2025.10.07 19:00

大橋ちっぽけ、音楽人生の青春を刻むEP『Youth』　アコースティックで向き合う“過去”と“今”、そのすべて

新しいことをどんどんやっていくし、まだまだ感動できる心を持っている

――清竜人さんの「痛いよ」は、とりわけ思い入れが強いそうですね。

大橋：中学1年生の頃に“歌ってみた”動画をアップして、ボーカロイド曲のカバーから音楽活動を始めました。やがてアコースティックギターを始め、ニコニコ動画でカバー配信もして。そのなかで中学1、2年生の頃に出会ったのがこの曲。最初は原曲ではなく弾き語りカバーを聴いて練習し、配信で歌い始めたのがきっかけでした。『Youth』は自分の音楽の青春を位置づける作品で、カバーは切っても切れないルーツ。最近はがっつりカバーすることも少なかったので、今回入れられて良かったです。

――振り返りつつ、今のモードでやってみたと。

大橋：そうですね。清竜人さんは本当にリスペクトしていて、ひとりのアーティストがいろんなことをしていいんだと教えてくれた方。弾き語りから始めた僕が、アルバムごとにいろんなことを試すようになったのもその影響が大きいです。「アイドルの曲も作っていいんだ」と思えて、実際に提供するようにもなりました。自分らしさを残しつつ、アイドルらしさを堂々と入れられたのは清竜人さんの曲から学んだことです。

――10代の頃に聴いた時と比べて、この楽曲への印象は変わりましたか？

大橋：「痛いよ」は男性の失恋、好きな人へのもやもやした気持ちを繊細なファルセットで歌い続ける曲。そのインパクトに中学生の自分は強く揺さぶられました。大人になってからも聴き続けていますが、その時々で響き方が変わります。レコーディングでは当時の気持ちを思い出し、目を閉じて初期衝動を確かめるように歌いました。大橋ちっぽけになる前の歴史とも自然に結びついた感覚があります。

――最後の「Goodbye My Youth」は、親密さと広がりを併せ持つとてもいい曲です。オリジナルの新曲でもありますが、どんな経緯で生まれましたか。

大橋：デモの段階から「これからの自分を示す曲を入れたい」と提案しました。上京してから同じ場所に長く住んでいましたが、昨年末に引っ越して。人との別れもあれば、都心へ移って仕事に向き合う決意もある。荷造りを終えて見上げた空や、「これが最後なんだな」と街を見つめた感覚を残したかったんです。新しいことが始まる時の寂しさと、すっきりした清々しさが同居している曲です。

――ご自身の体験から生まれた曲でもあるのですね。

大橋：僕は踏み出すのが本当に苦手で、ずっと同じ場所に住んでいました。「引っ越したい」と言いながら、何かを変えたり始めたりするのが苦手で。そんな自分が踏み出せて、踏み出せた自分をまず愛したいと思えました。何かを伝えるというより、あの時のすっきりした気持ちを形として残したかったんです。

――なるほど。

大橋：別れもあったけれど、それも未来につながる意味のある別れだったと思うし、これからの出会いにワクワクした自分、そう感じられる自分を大切にしたいな、と。自分の心が腐っていないことに感動もあって。EPにこの曲が入ったことで、未来が開けていく。新しいことをどんどんやっていくし、まだまだ感動できる心を持っている。僕はネガティブな人間ですが、未来への希望を諦めていない――その気持ちをここに残せたこと、最後に入れられたことが意味を持ったと思います。

――この曲が入ることで作品としてまとまり、完結する感じもします。実際、リリースされている曲はずっと住んでいた部屋で書いたものが多い？

大橋：そうです。今世に出ている曲の大半は、お別れを告げた街で生まれました。

――そうした曲たちを振り返る気持ちもありますね。ノスタルジックというか。

大橋：そうだと思います。

――だから、今はすっきりしている？

大橋：自分のあらゆる青春、それは音楽に限らず、人生の青春時代を過ごした街には本当にいろんな思い出があって。駅前も道も、「こんなことを思いながら歩いたな」「あの人と一緒にいたな」と、日記のように曲へ記しました。結果としてポジティブなメッセージを持つ曲になって良かったです。過去を振り返る曲でも、ポジティブに終われる曲はあまりなかったので。

――なるほど。

大橋：この曲は27歳になってからのリアルタイムの自分が書きました。最新のモード、気持ちが素直に反映されていて、未来へのポジティブな気持ちでEPを締められたのがメッセージでもある。5年後に聴き返した時、このEP自体が自分の青春としてメモリアルになると思います。この気持ちを残せた意味は大きいです。

――本当にそう思います。音楽的にもひとつのセッション感があって、作り込みすぎていない。弾んで次に行く雰囲気が出ています。ただ、同じ街に7年ほど住んだとのことですが、10年、20年と同じ街に住む人もいますよね？

大橋：そうですね。

――でも大橋さんは新しい街へ行った。そこで次を志向する気持ちが生まれたと。

大橋：僕は踏み出すことが本当に苦手で、引っ越しだけでなく人との関わり方や声をかけるかどうかでも悩むタイプ。「こういう曲をやってみたい」も言えず、人とやりたいことがあっても踏み出せない。そういう自分を受け入れ始めていたところもありました。でも昨年、マネジメントやチームが変わり、関わる人も変わった。新しいアイデアをくれる人が現れ、いろんなスタイルのライブをやるようになり、出会いも増えた。新しい視点は人生を大きく変える、と強く感じたんです。踏み出せないのは弱さであり、人生のもったいない部分でもあるのだと。

――そしてついに踏み出した。

大橋：はい。踏み出すことができました。踏み出せない自分へのコンプレックスからの脱却というか。人生的な意味も含めてポップに歌い切ることで、聴く人によっては新生活のスタートの歌にもなると思います。僕自身も、変わりたいけど変われなかった部分から解き放たれていく感覚があります。まだ一歩目ですが、踏み出せた自分にはきっと良いことが待っていると思える。そのこと自体がうれしいし、希望を持ってこのEPを締められて良かったです。

――まさにそういう曲ですね。11月には東京・大阪でのワンマンツアーも控えていますが、今後はどんな活動をしていきますか。

大橋：曲はいろいろ作っていて、アルバムを出せるように動いていこうという話もあります。初めてフィーチャリングも経験し、ライブのサポートメンバーと一緒に曲作りをすることも増えました。ひとりでやり切る楽しさもありますが、今後はいろんな人との関わりや、これまでやってこなかったことに挑戦したいなと思っていて。今はとてもポジティブに捉えられているので、そういった曲がいろんな形で世に出ていくと思います。その最初の一歩としてのEPになった気がします。