家入レオ、対話するように届けた新たな光「Mirror」 斎藤宏介とのコラボから得た刺激も明かす

家入レオ、斎藤宏介から得た刺激

 家入レオのニューシングル『Mirror』より、水曜ドラマ『ESCAPE それは誘拐のはずだった』(日本テレビ系)の主題歌として書き下ろされ、斎藤宏介(UNISON SQUARE GARDEN/TenTwenty)をフィーチャリングした表題曲「Mirror feat. 斎藤宏介」が10月8日に先行リリースされた。シリアスなムードのトラックの上で、家入と斎藤が繊細に声を重ね合わせて紡ぐ、ドラマチックな1曲に仕上がっている。『Mirror』のカップリングには、ライブではすでに人気のチャーミングな恋愛ソング「ラブレター」を収録予定。2曲とも〈君〉と〈僕〉が登場する物語でありながら、対照的な印象を放っているのが面白い。

 今回のインタビューでは、制作エピソードと共に、30歳になり、リフレッシュした時間を過ごしたことで新境地に辿り着いたと語ってくれた家入。今もなおキラキラとした瞳で音楽の道を追い続ける彼女の想いに触れてほしい。(上野三樹)

家入レオ - 「Mirror feat.斎藤宏介」(Music Video)

30歳という節目、音楽との向き合い方への変化

――新曲「Mirror feat. 斎藤宏介」はドラマ『ESCAPE それは誘拐のはずだった』の主題歌として書き下ろされたということですが、まずはオファーを受けたときのドラマの印象を教えていただけますか?

家入レオ(以下、家入):これまで恋愛ドラマや青春ドラマといった様々なジャンルのドラマ主題歌を歌わせていただきましたが、今回のプロットと企画書を読ませてもらった時に、初めてのテーマだなと感じて心が躍ったのが最初のフィーリングでした。

――桜田ひよりさんと佐野勇斗さんが演じる、人質と誘拐犯である男女の感情を音楽で表現する上で、特に意識されたことは何でしたか。

家入:主演のお二人の役柄に、全く違う価値観や家庭環境で育ちながらも、逃亡する中でお互いの中に自分を見つけるという部分を感じました。明日が見えない中で手を取り合って生きる道を探す男女。ここ数年は私も自問自答することが多いんですが、対になっているような二人の姿が、鏡に写した自分と対話しているようにも思えたので「Mirror」というタイトルにしました。

家入レオ 撮り下ろし写真

――制作にあたってはどんな意気込みでしたか。

家入:私自身は30歳という節目もあり、デビュー15周年も見えてきた中で、2025年の上半期に1カ月間のお休みをいただいて海外に行っていたんです。東京という生活環境を離れて人生を見つめ直せたらという想いで、メインはオーストラリアで4~5つの都市をまわり、シンガポールとマレーシアにも行きました。そこであらためて音楽の向き合い方に気づきがあって、今まで大事に築き上げてきたものを抱きしめながら、やっぱり進化することも忘れたくないなと思いました。なので今回の制作にあたっては、新しい挑戦として斎藤さんにお声がけさせていただきコラボをしました。

――曲作りはどのように進んでいきましたか。

家入:新しい扉を開きたくて、ここ数年ずっとご一緒したいなと思っていたSakai(Ryosuke “Dr.R” Sakai)さんにお願いしました。Sakaiさんとの打ち合わせで音楽クリエイターの麦野優衣さんを紹介していただき、3人で曲を作ろうというスタートでした。自分で曲を作る時はピアノやギターでコードを鳴らしながら、そこに直感的にメロディラインを乗せて、長い時は数カ月くらいかけてそのメロディを頭脳や理論で整えていくようなスタイルが多いんですけど、今回Sakaiさんとご一緒するにあたって、自分のやり方を一旦忘れて身を委ねようと自分に約束して臨んだ制作でした。なので、今回はSakaiさんが作ったトラックを、その日スタジオに集まって聴くところから始まって。すごくオープンなスタジオの真ん中に1本だけマイクが置いてあって、そこに私と麦野さんが交互に立って、2~3テイクずつ、そのトラックに自分が思うメロディを瞬発的に乗せていく。スタッフも含め、たくさんの人がいる中でメロディを出し合い、アイデアが枯渇して同じようなメロディしか出てこなくなって選手交代……みたいなこともあるんですけど、それを何ターンも繰り返すんです。

――自分の力量が曝け出されるような手法ですね。

家入:そうなんです。私もデビューして13年経ちますが、身が引き締まる現場でしたし、ここでいいものを出せなかったら本物じゃないと言われているような感覚でした。私と麦野さんが出したメロディをSakaiさんが編集して、それをスタジオでみんなで聴くんですけど、そこで自分のメロディがどう使われていてどこが使われなかったのかもわかる。こうしたコライト方式の制作スタイルを初めてやらせていただいて、とても面白かったです。もう少し前の私なら、できた楽曲を数日置いてもう一度聴いて、さらに作っては壊して……を繰り返したいと言っていただろうなと思います。でも今ならできると思いましたし、こうした曲作りに挑戦できてよかったです。

家入レオ 撮り下ろし写真

斎藤宏介とのコラボ経緯 「身が引き締まる想い」

――そして、今回は家入さん初の男性アーティストとのコラボ曲ということですが、斎藤宏介さんにお願いした理由は?

家入:以前、斎藤さんがスペースシャワーTVのレギュラー番組『斎遊記』に私を呼んでくださって、スタジオでセッションさせていただいたんですけど、その時に斎藤さんが楽しそうに超絶技巧なギターを弾いて、なおかつ女性のキーを身軽に歌いこなす姿を見て。私の「空と青」という曲をコラボさせていただいたんですが、歌声も優しいのに意志の強さも感じて、一緒に歌った時の心地よさが忘れられなかったので、男性とフィーチャリングする楽曲なら、斎藤さんとご一緒したいと思いました。

 ただ、実は今回、まだ曲ができてない状態でオファーさせていただいたので、もし自分が逆の立場だったら「ご一緒したいですけど、曲を聴いてからお返事してもいいですか」と言うことだって考えると思うんですよ。でも斎藤さんは音楽キャリアも長い中で、どんな曲がきても自分色にできる気持ちがあるからご快諾くださったのかなって思いました。だからこそ、そこから曲を制作する側としてはさらに身が引き締まる想いで。自分にとってもそうですが、斎藤さんにとっても、この曲を家入レオと歌えてよかったなと思ってもらえるような曲にしたいと思い、心を砕きながら作っていきました。レコーディングで斎藤さんとお会いした際に、「また何か一緒にやりたいと思っていたんです」と言ってくださったのが嬉しかったです。

――今回の曲に関して「時に衝突し合いながら相手の中に自分を発見し絆を深めていくその姿が、鏡越しに自分と対話しているように見え」たとコメントされています。お二人の声が重なることで、そうしたテーマ性がより立体的に表現できるのではという狙いがあったのでしょうか。

家入:まさにそうですね。斎藤さんは、UNISON SQUARE GARDENではボーカル&ギターとして主に田淵(智也)さんが書かれた曲を歌っていて、TenTwentyでは須藤(優)さんと一緒に演奏されて、ご自身でも楽曲を書かれていて。私も自分で曲を書くこともあれば、楽曲提供していただくこともあって。バンドとソロシンガーではもちろん形は違いますが、その時々によってスタイルを選択しているという部分で、斎藤さんと通じるものがあるなと思ったんです。なので本当に鏡の自分と対話するような形で斎藤さんとは声を重ねることができました。

家入レオ 撮り下ろし写真

――レコーディングで特に印象的だったエピソードはありますか?

家入:レコーディングでは麦野さんにボーカルディレクションをお願いして、いろんなアドバイスをいただきました。麦野さんは相手を信頼した上で、伝えることを怖がらないスタンスの方で。相手に何かを提案するってすごくエネルギーを使うことだと思うんですけど、麦野さんはそこに愛を持って向かい合える方なので、初対面の斎藤さんにもいろんな角度からディレクションされていて、それを受け取る斎藤さんもどんなディレクションにも果敢に挑戦する懐の深さと真摯さを感じました。この曲ってピッチもリズム感もJ-POPっぽくない部分があったりして、かなり難しいんですよ。でも斎藤さんが歌っているのを聴いた時に、曲の難しさなんて忘れてしまう、心に触れられるような体験をして。「こう歌えばいいんだ」という気づきも多かったです。そうしてレコーディングに立ち会わせていただいて「もっと上手くなりたい」とか「もっといい歌が歌えるようになりたい」とシンプルに思えることが嬉しかったですね。

――「Oh oh」というフェイクの部分が聴きどころだなと感じました。

家入:嬉しいです! どの部分が褒められても嬉しいですけど、私が出したメロディなので。なのに変な話ですけど、最初はそのフレーズを歌いこなすのが難しくて。

――言葉が乗ってないのに、メロディがあれだけ上下したら難しいですよね。だからこそ歌い手の力の見せ所だなと思って聴いていました。

家入:難しいので、斎藤さんも歌おうとした時にメロディがわからなくなった瞬間があって。そしたら「ちょっと待ってください。ギターありますか?」って、スタジオにあったギターを手にして、それをタラララッと弾くことで確認したんですよ。「そっかそっか、これ半音か」「じゃあもう1回お願いします!」ってブースに戻って……私にはできないスタイルだなと思いました。

――カッコいいですね。普段からそうされているんでしょうね。

家入:それもすごく自然で、本当にギターがお好きなんだろうなと思いました。歌い手でもあるけど、やっぱりギタリストとしてもカッコいいなと思わせられるレコーディングでした。

家入レオ 撮り下ろし写真

弱さから目を背けず、水をあげ続ける大切さ

――「Mirror feat. 斎藤宏介」の制作を通じて得たものや手応えはいかがですか。

家入:新しい境地に行けたので、Sakaiさんと麦野さんと今後もご一緒したいなと思っています。私がプリプロで歌っているのを聴いたSakaiさんに「もうちょっと等身大の歌い方もありかな」と言われて。というのも私、わりとレコーディングやライブ前にルーティーンがきっちりあるタイプで、筋トレして有酸素運動して声出しして体幹バキバキにしてから本番に向かうんですよ。でもそうすると、やっぱり歌いながらファイティングポーズを取ってるような印象をどこか聴き手に与えているのかもしれないな、と。それが10代、20代前半だったらいいかもしれないけど、もういい意味でいろんなことを経験してきているから「もっと肩の力抜いてみたらいいんじゃない? 座って歌ってみたら?」って言われたんです。座ると腹式呼吸が使えなくなるから自分的には絶対やらないんですけど、それをやってみたら……なんていうのかな、語ってるような感じで歌えて。そのスタイルで歌った時に、スタジオにいたスタッフさんやマネージャーさんも含め、みんなが「これだよ!」って。自分でもそう思いました。例えば、好きな人とお出かけに行くってなった時、お洒落するのもいいけど、部屋着みたいなリラックス感もいいよねっていう感じかな。どっちも曲によって使い分けることができるようになった経験は大きかったなと思います。

――聴いてくださる方に向けてどんなメッセージを込めましたか。

家入:この数年、悩んでいる時にあまりに大きな希望を見せられたりすると、逆に生きる力が湧いてこないことがあって。未来に向かって走っていこう、明るい10年後が待ってるよ、なんて言われても、なんかリアルじゃないというか。それよりも、週末に友達とどこかへ出かけるとか、恋人とご飯を食べに行くなんていう身近なこと――希望にもなりきれていない小さな光の方が、私を明日に送り届けてくれるきっかけになったと思うんです。〈綺麗事だけじゃどうにも救われないけど〉なんて歌詞もありますが、光にもなりきれていない光なんですけど、これが今の私の最大限の煌めきです。この曲を聴いてくれた人がそれを希望として受け取ってくれたらいいなと思います。

家入レオ 撮り下ろし写真

――シングルのカップリングには「ラブレター」が収録されています。「Mirror」という重厚なテーマの楽曲と並んでこの曲を収録した意図はどういうものでしたか。

家入:「ラブレター」は音源よりも先にライブで披露して育てていた楽曲です。この曲は配信で(2023年10月に)リリースした「BINKAN」という曲をBLUE ENCOUNTの田邊(駿一)さんに書いていただいたのと同じタイミングで聴かせてもらっていて。その時はまだ歌詞はフルコーラスできていなかったんですけど、男の子が女の子のわがままに付き合ってあげているような歌詞の内容が好きで「この二人をもっと見たい、歌いたい」って言ったら、田邊さんが「いいよ、じゃあ書くよ」と言ってくれて。ずっとライブで歌ってきて、ライブ音源もリリースしていたんですけど、ちゃんと形にしておきたいなと思って今回カップリングに入れました。

――「ラブレター」をファンの皆さんの前で初めて歌われた時の反応はいかがでしたか。

家入:私がリリースの予定もない新曲をライブで初披露することがこれまでなかったので、シンプルに喜んでくださったことが嬉しかったです。これからもライブで育てて行きたい曲ですね。

――今回こうしてシングルをリリースされますが、リスナーの皆さんに今の家入さんの心境の変化を感じていただけるんじゃないかなと思います。

家入:そうですね。30歳になり、気持ち的にもすごく楽になりました。自分の生き方や本当に大切にしたいものが定まってきた感覚があります。これまでは欲しいものに向かって頑張って、それを手に入れたら、もう次の瞬間には違う地点を目指していたところがあったんですけど、今あるものをもっと豊かにして、もっと深く知りたいと思うようになったことが一番の変化です。だからこそ、もっともっと曲を作りたいし、もっと味のある自分になりたいと思っています。

家入レオ 撮り下ろし写真

――10月24日からは埼玉・戸田市文化会館を皮切りに、全国ホールツアー『家入レオ TOUR 2025 ~bulb~』が開催されます。どんな内容になりそうですか。

家入:「bulb」って球根という意味で、なかには毒がないものもあるんですけど、例えばチューリップの球根には毒があるんですね。SNSで情報が飛び交う社会に生きていると、土の上に出ている“花”にしか目にいかなくなっちゃってるけど、実は土の下にあるものって弱さだったりコンプレックスなのかなという気がしていて。今、表舞台とかいろんな場所でキラキラしてる人たちって、きっともともと自分の中にあった弱さから目を背けずに水をあげていたから、花を咲かせることができたんじゃないかなと思っています。私はコンプレックスも人一倍あるし、毒もたくさん持っているけど、そこに水をあげ続けたら、いつか花を咲かせることができるんじゃないかなって。わりとここ数年は、アルバムを携えてハートフルなツアーを行うことが多かったんですけど、綺麗事じゃなく音楽の中では何でもありだと思っているので、ちょっと生々しくて毒も感じられるようなライブをお届けできたら。アルバムのリリースツアーではないツアーも初めてなので、今の私が届けたいものを楽しみにしていただけると嬉しいです。

■リリース情報
家入レオ
デジタルシングル「Mirror feat.斎藤宏介」
2025年10月8日(水)リリース
配信:https://jvcmusic.lnk.to/Mirror_feat.KosukeSaito
※2025年11月26日(水)発売のシングル『Mirror』収録曲

家入レオ オフィシャルHP

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる