルバム『i.e』だ。今作はSUPERCARや相対性理論、くるりほか2000年代を中心とするアーティストの楽曲を、2020年代的価値観を持つ最新鋭のクリエイターたちが公式にリメイクした作品となる。
そこに続いて今年6月には、2017年リリースのASIAN KUNG-FU GENERATIONトリビュートアルバム『AKG TRIBUTE』が8年越しに配信リリースを開始。2000年代ロックシーンを愛した人々のみならず、その魂を脈々と受け継ぐ2010年代邦楽シーンを愛する人々にとっても、ともすれば非常に懐かしく嬉しい一報であったに違いない。
さらに夏から秋にかけてはART-SCHOOLとACIDMANという、2000年代から今なお活動を続ける2大バンドのトリビュート作品が続けざまにリリース。ART-SCHOOLは結成25周年を記念したトリビュートアルバム『Dreams Never End』を8月20日にリリース。ACIDMANは4年ぶりのフルアルバム『光学』と併せてトリビュートアルバム『ACIDMAN Tribute Works』を10月29日にリリースする。同じ時代を生き、時には道を交えながら、共に長いキャリアを積んできた両バンド。彼らの楽曲の素晴らしさを再発見できると同時に、各作品のラインナップアーティストの傾向の違いも、両バンドのみならず2000年代の、そして今日に至るまで長く邦楽・バンドシーンを愛し続ける人には、ある種興味深く楽しめるトリビュート作となっているだろう。
いい音楽は、いいバンドの音は、いつの時代も色褪せず鳴り続ける。ストリーミングサービスが普及しすべての時代の音楽を同列に聴くことができる今、その言葉は昔に比べより実体を伴うものとなった。約20年の時を経て交差する、過去と今の音楽/コンテンツ。2000年代ロックシーンを入口とする人も、現在の作品を入口とする人も、そこに生まれる化学反応をぜひさまざまなコンテンツで楽しんでみてはいかがだろうか。



























